講師(宗夜)ブログ

2023-08-28 20:07:00

●明治生まれの女性

私の朝ごはんを食べる時間が、BSでの朝の連ドラとの放送時間と重なり、何となく『らんまん』を見ています。

最初は天気予報をチェックするためにテレビをつけていました。

天気予報を待つまでの間、ちょこちょことチャンネルを変えて『らんまん』をうっすらうっすら見ていたのでした。

ですが、寿恵子さんがあまりにも可愛らしくて、ここのところ毎朝の寿恵子さんチェックが日課となりました。

 

先日唐突に『吉也(きちや)』という名が飛び出しました。

(ふーん、寿恵子さんのお父さんかな?)

なんて思っていたけど、どうも話が繋がらない。

『夢のようなおなごが…』

(ん?おなご?)

『うちのおっかさん、芸者のてっぺんまで登り詰めて…』

(ああ、寿恵子さんのお母さんか。吉也は源氏名なのね。)

 

この時代、高級料亭や花柳界が隆盛を極めていたとドラマでも紹介がありました。

そして夜の蝶として注目を浴びる芸妓は、政財界で活躍する英傑たちの本妻や妾となることが度々あったとのこと。

このような人気芸妓さんたち…。

意外にも出自が武家であることも多かったと別の番組で歴史学者たちが論じていました。

武家社会は掟が厳しく、栄枯盛衰も激しかったようです。

時代を読み切れずに政策に失敗して失脚とか、

藩内の政治抗争に負けてお家没収とか…。

または『らんまん』の時代ですと、戊辰戦争の際に新政府側につくか、旧幕府側につくかで、藩ごと勝負がついてしまうこともあります。

そんな没落の状況下では、家族も家来も離散となり、武家の子女が花柳界へと送られたとのこと。

もしも『らんまん』の中の佑一郎くんに姉や妹がいたら、同じような境遇を辿っていたかもしれません。

 

しかしさすが武家出身だけあって、そのような女性たちは花柳界でも一目置かれる存在へと成長することが多かったそうです。

出自がきちんとしているから、それなりの格の置屋に送られて仕込まれることもあるのでしょう。

置屋での教育は相当に厳しいようですが、没落するつらさが骨身に沁みている人間は、引き換えにどんなことでも耐えて前を向く強さを持つのかもしれません。

こういう強い女性、どこかで出会ったような…。

 

『きもの』幸田文/著 でした。

この本の中で登場する『清村その』さんが、そのひと。主人公るつ子の父親が愛した女性です。

予期せぬ形で偶然に出逢い、鮮烈な印象を残した女性。その下りは、以前のブログ(●ご挨拶は手をついてから)に書かせていただいております。

もう二度と出会うことはないだろうと思っていたのに、関東大震災(1923年9月1日)またもや偶然にも再会します。

群衆の大きな雪崩の中に、ちらりと白い手拭いを見つけ、るつ子は直感で『あのひとだ!』と飛び込んでいきます。はっしとその手首を掴み、父と兄と祖母のいるところまで引っ張っていくのです。

父は『やぁ、無事で良かったな』と声を掛け、何とも言えないギクシャクとした空気が漂います。

そして寄るべのない不安な気持ちで一塊りになって朝を待つのです。

翌朝、少し離れたところで父と女性が立ち話をしていました。双方ともに真面目な顔をして、これからのことを話している様子。

炊き出しがあるらしいと伝わりますが、それを待たず手拭い一本持って女性はさっさと人浪に消えて行きました。

………………….

万が一住居が焼けていなければ仕合せだし、焼けていれば跡を囲って焼けトタンをよせてでも住む場所をつくる、という。

………………….

 

この本を読んだ時、なんて強い女性なんだと感心しました。

普通の女性ならば父を頼るだろう。

こんな状況だからしばらく身を寄せさせてくれとか、頼み込むのが普通だろう。

非常時だから誰も拒否できない。

だけど女性はそれをしない。

未曾有の混乱事態なのに、綺麗な女性が一人でいたら、どんな酷い目に遭うかもしれない。

それが、振り返りもせずにさっさと一人で群衆に逆らって消えていく。この強さ。

 

この強さは、いったいどういう育ち方をして身につけたのだろう…と不思議に思っていました。

女性はお唄のお師匠さんとのことなので、もしかしたら吉也さんと同じような境遇だったのかもしれない、と今では想像します。

また、るつ子を育てた『おばあさん』も、この女性たちと似たような気質があります。

竹を割ったようにさっぱりとしていて、頭脳明晰で弁も立つ。出しゃばりではないけれども、自らの判断力に揺るぎない自信を持っている。

前半生に相当な苦労を経験したのかもしれない。

世を恨んだり、親を憎んだりしたこともあったろうけれども、そのうちに生きるということの深さを悟ったのかもしれない。

 

るつ子自身はそこまでの強さはまだ身につけてはいません。けれども姉から

『着付け』にこき使われているうちに、技術を身につけ、更に技術を磨く面白さに目覚めてゆきます。

我儘な姉たち、複雑な家庭環境、余裕のない家計。

おばあさんから知恵を授けてもらいながら、切り抜ける逞しさをも備えつつあります。

 

るつ子の自我が少しずつ形成されてゆくさまを眺めることは、私も仕事をする上で色々と気付きをもらえました。

少し前を歩いていた女性たちから、まだまだ学べることがありそうです。