2026-09-20 14:02:00

急性腰痛は一度でおわるとは限らないーー改善と再発を繰り返しながら回復した腰痛の症例

 

今回は、突然腰を痛めて来院された患者さんの症例をご紹介します。

 

この症例で特に印象的だったのは、初回の治療では非常に大きな変化が出たにもかかわらず、その数日後に仕事をきっかけとして再び腰を痛めたことです。

 

さらに2回目の治療では、こちらが思っていたほどその場で変化が出ず、治療にかなり苦労しました。

 

しかし、その後少しずつ身体が変化していき、最終的には日常生活でほとんど痛みを感じないところまで回復しました。

 

鍼治療では毎回同じようにその場で大きな変化が出るわけではありません。

 

この症例は、そのことがよく分かるケースだったと思います。

 

 

突然始まった腰痛

 

患者さんは前日から腰に痛みを感じるようになり、急患として来院されました。

 

これまで、いわゆる腰痛らしい腰痛はほとんど経験したことがなかったそうです。

 

痛む場所は腰というより仙骨に近く、特に仙骨の上部から右側にかけて痛みがありました。

 

前屈や腰を曲げ伸ばしする動作。

車の乗り降り。

 

そして治療ベッドで寝返りをする動作でも痛みが出ていました。

 

詳しくお話を聞いてみると、腰痛が起こる少し前に仕事の内容が変わっていました。

 

普段とは違い、パートの方がお休みしたため、患者さん自身が現場の作業に入ったそうです。

 

それまで腰痛がほとんどなかったことを考えると、慣れない作業によって腰や骨盤周囲にいつもとは違う負荷が加わった可能性が考えられました。

 

腰には鍼をしない

 

この日の治療では、痛んでいる腰そのものには鍼をしませんでした。

肘周囲や手のツボなど、腰の動きと関係すると考えられる離れた場所を中心に鍼を行いました。

 

数本鍼をしたところで一度立っていただき、最初に痛かった前屈や腰の曲げ伸ばしを確認します。

 

すると、最初に出ていた屈伸時の痛みはほとんど感じなくなっていました。

 

ただし、寝返りではまだ痛みが残っています。

 

そこで今度は、ふくらはぎや手の甲などのポイントを追加しました。

 

ここでも腰の患部には鍼をしていません。

 

そして再び寝返りをしてもらうと、今度は寝返りの際の痛みもほとんど感じなくなりました。

 

初回としてはかなり良い反応です。

 

ただ、その時点で痛みがなくなったからといって、傷めた身体が完全に元へ戻ったとは限りません。

 

仕事などで再び負荷がかかれば、痛みが戻る可能性があることもお伝えしました。

 

また鍼の場合、治療直後だけではなく、その日の夜から翌日、さらにその翌日と身体が変化していく患者さんもいるため、その点についても説明しました。

 

ところが数日後

腰痛が再び悪化

 

患者さんが再び来院されました。

 

初回治療の後は腰痛がかなり軽くなり、日常生活もほとんど問題なく過ごせていたそうです。

 

自転車に乗る際に多少の違和感はあったものの、大きな問題はありませんでした。

 

ところが仕事中に段ボールを運んだ際、ピクッと腰を痛めてしまいました。

その後、再び腰痛が強くなったそうです。

 

今回確認すると、前屈でも痛みが出ます。

 

さらに仰向けで膝を立てた状態から腰を持ち上げる動作でも痛みが出ました。

 

ここからが、この症例で最も難しかったところです。

 

いつもの腰痛治療が思うように効かない。

 

腰痛でよく使ういくつかの治療方法を試しました。

 

しかし、普段なら比較的早く変化するポイントを使っても、今回はなかなか変化しません。

 

鍼をして動きを確認。

 

別のポイントを使って再び確認。

 

それでも期待したほど変わりませんでした。

 

治療直後の感触としては、最初の痛みを100とすると改善は40パーセント程度。

 

初回治療のような大きな変化は得られませんでした。

 

治療する側としても、かなり難航した腰痛でした。

 

このような時、無理に鍼の本数を増やし続けるより、一度身体に刺激を入れて、その後の変化を見ることも大切です。

 

そこで基本的な治療を行い、その日は終了しました。

 

患者さんには、

「鍼は治療直後だけで結果が決まるわけではなく、24時間から36時間ほど経過してから身体が変化する場合もあります」

とお伝えしました。

 

