大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive89
姉さんは言った。
「风告诉了我。」(風が教えてくれたの)
「诶?什么?」(えっ?何が?)
「风啊」(風よ)
よくわからなかったので聞いてみると、姉さんには周りにある自然の力の流れ、それが風に乗って流れている動きが見えるのだそうだ。それは、人の思いによっても動くらしい。だから僕が、打とうとした気持ちに反応した力の流れが見えたというか、感じたのだそうだ。もう何を言っているのかよくわからない。姉さんは続けて教えてくれた。姉さんには、人が何を考えているかまではわからないけど、感情や思いがその周りにある力の色で見えるのだそうだ。さっきは僕が洗濯物の向こうで何をしているのかはわからなかったけど、こっちに向かって突進してくる、槍のような力の流れが風のように姉さんに教えてくれたのだと説明してくれた。まったく、達人じゃないか。僕が守るとか思っていたのが恥ずかしくなってきた。なんだか体に力が入らない。しょんぼりしている僕を姉さんが見たら何色に見えるのだろう。そんなことを考えていると、それを見透かしたように前を歩いている姉さんが振り向かずに言った。
「行徳、刚才的你闪耀着金色的光芒。那是守护什么的力量的颜色。能出那种颜色的人很少。你很棒。」(行徳、さっきのあなたは金色に輝いてました。あれは何かを守る人の色です。あの色を出せる人は数少ないのです。あなたはとても素敵です。)
それを聞いた僕の周りにある力の色が変わったのだろう、前を向いたままの姉さんが笑っているのがわかった。
それからも時々、姉さんの不思議な力を見ることがあった。うちに茶葉を取りに来た荷馬車の馬が急にへたり込んでしまい、どうにもいうことを聞かなくなってしまったことがあった。御者のおじさんも困ってしまい、替えの馬を調達しに町までもどっていった。そんな様子を遠巻きに見ていた姉さんが僕に
「行徳、请监视着谁也不要来。」(行徳、誰も来ないように見張っていてね。)
と言い、馬に駆け寄った。そして、へたり込んでいる馬の背中を撫で、馬の首あたりを見つめていたかと思うと川の方へ走っていった。そして少し経って戻ってくると、馬の横に立ち空中に両手で円を描いている。いや、円というよりまるでそこに、姉さんの目の前に大きな球体があるように、その球体の側面を撫でる様に両手を回していく。僕は何が始まるのかと思って球体のあたりをじっと見ていた。そこには何もなかった。いや、見えなかったと言ったほうが正確なのかもしれない。姉さんが何かをつぶやきながら、その球を小さくしていく。少しづつ、少しづつ。ぼわん。小さくなっていくにしたがって、今まで何も見えなかった空間にぼんやりとしたものが見えてくる。姉さんの手の動きが先ほどよりも少し早くなってきた。僕は息ができない。瞬きも。小さくになるにしたがって靄のようなものに見えていたが、ぽわっと、何とも言えない温かな光の球になってきた。姉さんは手を止め、そのぼんやり光った球を抱えて馬の傍で立っている。馬は先ほど姉さんに撫でられてから身を任せる様に座っている。そして姉さんが何かつぶやいて、その光の球を馬の腰あたりに入れていく。そう、馬の体に光の球が入っていったんだ。全部入れて馬を撫でる姉さん。先ほどまで身を任せて不安そうだった馬が、姉さんの方をちらっと見た。そして、大きく息をして首をあげ、立ち上がった。姉さんは僕に馬に水をあげる様に言った。何度も不思議そうに馬を見ている僕に早く行けと催促する。声も出せないでいる僕を見て姉さんは笑っていた。馬に水をやるとがぶがぶ飲んだ。もう大丈夫そうだ。それから、しばらくして御者のおじさんがもう一頭、馬を連れてきたが馬車につないで一緒に帰っていった。おじさんは不思議そうにしていたが、僕たちは笑って馬に手を振って別れた。
dive90に続く・・・
dive88
毎朝の特別訓練にも、武道場通いにもなれてきた。しかし、毎日、毎日、八極拳の基本姿勢「馬歩站椿(まほたんとう)」のみ。
馬に乗る騎手のように中腰で両腕を前に突き出す。朝からずっとこれだけ。ちょっとでも立ち上がろうとすると
「更把腰放低!(もっとこしをおとせ!)」と檄が飛ぶ。
青嵐たちは型を習っている。僕も、早くあんな風にやってみたい。隣で亮が苦しそうにしている。でも師匠の李老師は厳しい顔をして皆を見ている。李老師はいつも言っている。
「如果不形成这个基本,那个前头不能告诉(この基本が出来なければ、その先は教えられない)」
