おしらせ

2018-06-23 13:01:00

判断能力がある・ないの判断は,どうすればいいのか?について

 現実の実務で,「判断能力」があるかないかを,どう判断すればいいかに悩むことはたくさんあります。

 

 まず,前提として判断能力について法律論を整理しておくと,一般に判断能力といわれる問題には,「意思能力」と「行為能力」の二つのレベルの能力に分けて考えることが必要です。

 このうち「意思能力」は小学校高学年程度の判断能力があれば満たされることになります。そして,遺言書の作成については,条文上は未成年(15歳以上)でも出来ることになっており(民法961条),成年被後見人でも一定の要件のもとに遺言書の作成を認めている(民法973条②)ことから,一般にはこの「意思能力(遺言能力)」があればいいということになっています(通説・実務)

 したがって,遺言書の作成の場面での「判断能力」というのは比較的低いものであってもよいということになります。

 私も認知症の方の公正証書遺言の作成に何度か立ち会ったことがありますが,簡単な内容の遺言書(「全財産を,お世話になっている姪にあげる」位の遺言)であれば,氏名・住所・生年月日がいえ,自分の財産を誰にあげるかを自らの口で発することが出来れば,仮に認知症の診断が出ている方であったとしても,公正証書遺言の作成は認めているようです。

 

 これに対し,契約の締結には「行為能力」という能力が必要となり,これは「単独で,完全に有効な取引行為(法律行為)をすることができる能力ないし資格」と定義され,未成年者(20歳未満)は一律に「行為能力」はないというのが条文の規定ですから,前述の「意思能力」よりはハードルがかなり高いことになります。

 ただ,その定義の意味は分かる(難しくない)と思いますが,現実にこの能力があるかどうかの判定は大変難しいなあーというのが,率直な感想です。

 

 この点,「認知症」については,長谷川式スケールなど,いくつかの判断方法が確立されていますが,「行為能力」と「認知症」というのはイコールではなく(そもそも定義が違う),「行為能力」の方についての判断方法はまだ確立されているとは言いがたいからです。実際「認知症」であっても,氏名・住所・生年月日がすらすら言えて,不動産売却の意思や取引の条件について詳細な指示が出来る方(つまり「行為能力」はあると思われる方)も,たくさんいらっしゃいます。

 ちなみに昔「行為能力」で悩んだ時に,医師の正式な判断を仰ごうとすると,逆に医師から「行為能力」って何だ?みたいな話をされることもあり,それは「法律行為を単独で有効に行えるかどうかの能力」ですって説明しても,「『法律行為』というのが何かということについては医師の専門領域ではないので,結局「行為能力」というのは医師の判断する領域ではありませんわー」みたいに言われたこともあります。

 確かにそうなんです。。

 

 この点,社会福祉協議会では「契約締結判定ガイドライン」というのが定められており,一つはこれが参考になるかなと思いました。参考までに,ネットに転がっていた(公開されている)「契約締結判定ガイドライン」のPDFをつけておきます。

pdf 契約締結判定ガイドライン.pdf (0.1MB)