講師(宗夜)ブログ
●口切りの茶事 其の一
霜月の最終日曜日
よし庵にて令和6年の口切りの茶事が催されました。
茶壺のお茶に、本年の収穫の感謝を表し、来年の豊作への祈りを捧げるお茶事です。
平和であるからこそ持つことのできる特別な時間。
ご参加くださったお客様は、ほぼ社中の生徒さんです。
皆さま一年前からご予約くださり、この日をとても楽しみにお待ちいただいておりました。
お正客から
『どうぞお茶壺の拝見を』
とのご所望を受け、亭主が床に向かいます。
網を外して口緒も取ります。
口緒をぐるりと反時計回りに取るさまは、まるで時を巻き戻しているかのよう。
いにしへの茶事に想いを馳せます。
亭主は一度水屋に戻り、『お茶壺日記』を持ち出します。
お茶壺日記には茶壺に収められたお茶名が記されています。
・濃茶三種
・薄茶一種(詰茶)
日記を貼り付けている板は、茶壺を守っていた木箱の蓋。
この蓋に毎年貼り足して貼り足して重ねていきます。
年々お教室の歴史を刻む大事な板となっていくことでしょう。
その後に亭主は葉茶上戸を持ち出し、封印を確かめてから、小刀で封を切っていきます。
しっかりと封をされているためか、合口は固い様子。
2巡目でようやく口が開きました。
蓋を外すとふぅわりと葉の瑞々しい香りが広がりました。
『いずれの茶を差し上げましょうか?』
との亭主の問いに
『では大宗匠お好みの、松雲の昔を』
とお正客がお答えになりました。
作法に則って濃茶の袋を取り出し、詰茶と共に挽屋に入れて、再び封をして亭主の印を押し、壺を拝見に出します。
宗嘉先生の美しい手捌きと、一年に一度しか目にしない茶道具や作法を、皆さまは真剣にご覧になられていました。
この後に、初炭手前・懐石料理・続き薄茶、となります。
お茶壺の拝見が、心躍るお茶事の幕開けとなりました😊🏺🍃
●真之茶事
10月末の日曜日『真之茶事』がよし庵にて催され、社中の生徒さん5名さまがご参加くださいました。
『真之茶事は初めてなんです💦』
ドキドキしながらお集まりくださった皆さま。
『大丈夫ですよ。身内の催しですから😊』
とご案内しました。
最初はぎこちない自己紹介からスタートしました。
社中の仲間とは言え全員が顔見知りというわけではありません。
お稽古曜日ごとにメンバーがそれとなく決まっているのでした。
しかし、よし庵の生徒さん達の社交性はさすがであります。
しばらく言葉を交わすうちにすっかり打ち解けました。
この時に話題に上ったのが
『日本の伝統文化をいかに後世に繋いでいくか』
雑談は熱を帯び…
。。。。。。。。。
●多少は形が変わっても良い。
●時代と共に文化の形態が変わるのが恒である。
●どんな形でも良いからとにかく文化を繋いで行きたい。
●次世代の中には真髄を知りたいと思う方もおられるだろう。
●そのような方に難解なものを継承できればいい。
。。。。。。。。。
と全員の気持ちがひとつなったところで、宗嘉先生の精進料理が運ばれてきました。
ところで前回の6月の真之茶事では本筋に則って開催しました。
。。。。。。。。
真之炭手前
↓
菓子七種
↓
真之行台子
↓
一の膳(精進料理)
↓
二の膳(懐石料理)
↓
薄茶
。。。。。。。。
しかし余りにも時間が掛かり過ぎ、ご参加の皆さまも、開催者側も、疲労困憊したのでありました。
疲れてしまっては後味もよろしくなく、何のために開催したのか、お集まりいただいのか、その意味がぼやけてしまいました。
厳かな雰囲気を保ちつつも、時代に合わせた形に変える必要があるだろう、と宗嘉先生と相談して今回は正午の茶事形式を取り入れたのでした。
結果は大成功!