そして実際に連絡をいただいたところ、治療から約36時間後には、

「だいぶ楽になりました」とのことでした。

 

その場では大きく変わらなくても、その後身体が変化する。

 

鍼治療をしていると、このような経過を見ることがあります。

 

 

大きく改善

 

3日後に再び来院されました。

状態を確認すると、腰の調子はかなり良くなっていました。

 

前屈をしても痛みはありません。

 

ただし完全にゼロではありませんでした。

 

仰向けで膝を立てて腰を動かすと痛みがあります。

 

車の乗り降りでも、まだ少し痛みが出るとのことでした。

 

つまり日常生活はかなり楽になったものの、特定の動きでは腰や骨盤周辺にまだ問題が残っている状態です。

 

今回は骨盤周囲の動きを整えることを目的として、背骨と連動するポイントを多く使用しました。

 

治療後、もう一度膝を立てて腰を動かしてもらいます。

 

すると痛みは治療前のおよそ半分程度まで減少しました。

 

ここまで来ると回復の方向にかなり進んでいると判断しました。

 

患者さんはバレエもされていたため、

「痛みがなくても急に無理をせず、身体の状態を確認しながら行ってください」とお伝えしました。

 

 

腰痛治療をいったん卒業

 

さらに1週間後。

 

患者さんからは、

「ぎっくり腰の状態はほとんど良くなりました」

とのお話がありました。

 

来院前にバスへ乗った際、バスが急発進して一瞬腰に衝撃を感じたそうですが、大きな痛みにはならなかったとのことです。

 

前屈

後屈

朝起きた時の動作

 

いずれも問題ありません。

 

仕事で長時間座っていると多少腰が固まる感じはあるものの、以前のような強い痛みはありませんでした。

 

唯一、仰向けで膝を立て腰を動かすテストで、右腰にわずかな痛みが残っていました。

 

そこで最後の調整を行います。

 

治療後に同じ動きをしていただくと、痛みは出ませんでした。

 

腰痛治療はいったん終了としました。

 

 

初回で大きく改善。

↓

その後、仕事で再び腰を痛める。

↓

2回目は治療が思うように進まず。

↓

しかし翌日以降に徐々に改善。

↓

3回目にはかなり回復。

↓

4回目で日常生活上ほとんど問題のない状態となりました。

 

非常に興味深い経過でした。

 

 

 

靴下が履けるか?

車の乗り降りはスムーズか?

寝返りができるか?

朝起き上がれるか?

 

こうした実際の動作は、患者さん自身も変化を実感しやすいです。

 

今回あえて書いておきたいのは、毎回治療直後に劇的な効果が出たわけではないということです。

 

 

 

腰痛といっても、その時々で身体の状態は違います。

 

だからこそ毎回同じ場所へ同じ鍼をするのではなく、その日の身体と動きを確認しながら治療を組み立てていくことが大切だと感じた症例でした。

 

てあーて鍼灸院では、痛いところだけをみるのではなく、実際の身体の動きを確認しながら、その人の身体のどこに負担がかかっているのかを探して施術を行っています。

 

症状の変化には個人差がありますが、

 

✔️寝返りがつらい

✔️車の乗り降りが痛い

✔️靴下が履きにくい

✔️前屈すると腰が痛い

 

など、日常生活の具体的な動作でお困りの場合もご相談ください。

 

 

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2026-09-12 18:57:00

注射はするのに、鍼は怖い?

膝が痛くなり病院へ行くと、関節に注射をすることがあります。

 

【注射は痛い】

 

それが分かっていても、治すためなら仕方がないと受ける方は少なくありません。

 

ところが鍼治療をご提案すると、

「鍼はちょっと怖い」、「痛そう」、、「受けたことがあるけれど苦手」、、、

という反応が返ってくることがあります。

 

考えてみると少し不思議です。

病院では痛い注射を受けているのに、それよりずっと細い鍼を怖いと感じる。

 

でも私は、これは決して矛盾しているとは思いません。

人が怖いのは痛みそのものだけではなく、

 何をされるのか分からないこと

 過去の嫌な記憶

 頭の中で想像する痛み

こうしたものも大きく影響しているからです。

 

 

実際に当院にも、とても鍼が苦手な患者さんがいらっしゃいました。その方は鍼だけでなく、注射そのものも大嫌いな方でした。

 

ところが膝を痛め、変形性膝関節症と診断され、痛みのため病院で膝への注射を受けることになりました。

 

