工房ひとと記(2012)

 

 

 カリンの瘤杢(こぶもく)   (12/04)

 

 

    材を購入に行きつけの銘木屋さんに出かけました。事務所には高級材の何点かが無造作に立てかけられています。

   特に入り口とその奥に目を引くカリンの衝立(ついたて)があります。大きさもさることながら瘤の見事な美しさには見入ってしまいます。

   以前から気になっていたので親父さん(社長さん)に頼んで写真を撮らせてもらいました。調子に乗り半強制的に大きさの比較と言って前に座っていただきました。

   大きさは約直径2㍍半余あるとのことです。瘤材は希少価値が高く、現在では輸入もほとんどなく、入手が難しいそうです。値を聞いて納得です。高級官僚の年間所得に匹敵する価格のようです。ホテルや旅館のロビーや料亭、大きなお屋敷等に置かれるもので、一般家庭にはこの大きさと重さは似合いません。

   我が家だったら間違いなく床が沈むか傾くでしょうね。

 

 

                      入り口近くの衝立(左)   近くで撮ったその杢目の一部(右)

 

   店内には一般材から高級材まで品数が多く、木に関わりを持つ人には魅力です。触手が動いても大きさから私の工房の機械では加工できない材も多く、目の保養をさせてもらっています。懐事情もあるんですが・・・。 
  親父さんが、ポツリと「息子も跡を継がないのであと何年続けられるか分からない、今ある材は欲しい人に出来るだけ安く提供してあげようと思っている」と話していました。にもかかわらず、気に入った材があるとついつい衝動的に仕入れるそうです。傍で話を聞いていた奥さんが「まったく、困ったものです」と嘆いていました。私もこと木材に関しては否定できませんので、小さくなって頷きました。

 

 

           比較のために座っていただきました(左)   奥の衝立 幅2.5メートル 高さ1.8メートル(右)      

 

   そうそう、お店は、先日「黒柿の靴べら」で紹介した厚木の「勝俣銘木店」です。

 

 

 

 

 

手作りの里  (11/10)

 

   本日は私の故郷(宮崎)について触れてみたいと思います。最近は三ヶ月に一度の割で母の様子を伺いがてら里帰りしています。

   その時必ず立ち寄る、という町があります。地方では珍しく活気があり観光の町として知られ、多くの訪問者で賑わっています。地域おこしのよい例として取り上げられることも多く、町のパンフレットには「手作りの里」として紹介されています。織物、木工品、陶器、ガラス等の工房が数多く点在しています。特に木工品を製作している工房等は二十近くもあり、匠たちがそれぞれに個性的な創作家具等を手作りしています。つい最近も帰省しましたが、私の心のナビは知らず綾方向を指しています。困ったもので、ほんと仕方ないですね。

   町の観光スポットの一つの「酒泉の杜」に立ち寄りました。幾度となく足を運んでいますが、ここには焼酎、ビール、ワイン等を製造している大きな酒蔵や温泉、ガラス工芸の見学、レストラン、お土産品の販売等々と飽きることがなく、ついつい時間を忘れてしまいます。その建物の一画に広いロビーがあり、木工品が一見無造作に配置されています。地元のとある工房の作品だと思われます。その大きさに思わずカメラを向けました。
 

 

 

 

  その帰宅途上、運転していた私の弟が「ここは、私の好きな撮影ポイントなんだ」といって車を止め、カメラを持ってさっさと降りていきました。弟はカメラ好きで、自分で撮った風景写真をいろんなところに投稿しているようです。興味のある方は[写真部Purple]と検索してみて下さい。

 土手を上がっていくと、まさに日の沈む瞬間で私も夢中でシャッターを切りました。写真は日没間際の霧島連山(高千穂の峰)と大淀川です。偶然のなせる技とはいえ、絶妙なコントラストでした。ついでに、撮影に没頭している弟の後ろ姿も・・・・。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

テーブルの傷の犯人  (10/12)

 

 

   「これ何でしょう」と工房訪問者にたずねてみますが、一様に首を傾げます。これを見ただけでは何に使うものか用途はわからないでしょうね。

 

  