ぼくも苦しい。でも、これができないと姉さんを守ることなんてできないだろう。そう思い歯を食いしばった。苦しそうな亮にも、
「加油!亮!(頑張れ!亮!)」
と、声をかけて励ました。
型( 套路とうろ)をやっている青嵐たちが一通り型練習を終え、今度は二人一組になり体をぶつけあう稽古「靠(カオ)」を始めた。帰りに青嵐に聞いたら、八極拳は体全体を武器にする、それに耐えうるよう剛体化すると教えてくれた。これにより体に軸ができると、今僕たちがやっている馬歩も無理なくできるそうだ。でもそれは、毎日やってこないとわからないよ、さぼるなよと青嵐は言う。青嵐は帰ってからも木や壁に向かって「靠(カオ)」をやっていると教えてくれた。僕は帰ってから見よう見まねで型の稽古や「靠(カオ)」をやっている。でも、この前、木に向かって「靠(カオ)」やっていたら、お母さんに
「在干什么呢?衣服弄破。(何やってるの?服が破れる。)」と叱られてしまった。
毎週稽古に行く日以外はこうやって、家で何かしらの修練をしていた。そしてそれは、ちょうど馬歩にも大分慣れてきた頃のことだった。
僕は、その日も八極拳の套路(とうろ、足運び、呼吸法などの型のこと)の稽古をしていた。家の裏手、誰も来ない洗濯物を干してある、そのさらに奥の見えないところで。「裡門頂肘(りもんちょうちゅう)」、八極拳の技の一つで、肘打ちのことなんだけども、この技は八極拳の震脚と共に相手の懐に入り、正中線(武道で使われる言葉で体の中心を通る線のことで、眉間、人中、みぞおちなど人体急所が並ぶ線)めがけて肘打ちを入れる一連の動きをいう。「裡門・りもん」とは相手の内側のこと。前に道場で師範がやっていたのを見たことがある。軽くやったらしいのだが、相手の苦しそうなことったらなかった。うちの師範は小柄な人で、そんなに力があるようには見えないのだけれども、大男が痛そうにしているのを見るとすごい威力なのだということがわかる。師範は言う小柄だからこそできる技もあると。この技は相手の守りをはらい、懐に入ることが肝心だという。体の大きくない僕は、この技が好きで、自分の必殺技にしようと思った。いつも垂れ下がっている洗濯物を相手に、飛び込んで肘打ち、また飛び込んでは肘打ち。時折吹く風に、たなびく洗濯物を相手の攻撃に見立て、うち払い、すきをめがけて懐に飛び込んで打つ。僕は集中して修練していると時間を忘れてしまう。時間どころか誰かが呼んでいても聞こえない。その時もそうだった。何度も、何度も裡門頂肘を修練している間に夕刻になり、遅い僕を心配した姉さんが探しに来た。
「行徳!行徳!你在哪里?请回信」「行徳!行徳!どこにいるの?返事をして)
そう呼んでいたそうだ。でも僕には聞こえなかった。洗濯物がはためく音に集中していて、姉さんが呼びに来ているなんて思いもしなかった。そして運の悪いことに、僕が狙っていた洗濯物の後ろに姉さんが来た時には僕はもう踏み込もうとしていた。掛け声とともに踏み込み、必殺の肘打ちを打ち込む瞬間、洗濯物を姉さんが手でたくし上げる。だめだ、当たる。僕ははっとして、後ろにいた姉さんと目が合う、姉さんは肘打ちを見ていない。僕の目を真っ直ぐ見ている。ドキン!心臓が大きく拍動する一瞬、僕は心でとまれ、とまれと叫んだ。ほんの一瞬だが、心が時を引き延ばしたようにゆっくりと感じた。もう駄目だと思った瞬間、緩やかに、何とも軽やかに、姉さんは僕の目を見つめたまま、一寸の間を保ってかわしていく。まるで師範が僕たちの打ち込みを見切って軽くあしらうように。そして笑いながら、僕の腕を捕まえて
「行德!找到了。」(行徳!見ーつけた。)
ドキドキしながらも、呆気に取られている僕を見て、にこにこ笑っている。見よう見まねでやっていたとはいえ、毎日、毎日、走りこんで、青嵐と修練しているのに。渾身の一撃だった。ふわりとまるで風のようにかわされた。姉さんはもう振り返り家の方へ、僕の手を引っ張って歩いていく。僕はただただ呆然としながらついて行く。歩きながら少しづつ冷静になっていく。最初は自分が未熟なのだという思いが心の大半を占めていたが、家に近づくにつれそうではないことに気づいていく。そうだ、そうなのだ、姉さんがすごいのだ。見えないところから打ち込まれた突きを交わすなんて、きっと師範にでもできっこない。一体どうやって洗濯物の向こう側にいた僕の動きがわかったというのだ。あの不思議な力のせいなのか。母さんたちに聞かれてはまずいのではないかと思い、家に入る前に聞いてみた。
「姐姐,刚才是怎么做的?」(姉さん、さっきのはどうやったの?)
