◆歴史は身分証明

「歴史と文化を学ぶ会」理事長 結城 順子

 

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歴史を学び始めると、多くの世界が広がります。

今まで知らなかった世界、気づかなかった世界が見えてくることもあります。

 

 

歴史は身分証明

このあいだあるアジア人女性と話をしているときでした。

その女性は、日本人と結婚していて、日本語がよくわかります。

 

私の方から、この群馬の地は、1,500年前の昔から、古墳が作られ、

古墳には多くの副葬品があり、また古墳を作るには、多くの労働力を組織し、

土木技術も必要だったことを話していた時、

そのアジア人女性が、ふっと寂しい顔立ちになるのを発見しました。

 

彼女の曰く

「日本って、長い歴史があって、いいですね。

私の国には、それに匹敵できるような歴史も伝統もありません。

あなたがしゃべる歴史の話を聞いていると、自分には、うらやましくてうらやましくてたまりません。

1500年前に自分の国にはなにもありませんでした。」

 

その時、私もはたと気が付きました。

そうだ、歴史って、自分たちの身分証明なんだと。

 

縄文の時代には、私たちの人口は16万人と言われ、

紀元前2世紀ごろには10万から20万人と言われ、

西暦200年ごろ卑弥呼の時代には50万から70万人を数え始めたと云われています。

 

卑弥呼の時代の人たちも、私たちと同じ血が流れている日本人です。

つまり私たちの祖先です。

 

大いなる遺産

先祖が古墳を作った技術は、そのまま私たちの祖先に受け継がれ、

水田のための「ため池」「隧道」「水路等」に生かされ、

また水害から水田を守る堤防の土木工事にも生かされ、

私たちの生きる基本であった日本の農業を支えてきました。

 

これは大いなる遺産です。

 

或る時、大阪の博物館で、弥生時代、私たちの祖先が使っていたタコを獲る「タコ壺」を見ました。

タコ壺は、漁師が海底におとして、その中へタコが入ってきて捕獲されるわけです。

日本では、もう弥生時代に、タコ壺漁を始めていたんですね。

それは連綿と現代まで続いているわけですが。

 

タコ壺.JPG

 (タコ壺 大阪近つ飛鳥博物館展示)

 

このタコ壺漁を、ある日本人がアフリカの人たちに教えました。

モーリタニアという大西洋に面した砂漠の国です。

この砂漠の国には、鉄鉱石がたくさんあり、昔から鉄鉱石を海外へ輸出して、外貨を稼いでいました。

輸出のトップを占めるのが、鉄鉱石でしたが、

今はタコ壺漁をはじめとする海産物が、輸出のトップに躍り出ました。

1960年この国の独立当時、誰も予測できなかったことです。

タコ壺漁を教えた日本人Nさんは、モーリタニア国から大勲章を授与されました。

 

例をあげればたくさんありますが、これも大いなる遺産です。

 

遺産と言うと、すぐにでも出てくるのが、金銭的な遺産、

あるいは不動産としての遺産を思い浮かべがちですが、

冷静に考えてみると、祖先が残してくれた文明の足跡、

これこそ本当の日本の遺産であろうと私は思っています。

この遺産の確立があったればこそ、1945年終戦の焼け野原からの立ち直りがあったのだと私は思っています。

 

先祖が残してくれたこの文化的な遺産、

これを大事に学び、継承していくことこそ、

また日本の新しい未来につながることだと信じています。