前回よりも時間が短縮されたことで双方の負担が減り、ご参加の皆さまも最後までにこやかでいらっしゃいました。
それにしても、やはり伝統文化は素晴らしいと改めて思うのでした。
着物や茶道を始めたのは30代の初め。
カッコ良さそうだから始めた
お菓子が食べられるから始めた
その程度。
始めてみたら難しくて驚きました。
なかなか覚えられなくて
下手で
恥をかいて
たまに嫌になって
でも辞めたいとは思わなくて
いつの間にか生活の一部となって
そして気が付いたら次世代に継承する立場になっていました。
私たちはプロもアマも関係なく、この文化が無くなって欲しくないと真剣に思っています。
誰かに強制されて伝統を繋いで行こうとしているのではありません。
なぜだか理由は分からないけれども、心の底から突き動かされるような自発性を持って、周りと協力しながら繋いで行きたいと切に願っています。
単なる趣味ではここまで気持ちが入らないでしょう。
伝統文化だからこそ、ここまで熱が入るのだと思われます。
そしてここまで熱が入った人だけが『自分のものに出来た』と言えるのではないでしょうか。
この日
私たちは同じ気持ちを持ちながら、とても心地の良い時間を過ごしたのでした。
宗嘉先生のお料理はどれも身体に優しく美味しいものでした。
。。。。。。。。。
(一の膳)
向附・・粟麩のみぞれ和え 甘長唐辛子
汁椀・・八丁みそ仕立て 里芋 オクラ
煮物椀・・蓮根しんじょ椀 湯葉 三つ葉
焼物・・大根の香味焼き
強肴・・胡麻豆腐
湯斗・・らっきょう茶漬け えごまの葉 あおさ 梅肉 ぶぶあられ
香の物・・沢庵 なす 赤かぶ
(二の膳)
向附・・まぐろと鯛の平造り
椀盛・・いかの印籠煮 焼き豆腐 ほうれん草
焼物・・ぶりの海老みそ焼き アスパラ しいたけ
強肴・・しめじの海苔酢
箸洗い・・梨
八寸・・たたみいわしのクリームチーズ挟み焼き かぼちゃ素揚げ
菓子(七種)
◆練り切り「すずめ」
◆蒸し菓子「栗とラム酒の浮島」
◆蒸し菓子「薯蕷まんじゅう(松茸)」
◆「栗きんとん」
◆冷やし菓子「金時羊かん」
◆干菓子「栗の押しもの」
◆果物「梨」
。。。。。。。。。。。
●粟麩のみぞれ和え
もっちり、時々つぶつぶの粟麩が大根おろしと共に和えられています。両面が香ばしく焼かれて満足感のある一品
●蓮根しんじょ椀
まるでつくねのような味わい。
これが蓮根とは!
もっちり、時々サクサク。
すりおろした蓮根と、賽の目切りの蓮根の共演です。
●胡麻豆腐
宗嘉先生の手作りの胡麻豆腐。
わさびを添えて。
胡麻がたっっっぷり。
葛粉でもっっっちり。
身体を温めてくれる女性の味方。
●らっきょう茶漬け
らっきょうも宗嘉先生の手作り。
さっぱりと口が濯がれます。
●まぐろと鯛の平造り
当日の朝に宗嘉先生がさばいてくださった新鮮なお造り。
丁寧に臭みを取り除き、旨みが凝縮されています。
一口々々、皆さまは本当に喜んで味わってくださいました。
美味しい
楽しい
嬉しい
このような言葉が出る場に神様がいらっしゃるに違いありません。
お椀を手に取るごとにふわりふわりと皆さまは優しい笑顔を浮かべておられました。
その後…
宗嘉先生のお点前。
魂の込められた厳かな時間。
はっきりと道を照らしてくれる師が世に何人存在するでしょうか?