dive89に続く・・・・
dive87
今日も朝早くから山道を走って、その後に青嵐の家に行く。手っ取り早く強さの目標を青嵐に決めた。青嵐に追いつくには、青嵐と同じだけの量の修練をしていたのではだめだ。だから青嵐の家に行く前と帰ってきてから余分に走ったり、薪を割ったり、体力作りに励んだ。青嵐の家から町までは5里(2.5㎞、中国の1里は0.5㎞),その行き帰りも一緒に走る。町にはめったに行くことはないが、お父さんが問屋さんのところに行くときなどについて行き 通りをあちこち見ていた。川でとれた魚や、川海老などを売る店、野菜を売る店。陶器を売る店。革製品、に鉄工具や鋳物を売る店。食堂にお菓子屋。そして武道場『清武館』。赤い看板が高々と掲げられ、門戸から入る者たちの気を引き締める。中からは掛け声や、八極拳独特の震脚と呼ばれる踏み込みの地響きにも似た音が漏れ伝わってくる。型の稽古の時に発せられる、皆が一斉に出す掛け声を聞くと身震いする。ちょっとまねをして声を出すと体の奥から沸騰した熱い力が湧いてくるようだった。僕もあそこで修練をして強くなりたい、いつもそう思っていた。その武道場に、週に一度とはいえ通えるようになるなんて、うれしくて、いてもたってもいられず、青嵐と競争になる。僕が抜かせば、すぐにまた青嵐が抜かす。頑張ってまた青嵐に追いつくが、やはりまだかなわない。すぐに引き離される。遊ばれているようだ。悔しい。今日がだめでも、来週には。来週がだめでも再来週が。絶対追い抜いてやる。
はあ、はあ、と息を整えながら、武道場に入る。師範はまだ出てきていない。僕たち子供と、体が出来てきている青年部と稽古の時間が違うので実戦はまだ見られない。型の練習がほとんどだ。子供の中でも体の大きな青嵐は何人かの他の門下生と一緒にその先の組手の稽古をしている。この道場でも青嵐は強い方で、もう一人、李功という子と争っている。僕も早くあの人たちとやってみたい。同じ時期に入った子たちと基礎となる構え、型から教えてもらう。まずはつま先立ち、中腰で両腕を前に出しこぶしを握る。この姿勢を保つ。よしと言われるまで。同じ級にあの李功の弟の李秀がいる。なんかお兄ちゃんに無理やり連れてこられているみたいでもじもじしている。僕は自己紹介して、話をしてみた。
「僕は行徳、お茶園の息子だ。青嵐と一緒に来ている。君のお兄さん強そうだね。」
「うん、お兄ちゃんは何をやってもすごいんだよ。僕と違って。あ、僕は秀。よろしくね。僕も同じ血が流れてるんだから強くなれるはずだっていうんだけど、僕は運動は苦手だし・・・」
なんだか、優しくて、良い奴のようだ。そういえば白嵐もおとなしいな。兄貴が強いと弟はこうなるのかな。
「僕は強くなりたくてここに来たんだ。秀も一緒に修練して青嵐やお兄さんを超えてやろうよ。僕と一緒に頑張ろう。」
「僕はこんなだから、あんまり友達がいないんだ。行徳、これからよろしくね。」
だんだん足がプルプルしてきた。腕もあげてられない。秀はとっくに音を上げてしまった。同じ級にいた周亮と2人になった。負けられない。あっちも僕を見ている。顔に力が入る。二人とも顔が引きつって真っ赤になってきた。足を延ばそうとしたり、腕を曲げようものならすぐに「そっちの負けだ」と言ってきそうなぐらいにお互い相手をにらみ、顎で指図をする。もう、あきらめた奴らがみんなで、どっちが勝つか二人を見ている。修練を励む子供たちを師範も応援している。はじめのうちは道場内が応援の声でいっぱいだったが、時が経つに連れ、静まり返る。緊張が皆に伝わる。二人の息が、食いしばった歯の隙間をもれてくる。しかし二人がついに限界に達したその瞬間、観衆の中の一人が耐え切れずにぷーーーと一発漏らした。一瞬皆がきょとんとしてそいつを見る。僕らもつられてへたり込んでしまう。緊張の糸が切れた道場は笑いに包まれた。僕は立ち上がろうとしたが足が言うことを聞かない。亮も同じだった。二人は這いつくばりながら近寄り、握手をした。
「お前、強いな。」
