講師(宗夜)ブログ
●2023年よし庵お稽古初め
2023年の初めのzoomお稽古は鶯の谷渡りでした。私たちがこちらのお点前に向き合うのは今回で3回目になります。
3年という月日を経て朧げながら見えてきたものがあります。
最初に目にした時。
『実はこんなお点前もあるんだ。ちょっと見てほしい』と宗嘉から紹介された時。
いったい何というお点前だろうか…と驚きました。派手であることにまず驚きました。
そして格好いい。
しかし直感的に危うさも感じました。
派手さが目につくけれども、その裏には何か意図があるように思えました。
茶道は単なるパフォーマンスではないという思いから、このお点前は宗嘉による披露に留め、お教えすることは控えております。
このお点前を目にして3年。
今年になって、初めて内在する精神性に触れたような気がします。
私たちの現実世界では色々なことがあります。
逃げたくなることもあるし、見たくないこともあるし、耳にしたくない言葉もあるでしょう。
いっそのこと全てを逆さまにして、
逃げたいなら逃げればいい。
見たくないなら見なくていい。
聞きたくないなら聞かなくていい。
翼を持つ鶯になって、桃源郷に逃げてしまえ。
暖かくて優しい場所。
もう誰からも傷つけられない。
そこでは全てが逆さまなのさ。
今まで良いと思ってきたことが良くなくて。
良くないと思ってきたことが良かったり。
そんなこともあるんだよ。
さぁさ、お茶でも一服お飲み。
美味しいかい。
気持ちは落ち着いたかい。
じゃあね、やっぱり帰るんだよ。
時々来ても良いけどね。
やっぱり最後は帰るんだよ。
心配しなくても大丈夫。
今度の現実は以前とは違うよ。
見え方が違うよ。
今からあなたは鯉に姿を変えて、滝を遡るのさ。
昇れるよ。ちょっと痛いけどね。
昇ったらね、そしたらね…
思いもよらない自分の姿に驚くと思うよ。
皆さま『鯉の滝のぼり』の逸話を聞いたことがあるでしょうか?
水墨画に用いられたり、神社の柱などに彫り飾られているモチーフです。
鯉は滝を遡ると龍となる。
たくさんの魚が滝のぼりに挑戦したけれども、鯉のみが成功し、その後に鯉は龍に姿を変えたという故事に由来します。
登竜門という言葉の基になったもので、立身出世を願う『鯉のぼり』もその象徴です。
最初にこのお点前を目にした時、
『なぜ、鯉?』と不思議でした。
3年経ってようやく見えてきました。
私は女性ですから、立身出世という気持ちでこの最後の鯉を見ていません。
宙を翔ける龍となって、
遠い視点から物事を見てみれば、
大きな岩に見えていたものは実は小石だったのだ。
その先に美しい花畑があったのだ。
そんな風に捉えています。
そしてそれはそのまま、私たちの考える茶道です。
『ものを見る角度によって人生が変わる』
宗嘉がことごとく口にする言葉です。
捉え方なんだよ。全ては捉え方。
きちんとした身なりで茶道に向き合う。
お茶を点てて頂き、味わう。
ほろ苦く、最後に甘みが残る。
次は自分が点てて、召し上がっていただく。
今日のお稽古で出来たところ。
そして出来なかったところ。
どちらも大事。
お稽古も、ほろ苦くて甘い。
帰り道は足取りが少し軽い。
そんな時間を共に持てることを、私たちはお稽古の旨としております。
まさにお稽古初めにふさわしいお点前でございました。
ご覧いただきましてありがとうございました。