2026-09-10 09:09:00

遠くから来てくださる理由を考えてみました

Cさんが初めて来院されたのは、2025年5月でした。

 

主訴は、長く続いていた首から背中にかけての痛みです。

胸椎のあたりには、まるで打撲をしたような痛みがあり、腕には痛みとも痺れとも言えない、不快な感覚がありました。

これまでに整形外科にも通い、首の牽引や電気治療を受け、薬を飲んだこともありました。

しかし、薬を飲むとめまいや吐き気が出てしまう。湿布や鎮痛薬にも、身体が敏感に反応する。

そうした経験を重ねるうちに、整形外科からも足が遠のいていました。

初診の日、Cさんは私に尋ねました。

「先生、これ治るんですか?」

私はこう答えました。

「長く続いている症状ですから、今日一本鍼をして、すべてなくなるとは言いません。ただ、似たような症状の方でも、少しずつ変化していくことはあります。まずは、身体がどう反応するか、一緒に見ていきましょう」

Cさんにとって、この日が一つの始まりになったのだと思います。

 

 

鍼をしている途中、Cさんが言いました。

「なんだか身体が暖かくなってきました」

私は、身体の中で起きていることを説明しました。

鍼をすると、筋肉だけでなく、自律神経や血流にも変化が起こります。そのため、身体の緊張がゆるんだり、手足が暖かく感じられたりすることがあります。

ただ鍼を刺して終わり、というわけではありません。

 

なぜこの場所に鍼をするのか。

なぜ首が痛いのに、手や足に鍼をするのか。

なぜ肩の症状に対して、ふくらはぎを使うのか。

 

身体のつながりを、一つずつ説明していきました。

 

Cさんは、治療中によく質問をします。

「先生、ここに刺して首に効くんですか?」

「効くというより、ここに鍼をすると首の動きが変わることがあるんです。身体は、痛い場所だけで動いているわけではないんですよ」

「へえ、不思議ねえ」

そこで、実際に首を動かしてもらいます。

「あ、本当だ。軽い!」

こうした確認を、何度も繰り返しました。

 

左腕の違和感が消えていく

最初に強かった左腕の違和感は、治療を重ねるうちに消えていきました。

すると今度は、もともと症状のあった右側が目立つようになりました。

さらに治療を続けると、右側の症状も少しずつ薄くなっていきました。

初めの頃にあった、背中を触られるだけでも痛いような打撲感も、次第になくなっていきました。

Cさん自身も、少しずつ変化に気づき始めました。

「先生、最初は左がすごく嫌だったのに、今はもうないですね」

「そうなんです。だから、一回一回の状態だけを見るのではなく、最初からの経過を見ることが大切なんです」

 

最初は、左腕まで違和感がありました。

それがなくなり、右側に症状が集まってきた。

その右側も、以前ほどではなくなっている。

身体全体で見ると、症状の範囲が少しずつ狭くなっているのです。

 

「そう言われると、確かにそうですね」

この気づきは、とても大切だったと思います。

 

【今日痛いか?】だけでは見えない変化

慢性的な痛みを抱えている人は、「今日痛いか」「今日痛くないか」だけで状態を判断してしまいがちです。

そのため、少し痛みが戻っただけで、

「やっぱり治っていない」と思ってしまうことがあります。

しかし、数か月という時間軸で見ると、症状の場所や強さ、頻度、安静時の痛み、生活への影響は、大きく変化していることがあります。

その変化を、治療者と患者さんが一緒に確認する。

それも、Cさんがこの治療院へ通う理由の一つだったのではないかと思います。

 

治療中に聞く、身体以外の話

治療中に話すのは、身体のことだけではありません。

Cさんは沖縄の出身です。

 

 若い頃の沖縄の話。

 友達と過ごしていた頃の話。

 東京へ出てきた頃の話。

 仕事をして、結婚し、子どもを育てた話。

 娘さんやお孫さんの話。

 現在の生活の話。

 

ある日は、旦那さんの介護について話してくれました。

立ち上がれなくなった旦那さんをどうしたらいいのか。

食事をどうすればいいのか。

デイサービスの準備が大変なこと。

 

別の日には、青森の話になりました。

沖縄で育ったCさんが、初めて青森で一面の雪を見た時のことです。

「地面が全部真っ白でね。あんな景色を見たのは初めてだったから、本当に感動したの」

 

また別の日には、吹き矢や高齢者大学、お菓子作りの話をしました。

 

 夜になると時間ができるので、ケーキを焼くこと。

 夏みかんをパウンドケーキにすると、近所の人が喜んでくれること。

ある日には、小豆のパウンドケーキを持ってきてくださいました。

 