稀有な存在に巡り会えた幸せを、皆さまと共に温かく胸に抱きつつ…
神無月の真之茶事が締めくくられたのでありました。
●実りの秋茶会と自己ブランド化
9月の第4日曜日
よし庵にて実りの秋茶会が開かれました。
この日も気温は31℃。
湿気もたっぷりで、湘南は朝からむぅ〜っとした空気に包まれておりました。
無理なく薄物をお召しくださいとお伝えし、私自身も絽を纏いました。
定刻には皆さま爽やかな笑顔でお集まりくださいました。
様々なお色のお召し物。
薄物でありながら初秋を思わせるお色味…
さすがであります😉⭐️
カジュアルな茶会ですので、ざっくばらんに様々な話題で盛り上がりました😆😊😄
途中でふと
『あー!大人って楽しい!』
という話になり、
。。。。。。。。。
・本当に楽しい
・大人がこんなに楽しいなんて20代の頃には想像もしなかった
・若い頃よりも今の方が精神的に自由
・むしろ今の方が夢がある
・現実が見えてきたから無駄な緊張がなくなった
。。。。。。。。。
と虹色のシャボン玉のように次々と言葉が弾けました。
なんだろう…
なんで今の方がこんなに楽しいんだろう…
あ!おしゃれだ!
年齢を重ねた大人のおしゃれを私たちは知ったからだ!
着物のおかげで。
と、私の中で答えが出たのでした。
画家のバルデュスは
『日本人女性の身体は着物が似合うように出来ている』
と断言し、節子夫人にはスイスでも着物の装いを求めたそうです。
骨格の作りや、筋肉の付き方、動き方が日本人に合っていると画家はプロの目で分析していたのでした。
合っているものに出会えるか、出会えないかで人生の味わいが変わってしまう。
出会えた私たちは幸運だと思いました。
そんなことを思いながら帰宅後にYouTubeで動画を眺めていたところ、
『プラダを着た悪魔』
がピョコッと出て来ました。
ああ、見た見た。
アン・ハサウェイ可愛いかったなぁ。
2006年か。
もう18年も前か。
懐かしくなって紹介動画をいくつか眺めていました。
すると、公開当時とは自分の目線が全く異なることに気付いたのでした。
公開当時は私は30代前半。
精神的に20代を引き摺っていて、アン・ハサウェイ演じるアンドレアに共感しました。
(いじめられて可哀想)
メリル・ストリープ演じるミランダには興味も持てず、『ひどいわぁ』とアンドレアに同情していました。
それが、アラフィフになるとガラリと変わってミランダの視線になりました。
確かにデビルかもしれない。
けれどもどうだろう…
このカッコ良さ!
アンドレアが面倒見の良い先輩ナイジェルに泣きつくシーン。
ナイジェルはアンドレアを突き放します。
『目を覚ませ、サイズ6ちゃん。彼女は自分の仕事をしているだけだ』
30代前半にはその真意が分かりませんでした。
ミランダの仕事とは…
美を生み出すこと。
独りよがりの美ではなく
確実に売れる美を生み出すこと。
つまり雇用を生み出すこと。
利益を出して社員のお給料をきちんと支払うこと。
彼女がGoサインを出せば、売り上げを待つ前に何億という金が先に動いて、一斉に生産ラインがスタートする。
失敗は許されない。
その重みが分かるかい?
ナイジェルの台詞が、今の私にはこのように響きます。
年齢を重ねた女性の持つ美しさと品格。
コートとバッグをぼーんとデスクに投げるのは例外です。あれは良くないです。
ファッションを愛する人のすることではない。
それでもつい惹かれてしまうのが最初の登場シーン。
ミランダが来るとなると、和やかな雰囲気が一変して戦闘モードに。
ドタバタとスタッフが緊張してデスクを片付けたり、ヒールの靴に履き替えたり。
大変だ、大変だ💦
だけど、もしミランダがいなかったら?