嫌ではあるけれど、この膝の痛みを何とかしたい。

そんな思いだったのだと思います。

注射を受けると、一週間ほどはまずまず調子が良い。

しかししばらくすると、また膝が赤く腫れ、痛みが戻ってくる。

 

再び病院へ行き、また注射を受ける。

 

そのようなことを四回、五回と繰り返していたそうです。

良くなったと思ったら、また痛くなる。

 

きっと患者さんの中には、「このまま続けていて本当に良くなるのだろうか?いつまで注射を続けるのだろう?」という疑問や不安、苛立ちもあったのではないかと思います。

 

 

そんなある日、階段を降りていると膝に強い痛みが出ました。特に階段を降りる動作がつらかったそうです。

 

そこで患者さんは病院へ行き医師に尋ねました。

「この膝は治りますか?階段を降りるとき、とても痛いんです。」

 

すると医師から「これはもう治りません」と言われたそうです。

 

 

もちろん医師には医師なりの医学的な判断があったのだと思います。

 

しかし患者さんにとって

「もう治りません」

という言葉は、とても重いものだったのではないでしょうか。

 

痛みが続いている時、人は身体だけではなく心も少しずつ疲れていきます。

 

 この先ずっとこの膝と付き合わなければならないのだろうか?

 階段は痛いままなのだろうか?

 

そう考えるだけでも気持ちは沈んでしまいます。

 

 

そんな時、その患者さんの娘さんが当院の鍼治療を受けており、お母さんに一度行ってみたらと勧めてくださったそうです。

 

そして初めて てあーて鍼灸院へいらっしゃいました。

 

膝を見ると、かなり赤く腫れていました。

お話を聞いていると、患者さんがこんなことを教えてくれました。

「昔、肘に鍼をしてもらったことがあるんだけど、あれがすごく嫌だったんです。」

 

鍼に対して、はっきりとした苦手意識を持っていたのです。それは当然です。

一度でも嫌な経験をすれば、鍼とはそういうものだと思ってしまいます。

 

 

私は無理に

「鍼は痛くありませんよ」

「怖くありませんよ」

とは言いませんでした。

 

できるだけ身体の状態を確認しながら、刺激を抑えて治療を進めていきました。

 

そして実は、その患者さんが昔の鍼の話をしている頃には、私はすでに何本か鍼をしていました。

 

そこで私は聞いてみました。

「今の鍼はどうですか?痛いですか?」

「つらくないですか?」

 

すると患者さんから返ってきたのが

「えっ。もう鍼を打ってるの!?」

という言葉でした。

 

 

私はこの言葉がとても印象に残っています。

 

患者さんの頭の中にあった鍼と、実際に身体で感じた鍼が違ったのでしょう。

 

鍼が怖いというより、昔経験した鍼の記憶が怖かったのかもしれません。

 

そのまま治療を進め、治療を終えました。

 

そして患者さんがベッドから身体を起こした時です。

 

膝を確かめながら、こちらを見て明るい表情で

「いいかも!」と言ってくださいました。

 

帰ってすぐに娘さんにもすごく良かったと話してくださったそうです。

 

 

私は、鍼治療を怖がる方を見ていて思うことがあります。

 

人が怖がっているのは、細い鍼そのものではない

ということが多いのではないかということです。

 

 昔痛かった経験

 注射針から連想する痛み

 身体に何をされるのか分からない不安

 自分では見えない場所で治療される怖さ

 

こうしたものが全部合わさって【鍼は怖い】という気持ちになっていることがあります。

 

 

◾️鍼灸院で使う鍼は、一般的な注射針とは目的も構造も違います。

 

非常に細い鍼を使い、身体の状態やその方の感受性を見ながら刺激量を調整していきます。

もちろん感覚には個人差があります。

 

場所によってチクッと感じたり、ズーンと響くように感じたりする場合もあります。

 

ですから私は「何も感じません」とは言いません。

大切なのは、我慢させながら鍼をすることではないと思っています。

 

「少し怖いです。」

「昔、鍼で嫌な経験をしました。」

「痛いのは苦手です。」

 

そういうことを最初に伝えていただいて構いません。むしろ伝えていただいた方が、その方に合わせた治療ができます。

 

 

そしてもう一つ大切なのは、

診断名と、今感じている身体の状態は、まったく同じものではない

ということです。

 

【変形性膝関節症】という診断があったとしても

 膝の周囲の筋肉

 股関節の動き

 足首の動き

 身体の使い方

 筋肉の緊張

 炎症の程度

 歩き方

 階段での身体の使い方

などによって、症状の出方は一人一人違います。

画像に変形があるからといって、痛みのすべてがその変形だけから生まれているとは限りません。

 

だから私は診断名だけを見るのではなく、

 なぜこの方は階段を降りる時に痛むのだろう?