   工房の流しの横の小テーブル上に写真(左下)のような傷がありました。ところどころ塗装がはげて凸凹になっています。

  この場所は湯沸器(電気ポット)の指定席です。ポットの底を触ってみるとかなりの高温であることがわかり、納得です。犯人はポットでした。傷の拡大予防のために作ったのがこれです。材は隣の車屋さんとステンレス屋さんから端材をいただきました。見えないところでもあり、飾りもなくすっきり作ってみました。底板の円は熱を逃がすためで、座ぐりカッターで空けました。パソコンの冷却パットがヒントでした。

 

 

  

 

    これを見た配偶者が「これはいい、鍋敷きにも使える、家にも作って!」である。私の作るものには普段あまり興味を示さないが、珍しく心が動いたようだ。どうも、女性は実用的かどうかで判断しているふしが多々あるようです。作品とは言えませんが、ちょっとご披露です。

 

 

 

 

 

 

 

黒柿の靴べら   (9/10)

 

 

  工房から車で15分ほどのところに、行きつけのお店があります。飲み屋さんではなく、銘木屋さんです。

  材料が不足しそうになると気軽に出かけてます。親父さん(社長さん)もこちらの事情をよく理解し、それなりの材を手頃な価格で譲ってくれるので、とても助かっています。

  先日、材料購入に出かけたところ、『黒柿の端材があるが靴べらを作ってくれないかなあ?友達にプレゼントしたいんだ』  「作ったことはないが挑戦してみます」と日頃のお世話もありお引き受けすることにしました。

  100円ショップでプラスチック製の靴べらを2個買って大きさ・厚さ・反り具合等を参考にしました。黒柿は高級材として有名だが、白黒の木目がはっきりしているので使える場所が限定されます。端材をカットし黒柿とわかる部位を選び出来上がったのがこれです。さっそく届けたところ大変喜んでくれました。

 

 

     仕上げてみて素材の持つ柄の多様さを再認識です。 右側はちょっと遊び心で作ってみました。

 

 

店の事務所に黒柿の床柱が三本立てかけてありました。値段を聞いて、目が点になりました。何と一本300万円近くするそうです。思わずシャッターを切っていました。
  お店には大きな屋敷や神社・仏閣等の床柱・欄間や様々な場所で使われる材から一般的な材まで所狭しと並べられています。樹種が多いので一見に値します。興味のある方はぜひのぞいてみて下さい。社長も気さくな方です。お店(勝俣銘木店)は厚木市山際にあります。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

スカイツリー近くでのお手伝い (9/01)

 

 

 工房隣のサッシ屋さんから面白いお手伝いの依頼がありました。

 「いつも手伝ってもらっている方々に声をかけたが、別な仕事で抜けられないく困っている。急で申し訳ないが、何とかお願いできないでしょうか」とまさに困り顔で訪ねてきました。話では、東京の蔵前にあるビルの出入り口の扉の交換取り付けという。

 余談で近くに隅田川が流れ、スカイツリーも間近で見ることができると話していました。その余談に心が動かされ、引き受けてしまった。今話題のスカイツリーである。遠目では何度かながめてはいたが、一度は間近で見てみたいと思っていたので、つい触手が動いてしまった。

 サッシ屋さん(建正サッシ)は兄弟二人で切り盛りしています。互いの長短を上手に活かし、認め合いながらの仲の良い仕事ぶりです。今回は弟(通称=タダシ君)からの依頼でした。

  久しぶりの都心です。気がつくと、まるでお登りさんみたいに、カメラのシャッターを夢中で切っていました。

 

 

 

見上げると気球船がゆっくり移動していましたので、スカイツリーを背景にもパチリ!

