講師(宗夜)ブログ

2022-10-22 20:39:00

所作(51)●不器用は損ではない。味である。

不器用であること、時間が掛かることは、一般的には評価が低いかもしれません。

大きな組織の中では非効率なことは評価されにくいからです。

 

ですが人生というレースはとてもとても長いもの。前述のウサギとカメのように一瞬で決まるものではありません。人生はその後も続くため、決定的な勝者や敗者となるわけではありません。

 

不器用であることは損ではない。

その人ならではの味である。

そう思ったのは、昔ばなしの語りを勉強している頃でした。

 

昔ばなしの語りをするには、丸覚えすることが大前提となります。

私たちは『おはなしのろうそく』という本を語っていました。一字一句間違えないことを推奨されていましたので、各々できる限りの努力をしていました。

 

ボランティア団体にはお年を召した女性もおられました。たっぷりとした体格の初老の女性でした。

……………………………………………………….

わたし…

若い頃と違って、なかなか覚えられないのよ。

でもねぇ、それで良いみたいね。

……………………………………………………….

 

首を傾げながらゆったりとそう語りました。

そうですよ。それで良いですよ。

 

その方の隣に座ると何とも言えない安心感を得ました。ちょっと口うるさいところもあったけれど、まぁそれも良し。

 

自分とは違う世代の方と関わることも大切だなぁと思いました。

子育て世代はとにかく毎日忙しい。

目まぐるしい日々を子どもと一緒に過ごしていて、立ち止まれない。

そんな中での上の世代の方との交流は、心を安らかにしてくれる貴重な時間でした。

 

私は語りの勉強を家事のスキマ時間にしました。子どもの塾の送迎などの合間に、家事をしながらブツブツと唱えて覚えました。

お風呂洗いとか、食器洗いとか、食事作りとか。

『ああ、もうこんな時間。行かなきゃ。』

そうやって毎日、一段落ずつ覚えていきました。

若さのせいか自分の方が覚えるスピードは確かに速い。間違いも少ない。

 

でも…

味がない。私には味がない。

あのゆったりとした独特の雰囲気は、私にはとても出せない。

 

『わたし…、なかなか覚えられないのよ…』

 

ゆったりとした口調で、少し困り気味に云う。

この可愛らしさ。

 

いいなぁ〜

 

ゆったりと語るその様子。

その女性が教室の真ん中に座っただけで放たれるオーラ。子どもは敏感なのですぐに静かになって耳を澄ます。

 

この前ねぇ、海に行ったらね、赤とんぼが飛んでたのよ。ああもうこんな季節かと思ってね。

いぃ〜っぱい飛んでた。みんなも見た?

 

自然な会話。優しさにわざとらしさがない。

すぐに子どもと仲良くなる。

1年生でも6年生でも変わりなく。

 

昔ばなしは良いわねぇ。

覚えるのは大変なんだけどねぇ。

私は時間は掛かるんだけど、時間を掛けている間に、色々なものが見えてくるのよね…。

例えばここのところとかさぁ…

 

お年を召した方ならではのこだわり。

これが人間の味わいかもしれない。

私は気付きもしなかった。

立ち止まったり…、寄り道したり…、

それが大人女性を可愛らしくするのかもしれない。

そんな風に思えた出会いでした。