講師(宗夜)ブログ
●着物との出会い
着物との最初の出会いは7歳の頃。
七五三です。
お化粧してもらってピンクの着物を着ました。
草履には鈴が付いていて、歩くたびにチリンチリンと涼やかな音が鳴ります。
その後で着たのは成人式。
母が着せてくれました。
成人式の後は…、出産後しばらく経ってから。
母が遺してくれた着物が気になって気になって。どうしても着物が着られるようになりたいと無性に思っていた時に、スーパーの貼り紙が目に止まりました。
『着もの教室』
え?着もの教室?
スーパーの裏手にある共同スペースで着物を教えているとのことでした。
着物教室、どうしても行きたい。
でも自分一人では心細い。
先生が怖かったらどうしよう。
そこで
『この人なら一緒に行ってくれそう』
と思えるママ友に声を掛けて誘いました。
『あら!実はあの講師、私の母よ。』
なんとそのママ友のお母様が先生でした。
『じゃあ私の家でやりましょう。私も母から教わりたかったんだけど、親子だと喧嘩になってダメなのよ。ちょうど良かったわ。』
と誘ってくれました。
着物を着るのがどれだけ大変かということは分かっていました。
幼い頃に母が練習している姿を見ていましたし、成人式で着付けてもらった時の思い出もあります。
しかし、見るのとやるのとは大違い。
そもそもお道具が多いのに驚きました。
えー、こんなにお道具が必要なの?
風呂敷に抱えると、重い。
一回着ただけでもぐったり。いやはや…。
こんなに疲れるの…?
着付けの本も色々読みはじめ、実家から引き上げた数冊の本をペラペラとめくると…
母の自筆のメモがはらりと舞いました。
私と妹の成人式の着付けをするために書き記した自筆のメモでした。
鉛筆で、懐かしい弱めの筆跡。
あまり体力のない女性でしたので筆跡も弱かったのです。
ビッシリと、細かい字で、絵も描いて。
泣きました。
着物は難しい。
ややこしい。
でも、だからこそ、生まれる物語がある。
簡単だったら泣けなかった。
魂は震えなかった。
難しくて、ややこしくて、面倒くさい、着付け。
まるで日本人の気質そのもの。
そして真面目で愛おしい。
●着物の『畳む』文化
毎晩着物を畳む度に、この畳む文化はすごいと感心しています。
折目正しく美しく。
なんて合理的なのだろう。
私は帰宅後、1〜2時間着物を干した後に必ず畳紙(たとうし)に仕舞います。
着物のことをよく知らなかった時には、洋服のように何日も干しっ放しにしていました。
すると裾のところが、弛んでしまいました。
着物は重いので、その重みでハンガーから布が下がってしまったのです。
袷の場合、着物の内側と外側では伸縮率が異なるので、重力にも繊細に反応したようです。
考えが足りませんでした。
単衣や薄物の干しっ放しは、弛みはなかったものの、裾に斜めのシワ線が入り、美しさが減じてしまいました。
着物は生き物なのだと思いました。
ひと手間が必要。
干して終わりではなくて、畳むことで美しさが維持できるのです。
省スペースで、省エネ。
重力が自然なアイロン作用を生みます。
この着物を畳む文化。
公私をきちんと分けることが重んじられた身分の人々の間で、大いに発展したことでしょう。
日本の国土は、今でさえ75%が山地です。
山地は急峻な地形のうえ、平地はぬかるみが多く、すぐに服装が汚れてしまいます。
都に上洛する際、おそらく途中移動は平服で過ごし、人口の多い都市に入る前に綺麗な服装に着替えたのではないかと思います。
人口の多い都市には、至る所にスパイが潜んでいますし、民衆の評判も落とすわけにはいきません。いつ何時もパリッと格好良くしておかないと、地位を落としかねません。
そのような折に、この平面に畳める着物は非常に効率的です。
ひと手間。
機械の力で強烈に折るのではなく、温かい手で優しく撫でて畳む。
だから、着物の折り目は柔らかい。
優しい女性の気質にぴったりです。
はい、今日もお疲れ様でした😌🤲
●私の補正
上半身のシワを出来るだけ取りたい、それが私の補正方法を見直すきっかけでした。
それでいて、考えない着付けにしたい。
考えると、疲れます。
疲れると着物を着たあとの仕事が出来なくなって、次から着物が嫌になってしまいます。
着付けの動作は出来るだけシンプルにして手足に覚え込ませて、なるべく脳を休ませています。
そのために道具の力に頼っています。