ダラダラと時間の区切りがなくなり、スタッフの服装はダサくなり、誰も憧れなくなり、売り上げも急降下。
どの業界も社員のブランド化に社運が掛かっているのかもしれません。
つまり、ミランダは守護神。
憤怒の明王と言えます。
明王はたいてい炎を背に怒っている。
怠けないように怒っている。
そんな風に思いました。
そしてもう一つ。
20代や30代の先頭に立ってリーダーであり続ける難しさも、今の私には理解できます。
20代・30代(40代前半も?)は、アラフィフから見ると視野が狭く感じられます。
その年代、その年代に特徴があって成長段階がありますから、それで良いのです。
でも、それこそ50代になったら全体の利益・不利益に考えが及ばないと仕事で成功することは出来ません。
それを言葉ではなく、外見と風格で相手に納得させているのがミランダです。
垣間見れる日々の努力。
若い女性でも疲れるヒールを事もなげに履いています。
徹底した体重の管理と筋肉を落とさないエクササイズがその姿を可能にしています。
本当は足が痛いはず。
疲労もあるはず。
でも微塵も弱みを周囲に感じさせない。
ここが格好良い。
私たちにとってミランダに代わる存在が、着物です。
着物で生活していた時代には、ミランダのようなビシッとした女性が多かったのではないかと想像します。
着物は、重い・暑い・苦しい・難しい・そして美しい。
制約も多いけれど、やはり美しい。
着物自体が美しいので、人間の方が努力して着物に合わせて行動します。
よし庵には
『よっこらしょ・どっこいしょ』
などと声を上げる女性は一人もおられません。
しかし、もし私が着物に出会っていなければどうだろうかと想像しました。
茶道にも出会っていないし、そうなると『どっこらしょ』と声が出ていたかもしれません。
太りやすい体質なので今よりも大きなお尻になっていたかもしれません。
着物を着て毎日正座をするから、嫌でも自分の体重を意識します。
着物と茶道のおかげで自己ブランド化の日々を過ごせています。
『水は低きに流れる』
という諺があります。
楽な方に流れるのは簡単だという意味の諺です。
本当にその通りだろうと思うのです。
ただ、ストイックになり過ぎるのも避けたいところ。
人間性が失われては本来の魅力も半減してしまいます。
そんな時は『お喋り』時間を設けて元気をチャージ!
よし庵ではこれからお茶会の開催日を増設する予定です。
女性の5つのお愉しみを満たすお茶会を目指しています。
・おしゃれ
・おしゃべり
・ランチ
・スイーツ
・抹茶
今回のお茶会も、宗嘉先生のお料理は身体にじんわりと優しく美味しいお献立でした。
。。。。。。。。。
《実りの秋茶会献立》
さわらのしば漬けあん添え
バターナッツかぼちゃのすり流し
ほたての黄身酢がけ
お茶漬け
主菓子:小萩
。。。。。。。。。
残暑厳しき折ではありましたが、味覚から秋を感じたひと時でございました。
今後もより多くの皆さまと愉しい時間を持てましたら誠に幸いに存じます。
12月初旬にクリスマス茶会を開催予定です。
宗嘉先生のクリスマス創作料理をどうぞお楽しみになさってくださいませ🎅🎄
●文月之茶事
7月の最終日曜日
よし庵にて続きお薄の文月之茶事が催されました。
今回はこぢんまりと3名さまのご参加。
テキストなどでは大抵お客様が3名ですので、今回が王道といったところでしょうか。
それならば、お客様のお作法に集中していただこうと考え、お点前は全て工藤が行いました。
皆さまにはよし庵公認のテキストを茶室にご持参いただき、ページをめくりながら進行に合わせてお作法の確認をいたしました。
。。。。。。。。。。。