 

    現在、ビル全体が改装中で1階はお酒も飲め軽食も楽しむことのできるレストランでもあり居酒屋でもあるといったあらゆる世代が楽しめるお店です。

  親方にお願いして写真を撮らせてもらったが、アイデア溢れる作りでした。カウンターをはじめ、いたるところに原木のよさを生かし上手にディスプレイされてます。丸太のまま北海道から購入し、店内の配置に合わせ大胆にカットしたそうです。材はブナ、タモ、イタヤカエデ類です。

  落ち着きのある安らぎの空間に仕上がっているように感じました。

 

 

 

 

 

かわいい訪問者  (8/17)

 

 

  工房の日中は蒸し風呂状態です。年齢から来るものもあるのか?今年の暑さは応えます。

  粉塵が舞い散りますので、エアコンは来客時以外は控えるよう心掛けています。頭もボーと私の体力の限界を上回ってますので、現在は怪我も考慮し作業は減らしています。

  訪問者といえば毎年集団で押し寄せる蚊さんが、今年はなぜか控え目です。彼らにとって夏はかき入れ時なのに、さすがにこの暑さに動きが鈍くなっているかも知れません。

 

 

 

  そんな中、可愛い少年の訪問がありました。名前を「とわ」君といい小学1年生です。

  家主でもあり木工教室の生徒さんでもある工房隣に住む柴田夫婦のお孫さんです。息子さん夫婦は仕事の関係で大阪で暮らしています。今回はお盆を利用しての里帰りでした。里帰りのたびに「とわ」君は工房に顔を出してくれます。

  今回は初めてノコギリに挑戦しました。さすが男の子、10分ほどで真っ直ぐ切ることができるようになりました。残念ながら写真を撮り忘れましたので、次回に回したいと思います。

  「とわ」君のバックはダンボールで作った漆むろです。現在、ちょっと大き目のものを製作していますので、これに入れて乾燥させています。ちょっと工夫をしたらよく乾いてくれるようになりました。作品は近々アップしますのでお待ち下さい。 それにしてもお孫さんを真ん中に、でれでれというか幸せいっぱいの二人ですね。

 

 

 

 

渓流釣り用タモのお話(7/20)

 

 

   写真は渓流釣りに使うタモ(ネット)です。正式にはランディングネットというらしい。

今日は私の甥(通称=ワー君)の話です。釣り大好き人間で、私の知る限り中学生の頃にはすでに釣り竿を背負って出かけていました。四十を過ぎた今も変わらず、さらに拍車がかかっています。

   渓流釣りが中心でタモ(ネット)まで自分で作っています。使っていたネットがボロボロになり、買い換えようとお店に行ったところ、あまりの値段の高さに懐との折り合いがつかない。それではと、自分で作り始めたのがきっかけでした。当初は苦労話をよく聞かされましたが、徐々に道具も揃え、5~6年経った今では市販品と比較しても遜色ない品に仕上げることが出来るようになっています。

   彼の釣りは秋川渓谷がメインです。釣り場近くにある行きつけの食堂の親父さんに見せたところ、常連さんというよしみもあったのか?「なかなかよい出来だ、よし!店に展示しよう」という話になったそうです。後日、数点展示させてもらったところ、興味を示した釣り客からの問い合わせがあり、徐々に売れるようになったそうです。次第に腕を上げ、今では大手の釣具店からも依頼があると聞きます。

   フレーム・グリップ部は彼の領域だが、ネット部は手先の器用な彼のお嫁さんが担当しています。細かい作業なので一つ作るのに十日近くかかるそうです。お分かりでしょうが、手分けしても月3個がやっとの世界です。釣具店には丁重にお断りしているそうです。

 

 

 

 フレーム部は曲げ木加工がなされています。グリップ部は花梨で杢(もく)が活きています。

 

それにしても、じっくり腰を落ち着け何かに向き合うことの苦手な彼だと思っていましたので、ちょっとビックリです。材の切断や加工のため、私の工房にもちょくちょくやってきますが、来るたびに、上達が実感でき嬉しくなります。

 

 

 

 

 

ちょきんぎょと弟(7/2)

 

   私の身近に変わった仕事をしている男がいます。義弟(通称=カズボン)ですが、職業は商業デザイナーです。

   商品化されたその一例に、JAバンクの「ちょきんぎょ」があります。ごく最近の作ではテレビのコマーシャル等で流れている「ちょきんぎょの製氷器」があります。一昨年、NHKが「ゲゲゲの女房」という朝ドラをやっていましたが、その女優さんが宣伝しています。