私の着付け道具は、自分仕様にカスタマイズしています。下の写真は私の腰紐、胸紐です。
赤い方が腰紐。青い方が胸紐。
違いは長さです。
結んだ後の始末がラクになるように長さを変えています。
中央の刺繍糸の印は、紐の真ん中を示しています。体に回した時に、必ず紐の真ん中がくるように着付けをします。
そうすることで失敗が減ります。
下は補正具です。
補正もなるべくルーチン化して、考えなくても出来る補正にしています。
《私の補正》
①メッシュ構造の補正具で腰の凹みを埋める
②胸の周りの小さな凹みを麻布で埋める
③麻布6mで、下腹から胸(鎖骨下)までを巻く
④東レのフィールドセンサーの補正ベストを着る
上の写真が私の補正具です。
麻布は巻き物のようにギューっとぐるぐる巻きにしています。巻き物のようにすることで、シワも付かず、箪笥の中に綺麗に仕舞えます。
体に巻きつける時にも隙間とシワがつきません。その上に着る襦袢を綺麗に着ることができます。
この補正は、あくまで自分のためのものです。
生徒さまにはご希望の方のみにお教えしております。
麻布6mは、鎖骨下から寛骨までを覆うので慣れていないと呼吸が苦しくなります。
慣れればカッチリとした固い土台となり、着崩れを防げます。
右側の東レ、フィールドセンサーの補正ベストは生徒の皆さまにもお勧めしています。
これは私の中では大ヒット商品でした!
湿気を逃し、よく乾く、シワにならずに手間要らず。一晩で乾きますので、毎日洗って毎日身につけています。
背骨の凹みも埋めてくれるし、人間の体をよく考えて作られている商品だと感心しました。
同じ形で、綿素材や麻素材もありました。
綿は熱がこもって私には不快でした。
麻は毎日のアイロンが大変で閉口しました。
結局このフィールドセンサーに落ち着きました。
今のままの技術でも、補正具や紐を見直すだけで、着付けがぐっとラクになります。
皆さまのご参考になりましたら幸いです。
●私は麻が好き。寒がりさんには綿がオススメ。
美しい着姿に欠かせないのが補正。
私は自分の補正素材は『麻』と決めています。
腰紐も胸紐も麻素材です。
麻は丈夫で、水分の蒸散作用にも優れています。長い時間身につけていても、汗を吸った後も、表面はサラリとした冷却感があり、更年期の私にはありがたい存在です。
麻にはキリッとした緊張感があり、何度洗濯を重ねても、ヨレヨレしません。
ここが私の一番好きなところです。
何度洗っても布目がよく通るので摩擦が掛かりやすく、着崩れを防ぎます。
麻は3mくらいの背丈の草。
その茎の繊維から麻布は作られています。
水や養分を吸い上げる役目をする繊維ですので、布に形を変えた後も汗をよく吸ってくれるのです。
麻の生育には、日本の土壌が適しています。
昔は日本の土地のほとんどが湿地や沼地でした。
麻はこの湿地帯を好みます。
麻と日本人との付き合いは古く、縄文時代から麻素材を身に纏ってきたと言われています。
手もかからず短期間で真っ直ぐに育つその様に、人々は単なる素材という概念を超えて神聖さを感じてきました。
今でも、神事には麻が欠かせないと言います。
着物の柄の『麻の葉』は、健康や繁栄を意味しますし、しめ縄や鈴緒なども麻素材です。
大相撲力士の最高位、横綱だけが締めることを許されている化粧まわしも麻素材です。
日本で生まれ育った私たちが、日本の気候に適した麻を好むのはとても自然なことなのでしょう。
『麻』に目覚めるまでは、私は綿素材を用いていました。綿100%も悪くないと思っていました。
私が以前通っていた着付け教室でも、綿の晒しや、綿のタオルを補正に用いていました。
綿は吸水性と保温性に優れています。
湿気が着物の中でこもって熱に変わるからです。
綿花を撚って糸にしているので、糸自体がふんわりと空気を含んでいます。
その隙間に、汗を溜め込み、糸を大きく膨らませて空気の流れを遮るので、熱も湿気も逃げないのです。
綿花の栽培は、熱帯や亜熱帯と言われています。
日本では江戸時代中期ころから栽培が本格化しました。綿の生育には、日本の気候は寒すぎたり、雨が多すぎたりするので、農家はとても苦労したようです。
綿の表面はしっとりとしていて肌に優しい。
寒がりさんには心地よい素材でしょう。
麻素材と、綿素材。
ご自身の好みに合わせて選んでいただけるといいと思います。