 どこに負担が集中しているのだろう?

 身体のどこを変えると膝が楽になるのだろう?

という視点で身体を見ていきます。

 

 

病院での治療が必要な場合ももちろんあります。注射が役に立つ場合もあります。

 

鍼がすべてを解決するわけでもありません。

 

ただ、

 何度治療しても痛みが戻ってしまう

 このまま同じ治療を続けていいのだろうか

 もう治らないと言われたけれど何かできることはないだろうか

 

そう感じた時には、

少し違う角度から身体を見てみることも、一つの選択肢だと思います。

 

 

鍼が怖くても大丈夫です。

怖いものを無理に好きになる必要はありません。

 

まず話をして、身体をみて、納得してから治療を受ける。

 

それでいいと思っています。

 

 

あの日

「もう鍼を打ってるの!?」

と驚いていた患者さんが

 

治療後に

「いいかも!」

と明るい表情を見せてくださった。

 

私にとっても、印象に残っている出来事です。

 

鍼が怖いという理由だけで、身体を良くするための一つの可能性まで最初から閉じてしまう必要はありません。

 

怖いという気持ちも含めて、その人の身体をみる。

 

それも鍼灸治療の大切な部分だと、私は考えています。

 

てあーて鍼灸院

 

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2026-09-10 09:09:00

遠くから来てくださる理由を考えてみました

Cさんが初めて来院されたのは、2025年5月でした。

 

主訴は、長く続いていた首から背中にかけての痛みです。

胸椎のあたりには、まるで打撲をしたような痛みがあり、腕には痛みとも痺れとも言えない、不快な感覚がありました。

これまでに整形外科にも通い、首の牽引や電気治療を受け、薬を飲んだこともありました。

しかし、薬を飲むとめまいや吐き気が出てしまう。湿布や鎮痛薬にも、身体が敏感に反応する。

そうした経験を重ねるうちに、整形外科からも足が遠のいていました。

初診の日、Cさんは私に尋ねました。

「先生、これ治るんですか?」

私はこう答えました。

「長く続いている症状ですから、今日一本鍼をして、すべてなくなるとは言いません。ただ、似たような症状の方でも、少しずつ変化していくことはあります。まずは、身体がどう反応するか、一緒に見ていきましょう」

Cさんにとって、この日が一つの始まりになったのだと思います。

 

 

鍼をしている途中、Cさんが言いました。

「なんだか身体が暖かくなってきました」

私は、身体の中で起きていることを説明しました。

鍼をすると、筋肉だけでなく、自律神経や血流にも変化が起こります。そのため、身体の緊張がゆるんだり、手足が暖かく感じられたりすることがあります。

ただ鍼を刺して終わり、というわけではありません。

 

なぜこの場所に鍼をするのか。

なぜ首が痛いのに、手や足に鍼をするのか。

なぜ肩の症状に対して、ふくらはぎを使うのか。

 

身体のつながりを、一つずつ説明していきました。

 

Cさんは、治療中によく質問をします。

「先生、ここに刺して首に効くんですか?」

「効くというより、ここに鍼をすると首の動きが変わることがあるんです。身体は、痛い場所だけで動いているわけではないんですよ」

「へえ、不思議ねえ」

そこで、実際に首を動かしてもらいます。

「あ、本当だ。軽い!」

こうした確認を、何度も繰り返しました。

 

左腕の違和感が消えていく

最初に強かった左腕の違和感は、治療を重ねるうちに消えていきました。

すると今度は、もともと症状のあった右側が目立つようになりました。

さらに治療を続けると、右側の症状も少しずつ薄くなっていきました。

初めの頃にあった、背中を触られるだけでも痛いような打撲感も、次第になくなっていきました。

Cさん自身も、少しずつ変化に気づき始めました。

「先生、最初は左がすごく嫌だったのに、今はもうないですね」

「そうなんです。だから、一回一回の状態だけを見るのではなく、最初からの経過を見ることが大切なんです」

 

