大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-09-24 19:48:00

dive79

 宴会が和やかに進んでいく。白龍さんに李家と青龍寺のつながりを聞いてみた。すると、

 「私の先祖があの石の作用で病になった時のことです。病になった娘はその村の村長の娘でした。村長はほうぼうの街の医者に訪ね歩いたが病は治らずに困っていた。そしてあきらめかけて村に帰る途中にあったある麺料理屋に寄ったとき、そこの店主に石をいただいて飲ませたところ、たちどころに治ったそうです。その時に青龍寺に行けと言われたらしく、娘の完治後に青龍寺の龍恵和尚を訪ね、娘は寺で修練することになりました。娘は数年後、術を会得し、村に帰り一族のものに伝授していった。今でもその村には秘術を守り続ける一族が住んでおります。私の先祖はその子孫の一人で、2018年までの日本に、悪の元凶を絶ちに救世主『王藍生』が現れるという言い伝えを受け、日本に移住してきた。私の代になり、いつ来るのかと待ち遠しく思っておりました。」

 その話を聞き、麗華と目が合い、驚いた。

 「あなたが、あの人の子孫なのね!娘さん、いや、ご先祖さんは助かったのね。よかったわ。心配していたのよ。つい、ひと月ぐらい前の話よ。」

 麗華のその言葉に、白龍がびっくりして

 「え!最近の話なんですか?」

 「そうですよ。李さんに会ったのはひと月くらい前で日本に着いたのはついさっき、陳さ・・・いや赤龍さんに電話したちょっと前です。ところで黄龍さん藍の話を・・」

 「そうでしたね、これもやはり運命と言わざるをえないでしょうが、あなたのお孫さん、藍君はもうすでに李家とつながりがあります。藍君には妹さんがおりまして、その妹さんが例の石によって病になってしまったのです。妹を救うために治療法を探しているのを私の教え子の医師から聞き、もしやと思い、李家の村のことを教えました。どことなく言い伝えの『王藍生』に似ていたものですから。そして李家に伝わる治療薬、つまり石ですね、を手に入れ、妹を助け、同時に新しい麺潜師にスカウトされました。彼は今、化学系の会社で潜るためのダイバースーツを開発しています。術も訓練中です。血筋ですかね・・・とても誠実ないい青年ですよ。」

 「あの時助けた李家の子孫に、今度は私の孫が助けられたってことか。白龍さん、黄龍さん、長い付き合いになりそうですね。孫を助けていただいてありがとうございました。これからも彼らをよろしくお願いいたします。」

 さっきからしゃべりたくてしょうがないという感じの陳さんが黄龍を押しのけて話し出す。

 「守山さん、あの日、あの後どうなったんですか。私もあの日あなたに会った人物として色々聞かれましたよ。」

 「陳さん、申し訳ない。あれから横浜駅の宝石店に行って、家に帰ろうとホームで電車を待っていた時に、突然タイムスリップして1840年の成都に行ったんだ。それから・・・・」

 五龍たちに今までのいきさつをすべて話した。そしてなぜ王藍生という名にしたかも。そして行徳が2018年に何かを起こすことも。その前に止めなくてはならないということも。

 「藍生さん、あとで写真を何枚か取らせてください。麗華さんも、美雨さんも。こちらで暮らすにあたって身分証明書がないと不便でしょう。後で手配しておきますので。」

 黒龍さんが申し出てくれた。そう言い懐から四角く、平たい板切れのようなものを触っている。そうだ聞いてみよう。

 「ところで皆さん、ちょっと聞きたいのですが、皆さんが先ほどから持っている、その板切れのような機械は何ですか。町でも見かけたのですが。」

 「守山さん、そういえばあの頃はなかったね。これはスマートフォンと言って電話ができる携帯型コンピューターですよ。」

 なにーーー、携帯電話なんて、なんかニュースで見たような記憶が。なんか、ショルダーバッグみたいなやつだったはず。進化ってすごいな。ついていけるかな。貸してもらったスマートフォンを見てびっくりしている両横から熱い視線を感じる。お前も田舎者の仲間じゃったか、と言いたくて仕方がない二人のニマッとした顔は行徳よりも恐ろしかった。

dive80に続く・・・

 

 