「お前こそ、僕は名は行徳だ。よろしく。」
「俺は周亮。次は絶対勝つからな。」
今日、僕には友人と好敵手(ライバル)ができた。こんなにうれしいことはない。しかし、情けないことに帰りは青嵐におんぶしてもらって帰ったことは彼らには言わないでおこう。
dive88に続く・・・
dive86
今までいつまでも寝ていた僕が、みんなより早く起きて家の前の掃除をするようになり、掃除が終わると青嵐の家に行き、一緒に功夫をする。青嵐が教わっているのは八極拳という拳法らしい。僕は見習の見習いなので、まずは体力づくり。山道を走ったり、重たいものを持ち上げたり、足腰を鍛えるらしい。月に何回か町に行って、道場で八極拳を習ってくる青嵐に型を習う。八極拳は相手の向こう、八極まで突き抜けるような打撃を基本とする拳法なので、脚力が非常に大事なんだそうだ。相手に突進するのでそれに耐えうる上半身を作るのも大事。青嵐とぶつかりあっこをして体を鍛える。相手の打撃に耐えうる体を作るらしい。2時間ぐらい稽古をして家に帰る。今度は家の仕事を手伝う。家で使う薪を割る。お父さんに教えてもらってから、僕の仕事になった。これも結構、体力づくりになる。しかし、この訓練も春分の日が近づくと、ある理由からできなくなる。
うちは、小さいが茶園を経営していて、お父さんが手入れをした茶畑からとれるお茶は、とても評判がよく、『蒙頂甘露』の中でも上級品になる。茶摘みの時期になると家族総出で畑に向かう。僕も小さいころから手伝っている。近所の人たちも、時期になると手伝いに来るぐらいで、早朝から一気に摘まないと味が落ちる、とお父さんは言っていた。春分の前ぐらいから摘み始めるのだが、小さな芽を手摘みするのでそんなに量が取れない。分前(春分の前)のものは味わいも淡いが、夏に向かっていくにしたがいしっかりしてくる。蒙頂甘露は最も歴史のある緑茶で、葉は細く締まっていて、白い産毛があるのが特徴です。高温に沸かしたお湯を少し冷ましてから入れると、何とも言えない甘い香りのするお茶です。飛の家のお店でも使ってもらっているが、うちのお茶は『いいお客さんにしか出さない』と言っていました。僕の自慢です。
今年も春分の日が近くなり一時訓練は中止。茶摘みが始まる。僕の家は、茶園の入り口から続く道の突き当りにあり、茶園のどこにいても、その道を通っていく人が見える。だから家がもぬけの殻でも泥棒の心配はなく、皆で茶摘みがしていられる。家の隣には殺青(釜炒り)や、揉捻(じゅうねん)(茶葉を揉み、水分の均一化を図るとともに、成分が出やすいようにする。)、乾燥させる作業場がある。お父さんが、殺青をするときは真剣勝負です。どの位の時間炒るかで出来上がりが、変わって来るそうです。揉捻は僕も手伝います。お母さんとお姉ちゃんが教えてくれました。
「いい、行徳。こうやって優しくもんで ”美味しくなーーれ” ”甘ーくなーれ”と思いながら揉むのよ。」
と、お姉ちゃんは言います。お姉ちゃんは一生懸命仕事をしています。僕も見習って呪文のように心の中で唱えながら茶葉を揉みます。そして、乾燥は、ざるに広げて干します。こうして茶葉が出来上がると問屋さんが買い取りに来ます。
大分、暖かくなって来た5月、荷馬車に乗って問屋さんが茶園の道をのぼってきました。
「こんちわー、今日も暖かいねー。おお、行徳も頑張ってるね。えらいえらい。跡取りがちゃんと仕事を覚えないとな。」
「おじさん、見てよ。僕こんなに筋肉がついたんだよ。」
僕は、そう言って腕の筋肉を自慢げに見せた。
「こいつは、すごい。これならお父さんも早く、楽ができそうだな。でも筋肉だけじゃ、お茶はうまくならないから、お父さんの言うことをよく聞くんだよ。」
「わかってるよ。今日のお茶も、美味しいよ。なんたって、僕とお姉ちゃんが心を込めて揉捻したんだ。だから、うんと高く買っておくれよ。そしたら僕は町の道場に通うんだ。」
「わかったわかった。行徳は元気だな。じゃあ、自慢のお茶を試させてもらおうかな。」