   彼は若い頃、私の下宿に半年ほど居候していたことがあり、当時から好奇心旺盛で趣味も多岐にわたっていました。その後、某美術大学を卒業し、多少の曲折はあったが、変わらずこの仕事を続けています。個展も何度か開催してますが、彼の描く世界は私の理解を超え、どうコメントしていいのか分かりません。興味のある方は彼のホームページをのぞいてみて下さい。4コマ漫画等もあり、見ていて楽しく、彼の人柄が見え隠れする構成になっています。

 

 

 

 

 

 

 

  最近は描くだけでなく、作ることも楽しんでいるようです。自宅のベランダに作業場を作り、おもちゃ作りに精を出しています。作業場も自作でコツコツ作り上げたという。作り自体もしっかりしていて、動きやすく設計されている。彼の新工房です。

 

 

 

 

   思わず吹き出してしまいそうなユーモラスな木の人形です。自宅の庭の柿の木や近くで集めた雑木が素材で、新工房が大いに役立っているそうです。私の居間にもプレゼントされた一体が鎮座しています。右の人形はからくり仕立てで、シッポを回すと首が左右に振れます。孫と身内の子どもにプレゼントするそうです。

 

  

 

 

   彼(YAMAMOTO KAZUHIKO)のホームページです

                                           → http://www001.upp.so-net.ne.jp/neutral/

 

 

 

 

 

 甦った自然 (6/15)

 

 この地に居住し、何時しか三十数年が経ちました。裏に川が流れていますが、住み始めた頃は、当時の例に漏れず汚れていて悪臭が漂っていました。

 現在は上下水道の完備で生活排水等が流れ込まなくなり、きれいな流れになっています。清流と言ってもいいでしょう。その象徴ともいえる鳥たちが頻繁に挨拶に来るようになりました。今朝も、生まれて間もない赤ん坊を引き連れたカルガモ親子が目の前を泳いでいました。

 可愛らしくって思わずカメラを向けました。コンパクトカメラなのであまり鮮明ではありませんが・・・・・。

 工房とは関わりないんですが、微笑ましい風景なので、本日は紹介することにしました。

 

  

 

 

 

  カワセミは先日二階の私の部屋から撮りました。二羽が一緒にいることは珍しく、しかも5分ほど同じ場所で移動を繰り返してくれました。その間、夢中でシャッターを切りました。きっと夫婦でしょうね。

 

 

 

 

 

竹林の住人 (5/23)

 

 

 

  

  以前、家内は習い事のサークルに通っていたことがある。その会員さん達と、八王子城址跡にハイキングに出かけた。

 城址の奥まった一角に小さな工房があり、そこで物作りを楽しんでいる十名余の方々と出会った。藤の蔓でのカゴ作り、木彫の仏像、木製の小物細工、竹細工等々である。

 作業場の片隅で昼食を摂ったそうだが、たまたま持参した木工教室で製作した黒檀のハシを使って食べていると、そのハシに興味を持った工房の住人の一人から声をかけられた。

 「そのハシどうしたんですか?」『私が作ったんです』「え~!塗装はどのようになさったんですか?」『詳しいことは主人に聞かないと分かりません』という会話が交わされたという。

 それから間もなく、会話の当人が「塗装のやり方を教えて頂きたい」と我が工房を訪ねてきた。持ってきた小さな器やペン皿等の作品を見せていただいた。機械はまったく使わず手作業で時間をかけ根気強くて丁寧に作られていることがよく分かる作品であった。ただ、木の選定や塗装については一考の余地があるように思われた。

 この方が今回登場の石橋さんである。好奇心旺盛な彼である。それからちょくちょく工房を訪れるようになった。

 1年ほど前、工房の移転変更があり、現在は城址近くにあるお寺さんの敷地の一画をお借りし活動している。

 私も先日お邪魔したが、あちらこちらに古いお墓の点在する広い竹林の中の工房であった。

 仲間と力を合わせ、整地し、作業環境を作り、ようやく活動ができるようになった。電気はまだ通じてないが・・・とその経緯を年配の住人が語ってくれた。

 製作のほとんどは屋外で、それぞれが自分の気に入った場所でおこなっている。また作業時間も日の出とともに始め、日の入り前に終わらせるが、時には雨も降るので、お天道様次第という大らかさである。驚いたことに、イノシシや猿も日常的に出没するという。