2020-09-22 14:31:00

dive78

 「陳さんが、なんでその名前を知っているの?」

 「それはこっちのセリフだよ、藍生。ずっと一緒に働いていたあなたが、あの王藍生だなんて。なんで言わなかったんだ。」

 なんだか、話が見えない。

 「あなたが王藍生ならば、すべてお話ししましょう。私たちの親のもっと前の世代、此処に中華街ができた当時、料理屋や問屋、貿易商など中国人たちを束ねるリーダーがいました。その人の名は李白龍、四川出身の料理人でした。李さんの一族は四川省の青龍寺とつながりが強く、『未来の日本に王藍生という救世主がやってくる。』という言い伝えを信じていた。その者が来たら青龍寺の和尚に知らせ、丁重に世話をし、協力するようにと言われている。今ではこの中華街を治める五龍会の長たち、5人だけがこの教えを受け継いでいる。五龍とは王を守る5体の龍を意味し、私はそのひとりで料理界の赤龍。あとリーダーの白龍は李家の子孫、青龍は青龍寺出身者の子孫、医師の黄龍、暗部を取り仕切る黒龍がいる。私たちはそれぞれを取り仕切り、皆を守っている。にわかには信じられないが、こうなったら五龍会の長たちを集めそこで判断してもらおう。それでいいですか。」

 おいおい、いつの間にか、私が『伝説の救世主』になってるぞ。えらいことになっちゃったな。青龍寺に電話したかっただけなんだけど。あっちも驚いただろうけど、私だって陳さんがそんなにえらい人になっちゃっていたとは、思いもしなかったよ。まあでも、こっちに来てあてもないし、息子たちに近づくと巻き込みそうだから連絡取りたくないしな。この人たちに世話になっておいた方がよさそうだな。麗華たちも、半分中国のここの方が住みやすいだろうし。

 「じゃあ、まずは長老たちに逢いましょう。陳さんよろしくお願いします。」

 陳さんの計らいでとりあえず今日のところは五龍会の仕切るホテルに泊まれるように手配してくれた。そして夜にはそこの最上階にあるレストランで長老たちと接見し食事をしようと言うことになった。麗華たちも、くたくたなので時間までホテルで休ませてもらうことにした。

 ホテルに着くとまずは、風呂に入った。麗華と美雨にシャワーやふろの使い方を教えてやると、とても喜んですぐに入った。シャンプーやリンスなんてなかったから、教えたら興味深々だった。ホテル仕様の分厚いタオルに驚いて、本当にこんなものを使って体を拭いていいのか聞いてくるぐらいだ。そういえばこっちで新しい服、買ってあげなきゃな。陳さんに頼んでみようかな。風呂から上がった二人の髪をドライヤーで乾かしてやると、毎度ながら魔法でも見るような目で見ている。髪も体もさっぱりしたら、すぐに三人とも寝てしまった。真っ白いシーツとふかふかの枕にちょっと緊張していた二人だったが、やっぱり疲れたんだろう。

 プルプルプル、プルプルプル、電話の音で目が覚めた。3時間も寝ていたのか。陳さんからの電話で30分後に最上階の『成都』という四川料理のレストランへ来てくれと言われた。麗華たちを起こし、準備するように言った。まあ、準備と言っても髪を結うだけだけどね。髪を結った麗華は、美雨に守護の念を込めてもらった銀の髪飾りと腕輪をつけ戦闘態勢だ。

 三人でドキドキしながら最上階に行くと、そこは大きな窓から港町の夜景が見える素敵なレストランだった。奥の個室に通されたが、どうやらここが一番いい部屋らしく先ほど見た場所よりさらにきれいな夜景が広がっている。二人ともはしゃいでいたが、ここが地上からかなり高いところにあるということがわかると窓から離れた。そうこうしていると部屋に5人の男が入ってきた。一人は先ほどの陳さん。いや赤龍だったな。てことは、これが五龍か。この人がリーダーかなと思われる男が話し出した。