最初は、左腕まで違和感がありました。

それがなくなり、右側に症状が集まってきた。

その右側も、以前ほどではなくなっている。

身体全体で見ると、症状の範囲が少しずつ狭くなっているのです。

 

「そう言われると、確かにそうですね」

この気づきは、とても大切だったと思います。

 

【今日痛いか?】だけでは見えない変化

慢性的な痛みを抱えている人は、「今日痛いか」「今日痛くないか」だけで状態を判断してしまいがちです。

そのため、少し痛みが戻っただけで、

「やっぱり治っていない」と思ってしまうことがあります。

しかし、数か月という時間軸で見ると、症状の場所や強さ、頻度、安静時の痛み、生活への影響は、大きく変化していることがあります。

その変化を、治療者と患者さんが一緒に確認する。

それも、Cさんがこの治療院へ通う理由の一つだったのではないかと思います。

 

治療中に聞く、身体以外の話

治療中に話すのは、身体のことだけではありません。

Cさんは沖縄の出身です。

 

 若い頃の沖縄の話。

 友達と過ごしていた頃の話。

 東京へ出てきた頃の話。

 仕事をして、結婚し、子どもを育てた話。

 娘さんやお孫さんの話。

 現在の生活の話。

 

ある日は、旦那さんの介護について話してくれました。

立ち上がれなくなった旦那さんをどうしたらいいのか。

食事をどうすればいいのか。

デイサービスの準備が大変なこと。

 

別の日には、青森の話になりました。

沖縄で育ったCさんが、初めて青森で一面の雪を見た時のことです。

「地面が全部真っ白でね。あんな景色を見たのは初めてだったから、本当に感動したの」

 

また別の日には、吹き矢や高齢者大学、お菓子作りの話をしました。

 

 夜になると時間ができるので、ケーキを焼くこと。

 夏みかんをパウンドケーキにすると、近所の人が喜んでくれること。

ある日には、小豆のパウンドケーキを持ってきてくださいました。

 

こうした会話は、一見すると治療とは関係がないように見えます。

しかし私は、とても重要なものだと思っています。

 

患者さんは「痛み」だけを持って来るわけではない

患者さんは、首の痛みだけを持って治療院へ来るわけではありません。

痛みで悩んでいる『人』が来るのです。

 

 介護をしている人。

 子どもや孫を心配している人。

 料理が好きな人。

 沖縄で育った人。

 介護を背負っている人。

そうした生活全体の中に、身体があります。

だから、

 「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」

と尋ねた時、身体以外の話から治療のヒントが見つかることもあります。

 

「痛い時」と「痛くない時」の違い

Cさんには、長時間座って作業すると痛いという特徴がありました。

 特定のダイニングチェアに座ると、ジリジリする。

 一方で、吹き矢をしている時は痛くない。

 輪投げをしている時も痛くない。

これは、とても興味深い情報です。

単純に、「頸椎が悪いから、いつでも痛い」

というだけでは説明できません。

 

 姿勢の問題なのか。

 一定の筋緊張なのか。

 座り方なのか。

 神経の過敏性なのか。

 痛みに意識が向くことが関係しているのか。

さまざまな可能性が考えられます。

 

私はCさんに、こうしたことも説明しました。

「動いている時は大丈夫なのに、何もしていない時に痛みが出るというのは興味深いですね。首そのものだけでなく、身体の使い方や神経の反応も見ていった方がよさそうです。」

Cさんは言いました。

「そうなのよ。吹き矢の時は何ともないの。」

「それなら、痛い場所だけを揉み続けるよりも、痛い時と痛くない時で何が違うのかを探していきましょう。」

 

首の治療から【身体全体を相談する場所】へ

治療が進むにつれて、Cさんから首や肩の話を聞く時間は、少しずつ減っていきました。

その代わりに、

「顔がかゆい」

「鼻がぐずぐずする」

「喘息が出た」

「足が重い」

「口の中が痛い」

といった、別の相談が増えていきました。

これは、単純に症状が増えたという意味だけではないと思います。

私はむしろ、

「ここなら身体のことを相談していい」

と思ってもらえる場所になっていったのではないかと考えています。

 

首の治療だけをする治療院から、

身体のことをまとめて相談できる場所へ。

Cさんとの関係が、少しずつ変わっていったのではないでしょうか。

 