 木漏れ日の差し込む竹林の中という錯覚もあったのだろう、もくもくと作業をしている方々が神々しく映り、ふっと仙人に思えてしまった。

 

 

 

 

 先日、「塗装がどうしてもうまくできない」と作品持参で訪ねて来られた。(写真)
 電気のない工房での作業である。当然、すべてが手作業であるが、以前にも増してオリジナル性も感じられ、細かい心づかいが隅々までうかがわれる作品である。

 作品にはその人となりがよく出ると言われるが、彼の作品にも、真面目で優しく控え目な性格がそっくりに表れている。

 

 

 

 

 

包丁に魅せられた男の話 5/15

 

 

 前回登場した、工房隣の自動車屋さん(レオ・カーズ)の主【通称=カマさん】の話しです。
 今日はエッセイ風に書いてみたいと思います。
 

 

 素材は異なるが、私のやっていることが自分の手がけていることと似通った部分があったのだろう?おおいに興味を示し、工房にちょくちょく遊びに来るようになった。
 さらに、「隣に変なことやってる変な人がいる」と彼のお客さんや知人等も連れてくるようになった。私に勝る変人と思っていたが、やはり先を越されてしまった。
 その一端を紹介しよう。
 1年半ほど前の話だが、長年の客の調理師さんから一本の刺身包丁を譲り受けた。

 それではと、一匹のブリを購入しさばいたところ、その切れ味のよさにすっかり魅了されてしまった。というより虜になったといったほうが正しいだろう。もともと味にはこだわりのあった彼である。開眼したかのように、のめり込んでいった。

 その様子を見ていた他の調理師達も使ってない包丁を提供してくれたそうだ。きっと彼の精進ぶりにほだされたのだろう。いつしか小型の冷凍庫まで揃え、のぞくと料理の食材がぎっしり詰め込まれている。

 次第に料理の幅も広がり、人を招くようになった。
 最近では、作業台がテーブルに変身し、調理された品々が昼時に並ぶようになっている。
 雑然とした工場の一画がひとときレストランに変身するのである。
 私も度々お呼ばれし、そのお裾分けを美味しく頂いている。

 

  

 

 彼のこだわりはそれだけに留まらなかった。
 「包丁の鞘(さや)を作りたいんだが、何かない」と言うので、工房に転がっていた端材をあげたところ、こんなもの(写真)を作ってきた。
 一見雑に見える外観であるが、包丁をさし込むと中の空気がす~っと抜ける音が聞こえるほど正確に加工されている。彼の腕の確かさを物語っている。

 工房を開いた頃は、今まで接したことのない世界の人に触れることが多く、めまぐるしく景色の変化するアトラクションに乗っているような気分にもなったが、慣れてしまえばそれも心地よく、楽しくさえ感じる今日この頃である。

 

 

 

 

 

 看板づくり こもごも  (5/12)

 

 2年半ほど前、隣人の高橋さんが農園の看板を作ってくれないかと一枚のケヤキ材を持って訪ねてきました。

 高橋さんはブルーベリーを主とした農園をやってらっしゃる方です。

 市の広報やタウンニュース等で幾度となく紹介されていて、時期には大勢のブルーベリー狩り客で賑わっています。

 「看板がないので客からよく迷うとのクレームがある、是非お願いしたい」という依頼理由でした。何事も経験だと思い承諾しました。

 知り合いから譲ってもらったという板は、長さ1,800 幅400 厚さ80とかなり大きな材でした。善し悪しは別として、できるだけ素材を活かした加工をし、看板の字も農園に合うように自分で書いてみました。写真は最近撮ったものです。

 

 

 

 

  それからしばらくして、近くの造園屋さんが工房を訪ねてきました。

  「看板を見せてもらったがよくできている、私にも一つ作ってもらいたい。新しく建て直す自治会館の看板だが、どうだろう」という話であった。

  「材料はあるのでその中から選んでくれ」と誘われ自宅にお邪魔した。大きな倉庫の中に積まれた材の多さにまずは驚いた。一枚だけでも一人では持ち運べない大きさと重さである。