早速お父さんと作業場に入っていった。僕はお姉ちゃんと荷馬車を引いてきた馬に、水をあげた。お姉ちゃんが馬の首をさすってあげるととても気持ちよさそうにしている。水をたっぷり飲んで一休みって感じだ。少ししたら、お父さんたちが出てきた。お父さんも笑っている。僕が期待を込めた目で見ていると
「おお、行徳。飛び切りうまかったよ。これで道場に通えるかもな。」
おじさんがお父さんの方を見るとお父さんがうなずいていた。やった、これで青嵐と一緒に町の道場に通える。それから僕は週に一回、青嵐と町の道場に通い、武術を習いに行くことになった。
dive87に続く・・・
dive85
ドン、ドンドンドン、ドン、ドンドンドン
あくる朝、けたたましく戸を叩く音で目を覚ました。いったい何の騒ぎだろうと起きると、村長の声がした。
「ワシだ、おい、村長の陳だ。起きろ。おい。早く起きろ。」
お母さんが、起きていて扉を開け
「おはようございます。村長さん。いったい何事ですか、こんなに朝早く。」
「おお、おはよう。あんたのところ娘に用があってな。昨日うちの娘が変なことを言いだしてな。それで聞きに来たんだ。昨日うちの娘が岩場の上にしか咲かないあの青い花を持っていたもので、あんな危ないところに一人で行ったのかと聞いたら、だんまりでな。これは何かあるなと問いただそうと腕を引き寄せようとしたんだ。すると着物に血がついていた。ははーん、どこかけがをして叱られると思って黙っているのだなと、どこをけがしたんだと見てみてもどこにもけががない。他の者の血かと、これはいかんと問いただしてみたところ、ついに白状した。岩場から落ちてけがをしたが、あんたのところの娘が手をかざして祈ったら、みるみる治ったと言うじゃないか。そんなバカなことを、と言ったが、玲玲は頑として本当だと、泣き出してしまった。もし本当ならすごいことだ。この村に霊能力者が、それも凄腕の。それで確かめに来たんだ。」
「うちの美雪がですか?村長さんそんなバカなことがあるもんですか。美雪なら昨日も畑仕事をしていましたよ。」
「いいから、美雪をだせ。直接ワシが聞いてやる。」
そう言ってきかなかった。村長は悪い人ではないのだけれど、昔から強引でみんなこまっていた。僕も起きて様子をうかがっていたらお姉ちゃんが柱の陰で困っていた。僕はお姉ちゃんに
「玲玲のやつ、お姉ちゃんのこと言っちゃったんだ。助けてやったのに、ひどい奴だ。お姉ちゃん、今度は僕がお姉ちゃんを助ける番だ。任せておいて。」
そう言って、村長のところに行った。会わせろ会わせろ、言っている村長の前に立ち
「村長さん、ごめんなさい。実はあの花を取って落ちてけがをしたのは僕なんだ。危ないところに玲玲を連れて行ってごめんなさい。落ちたはずみで玲玲の頭にぶつかって、ちょっとふらふらしていたからあまり覚えてないのかも。僕の鼻血が玲玲の服に着いたなんて知らなかった。お姉ちゃんは、汚れた僕を抱えてきた玲玲を拭いてあげただけです。玲玲に花のことを言うと大人に叱られるから黙っておいてくれ、と頼んだのも僕なんだ。ごめんなさい。玲玲やお姉ちゃんを責めないであげてください。ごめんなさい。」
「・・・・・そ、そうなのか?じゃあ、霊能力者じゃないのか?そうか・・・わかった。そうだよな。そんなことあるわけないか。」
「ごめんなさい。もう危ないことはしません。ごめんなさい。」
僕が何度も謝ると、村長はあきらめてとぼとぼと家の方に帰っていった。よかった。でも、その後、お母さんに危険な場所に行ったことをこっぴどく叱られた。でもお姉ちゃんは、ほっとしていた。そうだ。いつも僕が助けられてばかりなんてだめだ。それは、自然界の法則に反する。お姉ちゃんが言っていた。与えてもらったら、今度は与えなきゃね。だから、お姉ちゃんは僕が守るんだ。そのためには頭もよくなって、強くならなくちゃ。そうだ。青嵐が習っている拳法を教えてもらおう。玲玲に勉強も教えてもらおう。
こうして、僕の計画は始まった。
dive86に続く・・・・