その日の身体に合わせて、治療を変える

実際、一時期には風邪の後に呼吸が苦しくなり、喘息のような症状が出たこともありました。

その時は、首の治療をそのまま続けるのではなく、呼吸器の状態に合わせて治療内容を変更しました。

次回来院した時、Cさんはこう言いました。

「胸の苦しさは、全部なくなりました。喉とか耳のチクチクもないです。」

「よかったですね。今日は首よりも、今いちばん気になるところを見ていきましょう。」

 

このように、その日の身体の状態に合わせて、治療の優先順位を変えていきました。

 

 皮膚の問題

 鼻炎

 呼吸

 むくみ

 口腔粘膜

 首や肩

 

一つの病名だけを追い続けるのではなく、その時々の身体全体を見ていく。

そこにも、てあーて治療院の特徴があります。

 

久喜市から通ってくださるCさんは、近所から来ている患者さんではありません。

現在は、久喜市から時間をかけて来院されています。同じ埼玉県とはいえ、決して近い距離ではありません。

毎回、車で来るだけでも時間がかかります。

道路が混んで予約時間に遅れないよう、早めに出発してくださっています。

普通に考えれば、自宅の近くにも整形外科や接骨院、整体、鍼灸院はあるでしょう。

それでも、なぜここまで来てくれるのでしょうか。

私は、理由は一つではないと思っています。

 

ある日の治療後、Cさんは首の周囲を触りながら言いました。

「先生、さっきまでここがカチカチだったのに、全然違う」

別の日には、「肩がすごく軽い」

また別の日には、「久喜から来た甲斐があった」と言ってくださいました。

 

このように、「自分の身体がその場で変わった」という体験は、大きな意味を持つと思います。

そして、もう一つあります。

 

「どうしてここに鍼をするんですか?」

Cさんは、鍼についていろいろな質問をします。

どうして手に鍼をすると、首が変わるのか。

どうして足に鍼をすると、肩がゆるむのか。

なぜ鍼をすると、身体が暖かくなるのか。

尿が増えることがあるのはなぜか。

 

私は、できる限り説明します。

もちろん、すべてを一つの理論だけで断定することはできません。

整動鍼における身体の連動という考え方。

東洋医学の経絡という考え方。

筋肉や関節の動き。

血流。

自律神経。

痛みを感じる神経系。

さまざまな角度から身体を見ていきます。

「痛いところに鍼を刺したから、痛みが消えた」という単純な話だけではありません。

身体の別の場所に刺激を加えることで、筋肉の緊張や身体の動かし方が変わったり、痛みの感じ方が変化したりすることがあります。

だから私は、

「ここが首のツボです」

と説明して終わるのではなく、

「一度、首を動かしてみてください」

と確認します。

患者さん自身に、身体の変化を感じてもらうためです。

 

「あれ!? 違う!」という体験

Cさんも、次第に鍼への信頼を深めていきました。

「周りの人に鍼の話をすると、怪しいと言われるんですよ」

そう言って笑ったこともあります。

それでもCさんは、自分の身体で変化を感じています。

私は、これがとても重要だと思います。

治療者が、「効いていますよ」と言うのではなく、患者さん自身が、「あれ!? 違う!」と気づく。

そこから信頼が生まれていきます。

その後、治療間隔は週1回から2週間に1回、数週間に1回へ、、と伸びていきました。

これは、治療から離れたということではありません。

むしろ、状態が安定してきたからこそ、治療間隔を伸ばせるようになったということです。

 

そして、2026年8月―久しぶりの来院

やがて、一度長い空白期間ができました。

そして2026年8月、Cさんは再び来院しました。

ただし、以前とは主訴が変わっていました。

前年に治療していた頸椎症や手のしびれは、すでに大きな問題ではなくなっていました。

今回困っていたのは、

左の坐骨神経痛と右膝の違和感

でした。

 

これは、とても象徴的なことだと思います。

もしCさんの中で、

「ここは首の治療をする場所」

という認識だけだったなら、坐骨神経痛や膝の症状が出た時に、久喜からわざわざ来る必要はありません。

近所の整形外科へ行くこともできます。

近所の接骨院や鍼灸院を選ぶこともできます。

それでも、Cさんは再び来院されました。

 

「また何か身体に困ったら、あそこへ行こう」

ここからは推測になりますが、

以前、自分の身体が変化した経験があったこと、薬に頼りにくい身体でも、治療を受けられたこと、症状だけでなく、全身を見てもらえたこと、毎回、きちんと話を聞いてもらえたこと。