 「赤龍から聞きましたが、あなたが王藍生さんだと。詳しい話を聞かせてほしいのですがよろしいですか。とりあえず座りましょうか。まずはお茶でも。」

 そう言うと、ウェイトレスがお茶を用意した。

香りのいいお茶だ。甘い香りがする。これはあれだ。和尚の好きな。

「これは蒙頂甘露ですね。龍仁和尚が大好きだったお茶です。」

三人とも久しぶりのに四川のお茶を飲んでほっとしていた。しかし五龍は龍仁和尚の名前を聞き動揺している。追い打ちをかける様に美雨は

「でもこれはちょっとあの頃のものより甘味が弱い気がします。」

 と言って五龍をけん制。さすが心を読める女は強い。何か試されているなと感じたのでこちらから正直に言ってみた。

「青龍寺の方の子孫の方は・・・」

 そう言うときれいな藍染めのネクタイを締めた男が応えた。

「私が青龍です。龍仁和尚のことは聞いています。」

 ちょっと攻めてみた。

「そのネクタイは青龍寺の藍ですね。どなたの子孫ですか。どことなく一青に似てますが。」

「一青・・・・その名は先祖の幼き頃の名。ではあなたが山を下りるたびに・・」

「ええ、下の街でお土産にお菓子を買ってあげてました。いつも畑で泥だらけでしたよ。」

 すると、横にいた黄色いポケットチーフをした男が、

「私は黄龍。あなたは日本人ですよね。日本名は?」

「守山藍生です。」

「守山藍生・・・ご家族に守山藍という一文字違いの方が見えますか。」

「え!そ、それは私の孫です。孫に何かあったのですか。」

 今度は真っ黒なシャツを着た怖そうな男が

「で、あなたはここへ何をしに来たんですか。」

なんか、尋問が激しくなってきたのではっきり言ってやった。

「龍仁和尚、王さんの仇、行徳を倒しに。」

その言葉を聞くと五龍が一斉に立ち上がり後ろに並び出した。そして跪き、手を合わせ言った。

「先ほどまでのご無礼、謹んでお詫び申し上げます。以後あなた様の手足となり、御使命を果たされるまで尽力いたします。この五龍以下中華街のものすべてがあなた様に協力いたします。私共を救済に来ていただき心より感謝しております。」

 おいおい、青龍寺に電話したいだけなんですけど・・・どんどん話が大きくなってきてるんですけども・・・・あの黒い人ほんとに怖かったんですけど・・・

 白龍さんがウェイトレスに言付けをし料理が運び込まれてきた。先ほどまでと雰囲気ががらりと変わり和やかに食事会が始まった。急に敬われて威厳を保ちたかったが、先ほどまで澄ましていた二人が人の分まで食べようとしていたのを見て苦笑いをするので精いっぱいだった。

dive79に続く・・・・

 

 

 

 

2020-09-21 20:09:00

dive77

 行ったり来たりを繰り返し、ついに中華街にほど近い、石川町駅に着いた。現在2時半、11時ぐらいに根岸の駅に着いてから3時間余りを電車移動に使ってしまった。たった5,6分の移動のはずが、長旅になった。3人ともぐったりだった。お昼時もとうに過ぎ腹ペコでの移動は心を弱らせる。とぼとぼと中華街へと続く裏道を歩き大通りの交差点へ。ここを渡って高校を過ぎればそこはもう中華街。さっきまでのほとんどがグレーのビルと違い、極彩色の建物が、所狭しと立ち並ぶ異空間が広がる。世界を区切る入口には善隣門と書かれた真っ赤な門が人だけでなくモノノ怪の出入りを見張っている。何というか『腹いっぱいになるまで返さねーぞ』と言っているような大きな口を開けて、飲み込んでいるようだ。そんな門に飲み込まれるように、よろよろとした三人が入っていく。門をくぐると大きな声の売り子たちが次々と現れる。香ばしい香りを漂わせる揚げたての芝麻球(ゴマ団子)、湯気をもうもうと上げる蒸籠の中には、生肉包(豚まん)、豆沙包(あんまん)、叉焼包(チャーシューまん)がつやつやの真っ白い肌で私たちを呼んでいる。こんな誘惑に負けている場合じゃない。陳さんを待たせている。早くいかなくちゃと思っていると二人がいない。麗華は天津甘栗の甘い匂いにつかまっていた。試食に満面の笑みだ。美雨は焼売の試食の列に並んじゃってる。

「麗華、美雨、早く行くよ!もうすぐそこだから。そっちに行ったらご飯食べるから。」

「藍生~~だって、この栗すごく甘いんだよ~。ちょっと買っていこうよ。」

「藍生!あと3人です。あと3人待ったら、次私ですから。それからでいいでしょ。」

何も聞こえないふりをして二人を引きずっていく。

「藍生!妻をなんだと思っているの?もっと甘やかしてよ。」

「藍生!あなた、いつからそんな鬼になったの、そんな風に育てた覚えはありません。」

ぎゃーぎゃー、あんまりうるさいから

「今から行くところは、ものすごくおいしいんだよ。だから腹ペコで言ったほうがいいと思うんだよ。薬膳もあるから美容にもいいんだよ。」

「早く言いなさいよ。」

「行きますわよ。ふん!焼売なんてみんなに譲ってあげますわよ。」

誘惑につかまりそうな気持をぐっとこらえて少し歩くと着いた、そうここが私が勤めていた「桃園酒楼」。懐かしいと言いたかったが、建物が大きく、新しくなっていた。扉も2重扉になって高級感が増している。入るとすぐにチャイナ服のお姉さんが案内に来る。お姉さんは私たちの格好を見て少し怪しんでいた。そうか気が付かなかった。私たちあの町でも一番よさそうな服を着てきたつもりだったが、まごうことなき本物のチャイナ服。そんなの着ている日本人なんていないもんね。

