講師(宗夜)ブログ
所作(30)●ご挨拶は手をついてから
よし庵ではお辞儀やご挨拶の際、必ず先に手を畳についていただいています。
・手をついてからお辞儀をする
・手をついてから言葉を聞く
・手をついてから言葉を発する
まれに、言葉が先に出て、あるいは先に頭が下がって、後から手がついてくる方がおられます。
よし庵では先に手をつきます、と説明し必ずそのように行っていただいています。
後から手が伸びますと、取って付けたような、いかにも作法が身についていないように見られてしまうのです。
手をついて相手を見て、それから次の動作に移ることで『できる女性』と周囲から見られます。
頭と体を低くしているのになぜできる女性に見えるのでしょうか?
低姿勢ではありますが、へり下っているわけではありません。ビシッと背筋を伸ばして
堂々と体を傾けているその姿勢には威厳すら漂います。
自分の立ち位置をしっかり理解して、その場に適した行動が取れるという知性を感じます。
こういった行動はパフォーマンス心理学という分野から見ても、理に適っているそうです。
視線によって相手の心を掴む天才と言われたのが、第44代大統領バラク・オバマ氏です。
まずスピーチの天才として名高い元大統領でしたが、専門家からは視線の天才とも評価されていました。
頻繁に場内に視線を移し、相手に視線を送って約1秒経ってから話し始めるという手法を取っていました。これにより、観客の持つ親しくなりたいという親和欲求を満たし、億単位の支持につなげたという解釈があります。
歌舞伎俳優も同じように観客に視線を送ります。
見得を切る、という歌舞伎独特の演出があります。ピタリと動きをとめて、一点を見つめる。
全身に力が漲る緊張感のある演技です。
歌舞伎初心者もその格好良さに、思わず大きな拍手を送ってしまいます。
元々は、舞台そっちのけで騒ぐお客さんを睨みつける行動だったようですが、これが大衆に大ウケ。見事な舞台演出として昇華しました。
もしこれが、ガードマンなどに相手をさせて自分はお客さんを無視していたらどうでしょう?
たとえ俳優に理があったとしても人気は下がってしまいます。
人間というものはどのような形にしろ、注意を自分に向けてもらいたい動物なのかもしれません。
人間以外の動物はどうでしょうか?
霊長類で言いますと、チンパンジーも視線によって群れを統率すると言われています。
白目の大きいオスが高い確率でボスに選ばれるそうです。白目が大きければ大きいほど視線がハッキリするからです。
視線による統率を専門家は『ゲイズグルーミング』と呼んでいます。ゲイズ(gaze)は注視するという意の英単語で、グルーミング(grooming)は毛繕いです。
視線による毛繕いで群れをまとめているのです。
チンパンジーがゲイズグルーミングでまとめられる個体数は約47.6体だそうです。
ヒヒは、約64体。
人間は、約147.8体。
霊長類は白目の大きさに比例して群れの個体数が大きくなっているとのことでした。
私たちの体内では、視線を合わせるだけで幸せな気持ちにさせるホルモン(オキシトシン)が分泌されているそうです。
群れが大きく強くなることが、自分の身の安全に繋がったのでしょう。
種が生き残る策だったのです。
話をもっと文化的なものに戻しましょう。
私が好きな本に『きもの』という一冊があります。幸田露伴の娘、幸田文が執筆したものです。
主人公はるつ子。舞台は大正時代の日本。
多感な少女の姿が生き生きとした筆致で描かれています。
10代前半頃のある時、友人の家で、魅力的な女性と偶然に居合わせます。
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すらっとしたひとが入ってきて、坐るとそのまま手をついた形で、夫人が紹介をしゃべる間じっとしていて、それからお辞儀をしてにこやかな顔をむけた。ひどくきちんとしてもいたし、やさしくもあった。
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この一文に、私は心を動かされました。
そして自分が指導する立場になったらこの作法を継いでいこうと決めました。
坐って手をついてそのままじっとしている。
たったこれだけの動き。いえ、動いていない。
この一連の所作がどれほど鮮やかに少女の目に焼き付いたことか。
読者である私はすでに成人していましたが、私にも鮮烈な印象を与えたのでした。
この女性は父の愛したひとでした。
それではあまりに母が可哀想ではないかとるつ子は思います。しかし同時に自分自身もどうしようもなく惹かれてしまうのでした。
この第一印象にその人の生き方が現れています。その女性は外見通りに気持ちもスッキリとしたひとで、ベタベタせず自立しています。
るつ子はそのひとの内面を知り、ますます好きになってしまうのでした。
年下の女性が憧れるような女性。
そんな女性に自分もなりたいし、生徒さまにもなってもらいたいと切に願います。
時代の先が見通せず、生き甲斐を見つけづらい世です。
私が若い頃も、いろいろな社会問題はありましたが、それでも今よりは希望がありました。
今は、なんというか八方塞がりの感があります。
ミドル世代の私たちが、きちんとした作法を身につけ、見せて、生き生きと毎日を送る。
その姿が時代を照らす一つの光となるのではないかと思っています。
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和から学ぶ気品ある仕草 美しい所作教室