自分の生活や家族のことまで知っている治療者であること。

そして、

「また何か身体に困ったら、あそこへ行ってみよう」という記憶が残っていたのではないかと思います。

 

「お久しぶりですね。首はどうですか?」

「おかげさまで、首と手は大丈夫なんです。今度はこっちなの。左のお尻から脚と、右の膝が気になって。」

「なるほど。では今回は、今の身体を一から見直してみましょう。」

治療後、Cさんは、「身体がすごく軽い」と話しました。

1年近く間が空いていても、再び治療を受けに来てくれた。

これは、治療院にとって非常に大きな意味があります。

 

「ずっと通い続けてもらう」だけが、良い治療院ではない

良い治療院とは、ずっと毎週、患者さんを通わせ続ける場所だけではないと思います。

一度良くなって、治療から離れてもいい。

そして、何年か経って別の問題が起きた時に、

「そうだ、あそこに相談してみよう」

と思い出してもらえる。

私は、そういう治療院がいいなと思っています。

 

Cさんが久喜市から来てくれる理由

Cさんが久喜市から来てくれる理由は、鍼の技術だけではないでしょう。

話を聞いてもらえる。

身体の変化を一緒に確認してもらえる。

症状について説明してもらえる。

自分の過去の経過を覚えていてもらえる。

首が良くなれば、今困っているところをみてもらえる。

そして治療中には、沖縄の話も、青森の雪の話も、旦那さんの話も、娘さんやお孫さんの話も、お菓子の話もできる。

治療院に来ている時間そのものが、

【自分の身体と生活を少し整える時間】

になっているのかもしれません。

 

鍼灸院の価値は、鍼を刺す技術だけではない

Cさんとの経過を振り返って、私は改めてこう感じます。

鍼灸院の価値は、鍼を刺す技術だけではない。

 鍼をする。

 身体を観察する。

 患者さんの話を聞く。

 前回との違いを覚えている。

 なぜ変化したのかを、一緒に考える。

 患者さん自身に、身体の変化を感じてもらう。

 

そして、また次に困った時に思い出してもらう。

その積み重ねそのものが、治療院への信頼になるのだと思います。

 

 

                                     #てあーて鍼灸院

 

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2026-09-07 20:52:00

ケールを食べながら考える“からだを整える”ということ

先日、生の【ケール】が手に入りました。

ちょうどその日は家で揚げ物を食べる予定だったので、ケールを軽く塩でもんで、りんご酢と少量の醤油、白ごまで和えて食べてみました。

これがなかなか美味しい。

揚げ物を食べた後にケールを口にすると、独特のほろ苦さとりんご酢の酸味で、口の中がさっぱりします。

実はこのケール、栄養の面から見てもなかなか興味深い野菜です。

ケールはキャベツやブロッコリー、大根などと同じアブラナ科の植物です。

ビタミンCやビタミンK、ベータカロテン、葉酸、カルシウム、カリウム、食物繊維などを含みます。

さらに注目したいのが、ルテインやゼアキサンチンなどのカロテノイドです。

こうした成分は目の黄斑部にも存在し、光などによって生じる酸化ストレスから目を守る仕組みに関係しています。

そしてケールを含むアブラナ科の野菜には、グルコシノレートという少し変わった植物成分があります。

 

植物にとっては、虫などから自分の身体を守るための仕組みの一つです。

 

面白いのは、葉を切ったり噛んだりして植物の細胞が壊れると、グルコシノレートとミロシナーゼという酵素が出会い、イソチオシアネートなどの成分が作られることです。

つまり、私たちがケールを刻んで食べるという何気ない行為によって、植物の中で化学的な変化が起きているのです。

 

私はこういう話を知ると、食べ物は単なるカロリーや栄養素の集合体ではないのだなと改めて感じます。

 

東洋医学では、食べ物をタンパク質が何グラム、ビタミンが何ミリグラムという数字だけでは見ません。

 

その食べ物が身体を温めるのか冷ますのか。

潤すのか乾かすのか。

上に昇らせるのか下に降ろすのか。

そして、その人の今の身体に合っているのか。

 

そうした身体との関係を大切にします。

 

ケールは現代の野菜ですから、古典の生薬のように東洋医学的効能を断定することはできません。

しかし、濃い緑色の葉や独特の苦味という性質から考えてみると興味深いものがあります。

 