●淡交社『イラストでわかる茶懐石のいただき方』
。。。。。。。。。。。
工藤は今まで色々な本を購入しましたが、上記が最も分かりやすくまとめられていてお勧めです。
茶事では同時進行でたくさんのことに気を配りますため、何かに気を取られると間違える可能性があります。
私にとってこの本は頼れる同僚のような存在です。
皆さま、お料理と談話の合間にテキストをご覧になられ、これはこれでリラックス出来るお茶事でございました。
宗嘉先生のお料理もゆったりと味わっていただけたようでした。
。。。。。。。
《文月之茶事献立》
・向附:すずきの造り、水玉胡瓜、赤梅肉
・汁:合わせみそ かぼちゃ
・御飯:みょうが御飯
・椀盛:もずく入り卵豆腐、海老、椎茸
・預鉢:滝川豆腐
・焼物代わり:白身魚の米粉揚げ
・箸洗い:とうもろこし
・八寸:鴨のロースト、なすの煮浸し
・香物:たくあん、きゅうり、大根
・菓子:練り切り『桃』
干菓子『胡麻チュイール』
。。。。。。。。
●向附:すずきの造り、水玉胡瓜、赤梅肉
プリプリで新鮮なすずきのお造り。
光の当たり方によって虹色に表面が輝きます。余分な水分は一切なし。
旨みが凝縮されているのは丁寧な下拵えのしるし。
目にも涼やかな水玉胡瓜と共に、赤梅肉でさっぱりといただきます。
●汁:合わせみそ かぼちゃ
赤味噌強めのこくのあるお味噌汁。
真ん中には夏のお野菜、かぼちゃが鎮座しております。
蓋を開ければお味噌のいい香り。
塩味がかぼちゃの甘みを一層に引き立てて…。
先人が繋いでくれた発酵の技に感謝の一椀です。
●御飯:みょうが御飯
最初は一文字飯で、飯器の持ち出しにてみょうが御飯をお出ししました。
ほんのり出汁醤油の味付けにて、シャキシャキとしたみょうがの食感と共に御飯をお楽しみいただきました。
『なんでだろう。大人になるとみょうがって本当に美味しいのよねぇ!!』
『うん、うん☺️☺️☺️』
激しく同意。
●椀盛:もずく入り卵豆腐、海老、椎茸
『わぁ、きれい』
丸い椀に四角い卵豆腐
海老と椎茸が絵画のモチーフのよう。
まずは香りを楽しみ、その次にお汁を楽しみます。
ふわりと鼻に優しく抜けるお出しの香りと旨み。
もずく入り卵豆腐は、きれいな四角い形をギリギリに保つ柔らかさ。
口に含めば瞬時にホロホロともずくが解けます。
卵豆腐は出汁の旨みをたっぷりと吸い、卵の旨み甘みと共にもずくが磯の香りも届けてくれるのです。
海老はシコシコと甘く絶妙な食感。
椎茸は噛むと向こうの方から山の土の香りがやって来る感じ。
山の中の少し湿った土の香り。
海に囲まれ、尚且つ山がちな日本の自然を一椀で表現したような一品でした。
●預鉢:滝川豆腐
ん?イクラが乗っているのかな?
ノンノン☝️
タピオカをパプリカ色素で色付けしてみました。鮮やかでありながら豆腐の穏やかな風味を邪魔しません。
わさびの風味でつるりと…。
清流を想起させる爽やかな小鉢。
●焼物代わり:白身魚の米粉揚げ
サクッと軽い米粉揚げ。
夏野菜も米粉揚げ。
暑い夏。野菜からも元気をいただきましょう。
バジルソースを添えました。
バゲットに見立てた油麩にはチリソースを乗せて洋風に。
●箸洗い:とうもろこし
薄味のお汁にとうもろこしを数粒浮かべました。
お口を程よくクレンズして夢から現へと心も整えます。
●八寸:鴨のロースト、なすの煮浸し
鴨は茶懐石では海のものと捉えられいます。柔らかくローストしました。
なすの煮浸しは一晩掛けて、たっぷりと汁を吸わせてあります。
飾り包丁で綺麗に表面をお化粧。
じゅわーっと旨みが広がります。
●香物:たくあん、きゅうり、大根
湯桶と共に、香物をいただきます。