「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか。」

「すいません、陳オーナーに会いに来たのですが、守山藍生と言います。」

「あ、はい、伺っております。今オーナーをお呼びいたします。」

そう言って内線電話を掛けている。電話口で私たちの身なりのことを聞かれているようだった。あーー!陳さんまだ疑ってるな。しょうがないか。でも22年前に失踪したあの頃46歳だったおじさんがこんな若くなって現れたんじゃ、疑うのも無理はない。そう諦めかけていたら、本人が降りてきた。うわーーー!お爺ちゃんだ。

「久しぶり、陳さん、お爺ちゃんになったね。」

「あなた本当に守山さん?そんな若いのおかしいね?守山さんの息子、いや孫?」

「違うよ、本当に本人だよ。ちょっと、頼みがあって来たんだ。ここでは話しにくいから・・・」

そう言うと個室に連れて行ってくれた。そして、中国人特有のあいさつが飛び出した。

「あなた、ご飯食べた?」

ありがたい。中国ではあいさつ代わりに「吃饭了吗?」(ご飯食べた?)と言われることが多い。空腹が一番よくないということから相手を気遣う一言だ。実にいい挨拶である。

「まだです。朝から何も食べてない。」

というとすぐにいろいろ手配してくれた。出てきたものはどれも美味しく3人とも一言もしゃべらず黙々と食べた。陳さんが満足そうにしている麗華を見て、娘か?と聞いてきた。すると

「王 麗華と言います。藍生の妻です。この度は本当にありがとうございます。」

それを聞いた陳さんが急に慌てだした。びっくりして、私を見ながら

「藍生?あなたもしかして、王 藍生なのか?お前が、あの青龍寺の王藍生なのか?」

満腹状態の3人は慌てる陳さんをよそに食後のお茶をゆっくり楽しんでいた。

dive78に続く・・・・

 

 

2020-09-19 14:11:00

dive76

 改札ゲートの一件で意気消沈の麗華をホームのベンチに座らせて、今から行く中華街という場所について二人に教えておいた。中国大陸勢力と台湾勢力の話をしようとすると、あの後の中国の歴史を話さなければならないから面倒くさい。清国が終わるなんて知らないだろうからな。国民党と共産党なんてどうやって説明すればいいんだろうと思いながら

「あの後、清国は日本や西洋諸国に食い物にされたりして滅んで行くんだ。最後の皇帝溥儀は日本によって建国された満州国の皇帝になるがソビエトに滅ぼされ、後にできた中華人民共和国の満州族代表になる。清国の後にできた中華民国という国民党の袁世凱という人物が建てた漢民族の国『中華民国』ができたが、それに反発する共産党の毛沢東たちに国を追われ、国民党は台湾に敗走する。現在は共産党による『中華人民共和国』俗に『中国』という国になっているため、大陸勢力と台湾勢力は今でも仲が悪い。台湾も私たちのものだという共産党と国を返せという国民党。しかし台湾にはもともとの住人達もいたため、国民党一色にはならないという問題もある。そんな問題が此処日本の中華街の中でも行われている。今から行く中華街とは横浜港が開かれ、西洋諸国やアメリカとの貿易の時に通訳など仲介のために雇われた中国人が、此処に住み始めたのが最初で、1920年代から飲食街として発展してきて今に至る。最初に中華街ができたころは大陸勢力が強く、町を牛耳っていたが、その後というか私がいた時代は台湾勢力の方が強くなり、大陸勢力は山の上に追いやられていた。中華民国、中華人民共和国、それぞれに建国記念日(国慶節)があるが、大通りの店に旗が建てられるのは台湾(国民党)の方が多いのが現状。まあ、ざっとこんな感じだ。」