五行では青や緑は木、そして肝との関係を考えます。

苦味には、こもったものを冷ましたり、下へ降ろしたりする方向性があります。

一方、揚げ物のように油が多く熱を使った食事は、食べ過ぎれば身体に重さや熱がこもりやすい。

そこで、ほろ苦いケールと酸味のあるりんご酢を合わせる。

これは東洋医学的に見ても、食事全体のバランスを考えた面白い組み合わせだと思います。

ただし、身体に良いと言われるものを大量に食べればもっと健康になる、という考え方は私はあまり好きではありません。

 

身体が冷えている人。

胃腸が弱っている人。

疲れて食欲が落ちている人。

そういう人が冷たい生野菜を大量に食べれば、かえって身体がつらくなることもあります。

そんな時はケールをさっと湯通ししたり、味噌汁に入れたり、胡麻や肉、魚などと合わせてもいいでしょう。

 

大切なのは、何が身体に良いかだけではなく、今の自分には何が必要なのかということです。

 

これは私が日々行っている鍼灸治療にも通じます。

 

肩が痛いから肩だけを見る。

腰が痛いから腰だけに鍼をする。

必ずしもそれだけではありません。

 

胃腸の状態、睡眠、呼吸、冷え、疲労、身体の左右差など、一見すると痛みとは関係なさそうなところまで見ていくと、身体の状態が少しずつ見えてくることがあります。

 

食事も鍼灸も、身体を無理やり変えるのではなく、その人が本来持っている働きが発揮されやすい環境を整えてあげる。

 

私はそこがとても大切だと考えています。

 

ケール一枚からでも、身体について考えられることはたくさんあります。

 

・毎日の食事を少し見直してみる

・身体の小さな変化に気づいてみる

 

そして、自分だけではなかなか整わない時には、鍼灸という方法もあります。

 

てあーて鍼灸院では、その方の身体全体を見ながら、一緒に原因を探していくことを大切にしています。

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2026-09-04 09:39:00

84歳女性の腰・股関節痛②その後

 【鍼で変わったのは痛みだけではありませんでした】

前回のブログでご紹介した、腰、臀部、股関節に強い痛みがあった84歳の患者さん。

治療では、痛い場所に鍼を集中させるのではなく、肘や手、足など離れたツボを使い、骨盤や腰、股関節の連動を整えていきました。

治療中は、一度にすべてを変えようとはしません。

鍼をして身体を動かしていただき、変化を確認します。

そして必要なところを調整し、再び立ったり歩いたりしていただきます。

すると、

「さっきより立ちやすい」

「ここが楽になった」

「歩きやすくなった」

という変化が一つずつ現れてきました。

患者さん自身が身体の変化を確認できるため、最初は鍼に対する不安があっても、次第に治療の意味を理解してくださるようになります。

身体が楽になるにつれて、鍼そのものへの怖さも少なくなっていきました。

しかし、この症例で特に印象的だったのはここからです。

治療前は動作がゆっくりで、家事をすることにも少し億劫な様子がありました。

ところが治療後は、身体が軽くなったように動き始めました。

いつもなら座っていることが多かった方が、その日は自分から精力的に動いています。

その違いは、一緒に暮らしているご家族にもわかるほどでした。

もちろん、鍼によって頭の働きや感情が直接変化したと断定することはできません。

ただ、痛みが減り身体を動かしやすくなることで、

「動いてみよう」

「これならできそう」

という気持ちが生まれることはあると思います。

東洋医学では、身体だけではなく「気・血」の巡りを含め、心身全体の状態をみていきます。

身体が軽くなれば気持ちも前を向く。

気持ちが前を向けば、また身体を動かしたくなる。

今回の患者さんを見ていると、そんな身体と心のつながりを改めて感じました。

治療後の姿を見たご家族も驚かれ、ご家族の中で肘を痛めていた方から、

「私にも鍼をしてほしい」

と言っていただいたほどでした。

鍼灸は、単に「痛いところに鍼をして痛みを取る」だけのものではありません。

立てる。

歩ける。

家事ができる。

そして、また自分から動きたくなる。

痛みによって小さくなっていた生活が、身体の変化とともに少しずつ広がっていく。

今回の84歳の患者さんを通して、鍼灸にはその人の「動ける力」を引き出し、生活そのものをもう一度動かしていく可能性があるのだと、改めて感じた症例でした。

 

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