するすると喉を滑る柔らかな湯。
やや白く濁り、表面がところどころに千切れたお米の粒々が漂います。
私たち日本人は、赤ちゃんのときに離乳食としてお粥の上澄みをいただきます。
他国の方からは『味がない』と思われてしまう、お粥の上澄み。
上澄みから始まって、10倍粥、7倍粥、5倍粥、全粥と、1年をかけてゆっくりゆっくりと米に慣れていきます。お母さんは本当に大変。
毎回手間が掛かります。
でもその手間により、舌の味蕾(みらい:味のセンサー)を潰さず、ほんの少しの微妙な味わいを愉しむ味覚が育ちます。
香物は糠漬け。
お米の糠を発酵して作られる漬物。
糠…。現代であれば捨ててしまうでしょう。よほど食べるものに困らなければ目に食材とは映りません。
自分たちのルーツを確認するかのような茶懐石のお料理。
年齢と共に愛情を持って心が傾く日本料理の数々。
今回も美味しゅうございました。
宗嘉先生の心尽くしのお料理。
皆さまに存分に味わっていただき、その後のお点前へと続きました。
千鳥の盃のあたりで、工藤は下火を入れ始め、お料理の終了の後に炭手前をいたしました。
お正客さまには所々でお道具を亭主に訊ねていただきます。
亭主が釜を紙釜敷に置いたあたりから問答が交わされます。
。。。。。。。。
正客:緘は
亭主:寒雉でございます
正客:羽は
亭主:鴻鶴でございます
正客:火箸は
亭主:浄益でございます
正客:炭斗は
亭主:網代籠でございます
正客:灰器は
亭主:黄瀬戸でございます
正客:灰匙は
亭主:浄益でございます
正客:どうぞ香合の拝見を
亭主:(お辞儀)
正客:どうぞ風炉中拝見を
亭主:(お辞儀)
・・・風炉中拝見・・・
・・・薬罐による水足し・・・
・・・亭主水屋に下がる・・・
・・・客の香合の拝見・・・
・・・亭主入室、風炉清め、蓋を切る・・・
正客:お香合は
亭主:八角形螺鈿香合でございます
・・・茶道口にて主客総礼・・・
・・・主菓子持ち出し・・・
。。。。。。。。
●お菓子:練り切り『桃』
可愛らしい桃の形の練り切り。
中には本物の青い桃、若桃が包まれています。
桃の搾り汁が混ぜられた練り切りは、薄いピンクと白い生地とのグラデーション。
繊細な手仕事を思わせます。
お菓子をお召しあがりの後に、床などの拝見を済ませて、腰掛け待合に移動。そして後座へと移り、続きお薄のお点前となりました。
今回はお正客さまの本来のお役目をたっぷりとお願いすることが出来ました。
特に炭手前ではお道具を訊ねるタイミングが大切なポイントです。
これらはご自身が炭手前をよく知っていることが肝要となります。
お正客さまは、何度も亭主役をなさられて、よくよくご存知でいらっしゃいました。
客と主の滑らかな問答が見せ場。
『一座建立:いちざこんりゅう』を体現したようなお茶事となりました。
お次客さまは初々しく。
御詰は風格あるベテラン気質でお任せができました。
夏の暑い一日。
季節の輝きを一枚切り取ったようなお茶事となりました。
●真之茶事
水無月の最終日曜日
よし庵にて真之茶事が催されました。
梅雨空の合間を縫うようにところどころで薄日が差し、ちょうど良い具合に腰掛け待合でのお時間と重なりました。
空模様を気にしながらのお茶事。
自然と寄り添う私たちの生活そのもの。
どんなお天気もそれなりの美しさがあることを気づかせてくれます。
よし庵での真之茶事は実に5年振り。
正式な真之茶事の流れそのままに行いました。
席入の仕方や炭手前までは同じ。
異なるのは炭手前の後に和菓子をいただくことです。
正午の茶事では茶懐石となるところ、真之茶事ではすぐに和菓子が供されます。
真之茶事では和菓子は七種。
(七種!)