こうした会話は、一見すると治療とは関係がないように見えます。

しかし私は、とても重要なものだと思っています。

 

患者さんは「痛み」だけを持って来るわけではない

患者さんは、首の痛みだけを持って治療院へ来るわけではありません。

痛みで悩んでいる『人』が来るのです。

 

 介護をしている人。

 子どもや孫を心配している人。

 料理が好きな人。

 沖縄で育った人。

 介護を背負っている人。

そうした生活全体の中に、身体があります。

だから、

 「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」

と尋ねた時、身体以外の話から治療のヒントが見つかることもあります。

 

「痛い時」と「痛くない時」の違い

Cさんには、長時間座って作業すると痛いという特徴がありました。

 特定のダイニングチェアに座ると、ジリジリする。

 一方で、吹き矢をしている時は痛くない。

 輪投げをしている時も痛くない。

これは、とても興味深い情報です。

単純に、「頸椎が悪いから、いつでも痛い」

というだけでは説明できません。

 

 姿勢の問題なのか。

 一定の筋緊張なのか。

 座り方なのか。

 神経の過敏性なのか。

 痛みに意識が向くことが関係しているのか。

さまざまな可能性が考えられます。

 

私はCさんに、こうしたことも説明しました。

「動いている時は大丈夫なのに、何もしていない時に痛みが出るというのは興味深いですね。首そのものだけでなく、身体の使い方や神経の反応も見ていった方がよさそうです。」

Cさんは言いました。

「そうなのよ。吹き矢の時は何ともないの。」

「それなら、痛い場所だけを揉み続けるよりも、痛い時と痛くない時で何が違うのかを探していきましょう。」

 

首の治療から【身体全体を相談する場所】へ

治療が進むにつれて、Cさんから首や肩の話を聞く時間は、少しずつ減っていきました。

その代わりに、

「顔がかゆい」

「鼻がぐずぐずする」

「喘息が出た」

「足が重い」

「口の中が痛い」

といった、別の相談が増えていきました。

これは、単純に症状が増えたという意味だけではないと思います。

私はむしろ、

「ここなら身体のことを相談していい」

と思ってもらえる場所になっていったのではないかと考えています。

 

首の治療だけをする治療院から、

身体のことをまとめて相談できる場所へ。

Cさんとの関係が、少しずつ変わっていったのではないでしょうか。

 

その日の身体に合わせて、治療を変える

実際、一時期には風邪の後に呼吸が苦しくなり、喘息のような症状が出たこともありました。

その時は、首の治療をそのまま続けるのではなく、呼吸器の状態に合わせて治療内容を変更しました。

次回来院した時、Cさんはこう言いました。

「胸の苦しさは、全部なくなりました。喉とか耳のチクチクもないです。」

「よかったですね。今日は首よりも、今いちばん気になるところを見ていきましょう。」

 

このように、その日の身体の状態に合わせて、治療の優先順位を変えていきました。

 

 皮膚の問題

 鼻炎

 呼吸

 むくみ

 口腔粘膜

 首や肩

 

一つの病名だけを追い続けるのではなく、その時々の身体全体を見ていく。

そこにも、てあーて治療院の特徴があります。

 

久喜市から通ってくださるCさんは、近所から来ている患者さんではありません。

現在は、久喜市から時間をかけて来院されています。同じ埼玉県とはいえ、決して近い距離ではありません。

毎回、車で来るだけでも時間がかかります。

道路が混んで予約時間に遅れないよう、早めに出発してくださっています。

普通に考えれば、自宅の近くにも整形外科や接骨院、整体、鍼灸院はあるでしょう。

それでも、なぜここまで来てくれるのでしょうか。

私は、理由は一つではないと思っています。

 

ある日の治療後、Cさんは首の周囲を触りながら言いました。

「先生、さっきまでここがカチカチだったのに、全然違う」

別の日には、「肩がすごく軽い」

また別の日には、「久喜から来た甲斐があった」と言ってくださいました。

 

このように、「自分の身体がその場で変わった」という体験は、大きな意味を持つと思います。

そして、もう一つあります。

 

「どうしてここに鍼をするんですか?」

Cさんは、鍼についていろいろな質問をします。

どうして手に鍼をすると、首が変わるのか。

どうして足に鍼をすると、肩がゆるむのか。

なぜ鍼をすると、身体が暖かくなるのか。

尿が増えることがあるのはなぜか。

 