「へぇーーー、清にいたころからいつもそんな感じだったよ。私たち庶民はその時々の支配者たちと「うまくやる」しかないのよ。日本もそうでしょ。国も町も同じ。すべては支配者たちの欲。あなたが申し訳なさそうにすることはないわ。」

美雨の反応は意外だった。こんなに霊力を操ることができる彼女なら、不老不死や長寿を欲しがる支配者たちから重宝されるに違いないと思ったからだ。

「そうね、昔からそういう輩が私を利用しようとしてきたわ。だから同じところに長くは住むことができなかったの。孤独になるわけでしょ。あなたたちと会った街もそろそろ限界だったの。私のことを知らない時代、国に来られてうれしいくらいよ。それに、そんな者たちに加担したら心穏やかに暮らせないでしょ。そんな人に自然界は力を与えない。そんな力は、闇のモノの力よ。」

また、心を読まれてしまった。まあ、隠すようなことは何にもないけどね。

 ピロリロリーーーン!と曲が流れ、電車が来ますとアナウンスが聞こえた。確かあの時代の中国にまだ鉄道はなかったはず。初めて見る電車に二人とも目を丸くしている。停車して扉が開く。車も驚いただろうけど、馬車はあったからそれほどでもなかったようだが、こんなでかい箱から人がぞろぞろ降りてくるのを見て、ちょっと引いている。じっと入口から中をのぞいている。ぷしゅーーー。扉が閉まった。今度は二人とも固まっている。一本乗り過ごした。仕方ない。石川町までわずか5,6分。こりゃ、タクシーの方がよかったかな。しかし、何事も経験だ。一度覚えれば、この後、一人でも乗れるようになる。

「落ち着け、みんな乗ってただろ。怖くないから、大丈夫。ただの乗り物だから。」

麗華の息が荒い。目の前に立ち、両肩に手をやり、一緒に深呼吸を繰り返す。瞳孔が開き切ってる。だめだこりゃ。さっきまで冷静だった美雨はどうだ。こっちは両目をつむって、なんかの祈りをはじめちゃった。

「麗華、麗華、いいか、次の電車に乗るから私の腕につかまってなさい。電車とホームの間に落ちないように気を付けないといけないよ。美雨、祈らなくてもいいから、何も襲ってこないから、大丈夫だからね。美雨も反対側の腕につかまって、ね!」

ピロリロリーーーン!また曲が流れる。電車が来た。扉が開いてみんなが降りてくる。さあ!乗るぞ。前に進むが、腕が、腕が前に進まない。ぷしゅーーー。2本目も行ってしまった。中華街が遠い。

「藍生!歩いていけばいいじゃない。そんなに遠くないんでしょ。」

「いやいや、麗華逃げちゃダメ。これぐらいできないと日本で生きていけないよ。」

「じゃあ、もう帰る。清に帰る。」

「美雨、何とか言ってあげて」

「藍生!この国は何かおかしいです。今から祈りを捧げます。」

うわーー、美雨もかよ。もうこうなったら、最後の手段だ。

「そうか、うん分かった。帰るか。でもさあ、麗華、電車に乗ったら、もっと可愛くなっちゃうんだけどな。残念だな。可愛くなった麗華見たかったな。きっとすごくかわいいんだろうな。もったいないなぁ。美雨ももっときれいにになっちゃうんだけどな。しょうがないか。うんじゃあ。でもな・・・」

「藍生!本当ですね。その話。」

「そんなに藍生が見たいって言うのなら、妻として、頑張らなくてはなりませんわ。美雨姉さまよろしくって。」

「仕方ありませんね。藍生がそこまでお願いするなら、わたくしも祈る前にちょっと乗ってあげてもいいですわ。」

ピロリロリーーーン!三度目の正直!電車が来た。二人がひきつった笑顔で腕にしがみつく。ドアが開いて人が降りてくる。さあ!腕に痛いぐらいしがみついて前に進む。下に気を付けて、恐る恐る何とかまたいで乗った。汗びっしょりの二人を座席に座らせる。

やっと乗れたことで気を許してしまったのがいけなかった。気が付くと横浜駅、石川町などとうに過ぎていた。

dive77に続く・・・・

2020-09-18 20:23:00

dive75

 たどり着いたのはいいが、此処が何処なのか調べないと。近くで地図を見るには、うーーん、あ、そうだコンビニだ。中国生活が長かったせいか日本を忘れ気味だ。あれ?あの人手に四角い板もって話してる。あれはなんだ。20年以上たっていると浦島太郎状態だ。あれ?二人がいない。どこだ!探してみると二人で床屋の赤と青のグルグル看板を見て不思議そうに見ている。