すべて宗嘉先生の手作り。
七種の全てが製法が異なります。
と、いうことは…
お菓子を作る技術も、最低でも七種は身につけておかねばなりません。
亭主を名乗るには、大変な修練を必要とすることを和菓子が私たちに語りかけているようです。
宝石のように麗しい和菓子。
お写真はフォトグラファーの太田真弓さんが撮影してくださいました。
菓子(七種)・・・・・・・・・
◆練り切り「ぷちダリア」
◆蒸し菓子「浮島」
◆蒸し菓子「水無月」
◆焼き菓子「栗まん」
◆冷やし菓子「緑茶羊かん」
◆冷やし菓子「みるく水まんじゅう」
◆干菓子「琥珀糖」
・・・・・・・・・・・・
その場ですべて味わいたいところですが…
時間的にも難しいので、2〜3種をお選びいただきます。
残りは工藤の方で陰で箱詰めをして皆さまにお渡ししました。
その後に宗嘉先生による真之行台子のお点前の披露。
しんと静まり返ったお茶室。
皆さまの目が宗嘉先生の一挙手一投足に注がれます。
明瞭に道を照らしてくれる師は、世の中にそう多く存在しません。
限られた時間を惜しむように、皆さまは宗嘉先生のお点前をしっかりと目に焼き付けておいででした。
その余韻を味わいつつ、腰掛け待合に移動。
しばしの休憩を経て
精進料理、精進落とし、懐石料理、千鳥の盃と進みます。
。。。。。。。。
向附・・刺身こんにゃく
汁椀・・三色そうめん 青かえで麩 みょうが
煮物椀・・豆腐とかえで麩の信田巻き煮 春菊
香の物・・きゃべつのミルフィーユ
焼物・・さわらの西京焼き
向附・・鯛の造り 生野菜 胡麻だれ
椀盛・・結びキスの葛叩き 笹竹の子
預鉢・・牛肉の味噌和え
箸洗い・・へぎ青梅
八寸・・らっきょう漬け イカの一夜干し
。。。。。。。。。。
美しいお料理の数々。
旬の恵みを宗嘉先生が美味しく調理してくださいました。
いくつかお味の紹介をいたします。
《精進料理》
●向附:刺身こんにゃく
ん?イカ?と思ったらこんにゃくでした。適度な弾力と歯応え。
細切りのきゅうりと茗荷が酢味噌と添えられています。
薄切りのこんにゃくでこれらの香味野菜を巻いて酢味噌を付けていただくと、とても美味。
●汁椀:三色そうめん
やさしい味わいのお出汁に三色のそうめんが揺らぎ、つるりと喉をすべります。
茗荷の香りがアクセント。
●煮物椀:豆腐とかえで麩の信田巻き煮
豆腐?言われなければ豆腐とは気付きません。滑らかな舌触りは白身魚のすり身蒸し煮を思わせます。
青かえで麩を中心に、滑らかな豆腐が油揚げでぐるりぐるりと渦を巻かれ、その油揚げがたっぷりと旨みを含んでいます。
じゅわ〜と溢れ出すおいしさ。
●香の物:キャベツのミルフィーユ
きらりと光るネーミングのセンス。
程よくシャキシャキ感の残る浅漬けキャベツの爽やかなミルフィーユです。
若緑の色合いが美しく食感の楽しい一品でした。
《懐石料理》
●向附:鯛のお造り
丁寧な下処理にて旨みを引き出した鯛のお造りです。
生野菜と胡麻だれが添えられていました。胡麻だれには切り胡麻を使って食感と香りを際立たせています。
●椀物:結びキスの葛叩き
キスがこのように美しく結ばれているお椀を初めて拝見しました。
葛でつるりとお化粧されて中央に鎮座しております。
肉厚の椎茸が花笠のように添えられ、笹竹の子がお椀のバランスを引き締めています。
デザイン画を思わせる一品。
ふわり柔らかいキスの結び。
深い溜息が出るようなお椀でした。
宗嘉先生のお料理は素材の旨みを最大限に引き出しているものばかり。
手を加え過ぎず、優しいお味が身体と心をじんわりと温めます。
召し上がり終えましたら、腰掛け待合に移動し、少しの休憩。
その後に宗嘉先生による台子薄茶点前にて一服お召し上がりいただきました。
本式通りのたっぷりとしたお茶事。
大人になったなら本物を知っておきたい。
大人のための大人の時間でした。