私は、できる限り説明します。

もちろん、すべてを一つの理論だけで断定することはできません。

整動鍼における身体の連動という考え方。

東洋医学の経絡という考え方。

筋肉や関節の動き。

血流。

自律神経。

痛みを感じる神経系。

さまざまな角度から身体を見ていきます。

「痛いところに鍼を刺したから、痛みが消えた」という単純な話だけではありません。

身体の別の場所に刺激を加えることで、筋肉の緊張や身体の動かし方が変わったり、痛みの感じ方が変化したりすることがあります。

だから私は、

「ここが首のツボです」

と説明して終わるのではなく、

「一度、首を動かしてみてください」

と確認します。

患者さん自身に、身体の変化を感じてもらうためです。

 

「あれ!? 違う!」という体験

Cさんも、次第に鍼への信頼を深めていきました。

「周りの人に鍼の話をすると、怪しいと言われるんですよ」

そう言って笑ったこともあります。

それでもCさんは、自分の身体で変化を感じています。

私は、これがとても重要だと思います。

治療者が、「効いていますよ」と言うのではなく、患者さん自身が、「あれ!? 違う!」と気づく。

そこから信頼が生まれていきます。

その後、治療間隔は週1回から2週間に1回、数週間に1回へ、、と伸びていきました。

これは、治療から離れたということではありません。

むしろ、状態が安定してきたからこそ、治療間隔を伸ばせるようになったということです。

 

そして、2026年8月―久しぶりの来院

やがて、一度長い空白期間ができました。

そして2026年8月、Cさんは再び来院しました。

ただし、以前とは主訴が変わっていました。

前年に治療していた頸椎症や手のしびれは、すでに大きな問題ではなくなっていました。

今回困っていたのは、

左の坐骨神経痛と右膝の違和感

でした。

 

これは、とても象徴的なことだと思います。

もしCさんの中で、

「ここは首の治療をする場所」

という認識だけだったなら、坐骨神経痛や膝の症状が出た時に、久喜からわざわざ来る必要はありません。

近所の整形外科へ行くこともできます。

近所の接骨院や鍼灸院を選ぶこともできます。

それでも、Cさんは再び来院されました。

 

「また何か身体に困ったら、あそこへ行こう」

ここからは推測になりますが、

以前、自分の身体が変化した経験があったこと、薬に頼りにくい身体でも、治療を受けられたこと、症状だけでなく、全身を見てもらえたこと、毎回、きちんと話を聞いてもらえたこと。

自分の生活や家族のことまで知っている治療者であること。

そして、

「また何か身体に困ったら、あそこへ行ってみよう」という記憶が残っていたのではないかと思います。

 

「お久しぶりですね。首はどうですか?」

「おかげさまで、首と手は大丈夫なんです。今度はこっちなの。左のお尻から脚と、右の膝が気になって。」

「なるほど。では今回は、今の身体を一から見直してみましょう。」

治療後、Cさんは、「身体がすごく軽い」と話しました。

1年近く間が空いていても、再び治療を受けに来てくれた。

これは、治療院にとって非常に大きな意味があります。

 

「ずっと通い続けてもらう」だけが、良い治療院ではない

良い治療院とは、ずっと毎週、患者さんを通わせ続ける場所だけではないと思います。

一度良くなって、治療から離れてもいい。

そして、何年か経って別の問題が起きた時に、

「そうだ、あそこに相談してみよう」

と思い出してもらえる。

私は、そういう治療院がいいなと思っています。

 

Cさんが久喜市から来てくれる理由

Cさんが久喜市から来てくれる理由は、鍼の技術だけではないでしょう。

話を聞いてもらえる。

身体の変化を一緒に確認してもらえる。

症状について説明してもらえる。

自分の過去の経過を覚えていてもらえる。

首が良くなれば、今困っているところをみてもらえる。

そして治療中には、沖縄の話も、青森の雪の話も、旦那さんの話も、娘さんやお孫さんの話も、お菓子の話もできる。

治療院に来ている時間そのものが、

【自分の身体と生活を少し整える時間】

になっているのかもしれません。

 

鍼灸院の価値は、鍼を刺す技術だけではない

Cさんとの経過を振り返って、私は改めてこう感じます。

鍼灸院の価値は、鍼を刺す技術だけではない。

 鍼をする。

 身体を観察する。

 患者さんの話を聞く。

 前回との違いを覚えている。

 なぜ変化したのかを、一緒に考える。

 患者さん自身に、身体の変化を感じてもらう。

 

そして、また次に困った時に思い出してもらう。

その積み重ねそのものが、治療院への信頼になるのだと思います。

 

 

                                     #てあーて鍼灸院

 

LINEで予約相談する➡︎https://lin.ee/Wndrjtk