  次の日、そのほとんどの材がクレーン車で工房に運び込まれた。「この中の使えそうなものを使用してくれ、残りはあげるから・・・」である。

 彼は自治会等の役員を長年務め、地域の発展のために常日頃尽力していると知人が話していました。今回の依頼もその一環で、新しく衣替えする会館を彩ってあげたいということらしい。日頃、仕事にかまけて疎遠だった私です。地域へ恩返しもあり、引き受けることにしました。

 この方が前回紹介した藤棚の持ち主の内山さんで、これを縁にお付き合いが始まったということです。頂いた材の中から、保存状態がよく看板に適すると思われる材を選び作ってみました。農園の材より一回り大きく 長さ2,000 幅450 厚さ100 です。

 

 

  

看板の補修
 一年が経過した頃、看板の状態が気になったので農園を訪ねたところ、なんとボロボロでひどい状態でした。

 屋根もなく吹きっさらしの中に立てたので、仕方ないのかも知れないが、予想以上の痛みでした。

 さっそく持ち帰り補修したが、痛みの原因は塗装にあったことは言うまでもないことです。

 隣の車屋さんに「屋外でも耐久性のあるいい塗料ないかなあ」とこぼすと、「俺んちの塗料使ってみたら」と調合した塗料を持ってきてくれました。彼は車屋(レオ・カーズ)の経営者兼小使いさんである。板金・塗装、修理をはじめ車全般を手がけている。特にキャンピングカーの内装の腕前は一見に値する。工場にはその製作に必要な大型の木工機械が我が工房とは比較にならないほど並んでいる。

 この方がまた面白い人で話すネタには事欠かないが、ここで筆を置き、後日記載します。
 それから約一年半、先日、状況確認に出かけたが、大きな痛みは見られませんでした。さすが車の塗料・・・・。幾つになっても勉強ですね。

 

 

 

 

 

  薫る風と藤 (5/5)

 

    工房は自宅から徒歩で五分足らずのところにあります。その途中に造園屋さんがありますが、藤の花が屋敷を取り囲むように咲き、この季節はとりわけ見事です。見物に訪れる人も多く、ちょっとした観光名所になっています。

  この造園主の内山さんとはひょんなことで知り合い、その後、懇意にさせて頂いています。二日前、工房に行く途中、「寄っていきなよ~」という声がするので振り向くと、彼でした。とても気さくな人柄の持ち主です。話では、藤は植樹してから35年余になり、伸びる枝の処置に困り、思案の末このような藤棚にしたそうです。奇抜な発想だが、周りの景色にとけ込み違和感を感じない。だから、見物客が絶えないのだろうなあ。写真はその時、撮ったものです。 

 

 

 

そうそう・・・、内山さんからはケヤキやカヤ等の板材を処理に困るほど大量に頂きました。そのことについては、次回、お話しします。

 

 

 

 

少女の初挑戦 (4/22)

 

 

【手にしている工具の名前は何といいますか?】

  

工房近くに住む、小学生の「はるかちゃん」がひょっこりと遊びに来ました。ころがっていた丸い板をみつけ、「穴を空けたい」と言う。手には直径6ミリほどの丸棒を持っている。どうやら、おもちゃの車輪をつくりたいらしい・・・。電動の工具は小学生には危ないと思い、渡したのがこれでした。正確に穴があいたので、大喜びで帰っていきました。

  

この工具名、ご存じですか?

  

 

 

 

 

 後日、教室の生徒さんに質問したところ、全員が「見たことはあるが・・・・・名前はわかりません」でした。以前は大工さんの必需品でもありましたが、最近は電動工具に押されて、姿を消しつつあります。ホームセンター等でも見かけることがめっきり少なくなりました。

 

辞書を引くと『くりこぎり【繰子錐】といい、コの字形の曲がり柄を回転させて円筒形の穴を開ける工具である』 と記載されていました。

  

 

答えは『くりこぎり【繰子錐】』です。