おしらせ

2018-02-18 20:55:00

契約書に、本人ではなく第三者が「代筆」で署名した場合でも、契約書は有効になるでしょうか?

 

契約書に、本人ではなく第三者が「代筆」で署名した場合でも、契約書は有効になるのでしょうか?

 

 この点、一般に「代筆」といわれる場合には、①本人が契約の内容を確認し了解したが、身体上の理由などで署名が出来ないので、誰かが代わって署名をするような場合と、②本人は契約の内容の細かいところまでを理解し了解しているわけではないが、本人が第三者に契約締結の「代理権」を与えており、その「代理人」が契約書に署名をする場合。の二つの場合があります。

 

 ①について

 ①の場合、これは問題なく契約は有効に成立します。単に本人の手足として第三者が動いたにすぎず、契約の成立(合意の成立)は間違いないからです。

 

 ②について

 ②の場合は、ちょっと問題となります。

 仮に本人が契約締結に関する権限を第三者に委任しており、第三者に代理権がある場合、第三者は代理人として本人の代わりに契約書に署名することが出来ます。しかし、その場合は、代理人であることを示してしなくてはいけません。これを「顕名」といい、具体的には「佐藤太郎 代理人 佐藤花子」といった形で、本人名と代理人名を両方書きます。

 一方、単純に代理人が本人の名前を書いただけの場合、これを「署名代理」といいその有効性や証明力について争いがあります。

 

 この点判例は、親が子供の名前を直接書いた場合(大判大9.4.27)や、会社の代表者が会社の名前を直接書いた場合などで、「署名代理」の有効性を認めています。

 

 それ以外の場合には、学説では有効説・無効説がありますが、実務の大勢は基本的には「有効」と考えているようです。そして、その場合は「二段の推定(民事訴訟法228条)」も本人の署名と同様に働くと考えるため、証明力(証拠としての力)も、本人が署名した場合と基本的には変わらないこととなります。

 ただ、全くの知らない第三者が「代筆」した場合でも、常に本人の署名と同じ効力があるとすると、さすがに怖いなとも思います。

 特に「二段の推定」というのはちょっと難しいですが、要するいに仮に本人が契約の内容を確認せずに契約をサインしたとしても、「内容を確認しなかった」ということを立証できない限り(この立証は非常に難しい)、契約書の内容通りの法的拘束力を認めるという大変強い効力です。ですから、第三者の代筆にそこまでの効力を認めていいのかは、微妙な部分があると思います。実際この点について真正面から判断した判例はなく、グレーな部分となっています。

 私見ですが、確かに一律に「代筆」を無効と考えるのは非現実的だとしても、「代筆」をした人と本人の関係性の濃淡に応じて(親なのか、代表者なのか、後見的立場に立つ人なのか、それとも全くの赤の他人なのか)、結論を変えていくべきなのではないかと思います。

 

 ということで、結論としては「署名代理」を行った者に「代理権があること」が証明されれば(委任状などが存在すれば)有効ですが、本人の署名と全く同じ力があるか(「二段の推定」が働くか)どうかは、びみょーといったところではないかと思います。

 

 つまりもう少し平たくいえば、①のような本人が契約の内容を了解をしている場合の「代筆」は基本的には問題ない。(ただし、この場合は出来る限り本人に「代筆」の場に同席していただき、かつその事実をあとからきちんと証明できるように、第三者の立ち合いを求めたり、本人とのやりとりを録音・録画しておいた方がよいと思います。)

 しかし②のように本人が契約内容を確認して了解していない状況での「代筆」である場合は、グレーな部分もあるので、特に重要な契約の場合でしたら出来る限りやめておいた方がいいですし、どうしても仕方ない場合は、例えば「委任状」をしっかり本人からとっておくなどの「対策」をしておいた方がいい。ということになるのではないかと思います。