「藍生!これはどうなっているの?下からどんどん出てきて登っていくのに天井まで行ったら・・・」

「ああ、これは理髪店の看板、サインポールっていうんだけど。あれ世界共通らしいけど知らないか・・・回ってるの止めるとただの棒だよ。」

って説明しても一生懸命中をのぞいている。コンビニに行くからついて来てとサインポールから引きはがすように連れていく。コンビニの前の太い通りの標識に16号線のマーク。あれ、ここってもしかして横浜。向こう側にある道路案内標識には真っ直ぐは本牧ふ頭、右は根岸駅って書いてある。やった、わかるぞ、ここは横浜市磯子区だ。昔、この道をバイクで走った覚えがある。そうだ、電話だ。青龍寺に電話してみよう。財布の中に・・・あった。これ使いたくなかったんだよな、斉藤由貴のテレホンカード。でも現金使いたくないしな。財布の中に聖徳太子がいてよかったな。でも電話番号どうやって調べれば・・・あんまり考えてなかった。どうしよう。このままでは、三人で野宿だぞ。うろたえる私を見て二人が落ち着かない。

「どうしたの?大丈夫?」

心配そうに聞いてくる。自分の国に連れてきておいてオロオロしてどうするよ。何か、つてが・・・そうだ中華街、陳さんだ。あの日、最後に石川町の駅で別れたあの陳さん。そうだ店に電話してみよう。恐る恐るテレホンカードを入れる。さらば斉藤由貴よ。

「あの、厨房の陳さんお願いします。あ、陳英明さんです・・・え、オーナー、陳さんが?ああ、そうですか。じゃあその陳さんお願いします。私は守山藍生です。」

待っている間に今度は二人が電話を見て

「あなたは何と話していますか?」

と聞いてくる。麗華は私がおかしくなったのではないかと心配している。そう言っている間に相手が出た。

「あ、陳さん、久しぶり、私です。守山です。元気?」

「あなた誰ですか。守山さんは死にました。私をからかっているのですか?」

「いや、守山です。本物です。信じてください。」

「本物だという証拠を見せてください。できるわけないでしょうが。」

「証拠?証拠と言われてもなぁ。あ、そうだ。いなくなる前のあの日、帰り道で陳さんと話したでしょ。孫が生まれるって。私の名前から一文字とって、藍っていう名前だって。」

「え、あなた、なんでその話を知っているんですか?・・・本当に守山さんなんですか?」

「やっと、わかってもらえましたか。あの、今ちょっと困っていて、それで、今から会いに行ってもいいですか。」

「そりゃぁいいに決まってる。本当に藍生なのか?店はわかるな。表から入って来いよ。」

そう言われて、すぐに中華街に向かった。看板通りに根岸駅にむかい、電車で石川町に。改札を見て私も初めて見てびっくりしたが、前の人が何かをピッとかざすとゲートが開く。なんだろあれ、お上りさんのように三人が眺めてる。何とか切符は買った。自販機の進化というものに驚いたが、二人に悟られないようにするのに必死だった。ゲートを通るだけなのに緊張が走る。まず私が手本を見せる。切符を入れて、通り抜け、切符を取る。長老、70歳の美雨は何とかスマートに通ってきた、成功だ。成功体験は自信につながる。この時代でも私やれるという自信だ。さあ、麗華、心配なのはこいつだ。ドキドキしているのがはた目にもわかる。切符を入れる口を眉をひそめてみている。あちゃー、後ろが閊えてきた。後ろを見て慌てる麗華。頑張れ麗華。泣きそうな目でこっちを見ている。後ろのみんなが麗華をにらみながら他のゲートへ移動していく。

「加油!麗華!」(がんばれ!麗華)

思わず大きな声で叫んでしまった。力が入る。私の声にうなずき、ようやく切符を差し込み口に入れる。機械に吸い取られてびっくりして、ひーー、と悲鳴を上げる麗華。手招きをしてこっちへと促す私。走って駆け寄る麗華。半べそをかいて抱き合う二人を見てよかったとうなずく美雨。しかし、無情にもゲートはブザーを鳴らし私たちをあざ笑う。まだ電車にも乗ってもいないのに、すべてやり遂げたと思って感動している私たちを、最新鋭のゲートがベロを出して私たちを見下すように、麗華の取り忘れた切符を排出していた。まるでお前たちにはまだ早いと言っているみたいに。

dive76に続く・・・

 

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