講師(宗夜)ブログ
●かぐや姫の魅力
先日、竹取物語を読み終えました。
古語と現代語が対に書かれている読みやすい文庫本でした。
前書きに
『全編を読んで初めて竹取物語の良さが発見できます。ぜひ楽しんでほしいです。』
との解説者の願いが収められていました。
本当にその通りでした。
そして私もかぐや姫の不思議な魅了の虜になったのであります。
かぐや姫の不思議な力。
容姿端麗
頭脳明晰
性格キツめ→やや変化か?
正体不明
運を良くする
容姿端麗
匂うような生命力のある美しさではなくて、体温を感じない冷たい感じです。
けれども輝きがあります。
夜でも姫が居れば空間は光で満ちてしまうのだといいます。
本人は自分を美しいとはちっとも思っておらず、自分の容姿に対しても冷たい反応。
『私なんて大して綺麗でもないのに大騒ぎして一体何なのよ』
でもここが魅力であります。
容姿を武器にして人を騙そうとか取りいろうとか、邪な考えがないのです。
冷たいけれども穢れていない。
一切の穢れを許さぬ人間離れした魅力です。
頭脳明晰
かぐや姫は翁に引き取られて3ヶ月で髪上げという成人の儀式をするまでに成長します。
髪上げは初潮の頃(12〜13歳あたり)に行う儀式だそうで、翁は盛大に祝います。
絶世の美女という噂を聞きつけてたくさんの男性が押し寄せますが、最後まで粘ったのが5名の男性でした。
『そのうちの誰かと結婚せよ』
という翁の泣きの願いを上手くかわすために超難題を吹っかけます。
・仏の御石の鉢
・蓬莱の玉の枝
・火鼠の皮衣
・竜の首の玉
・燕の子安貝
それぞれ中国の古い伝説が基になっている空想上の代物。
ご持参くださった方であれば結婚も前向きに考えましょうと言うのでした。
これらの策がパッと頭に浮かぶ切り返しの速さ。
この時代、良家の子女は生まれた時から優秀な乳母に囲まれ、朝な夕な古典・地理・語学・歴史・和歌などの学問を仕込まれたと言います。
それはそれは膨大な量の知識を暗記し、上手く使いこなすところまで学びを積むそうです。
かぐや姫は誰からも教育を受けていないのに、すでに一流の知識を身につけ、和歌を自由に詠む才能にも恵まれていました。
そして大人の男性を手玉に取る駆け引きの巧みさまでも手中に収めていたのです。
人智を遥かに凌ぐ能力を、未だ幼さ残る少女が既に持っている。
ちょっと背筋が寒くなるような…
でも注目せずにいられない不思議な魅力です。
性格キツめ
かぐや姫は常にケンカ腰。
はい、分かりました。と大人しく引き下がる場面は見当たりません。
物語の初めあたり
翁はかぐや姫に『そろそろ結婚を…』と遠慮がちに訴えますが、
『なぜにそんなことをするのですか?』
と食って掛かります。
その後も、求婚者が例の貢ぎ物(全部ニセモノ)を持ってくる度に、
『アレが足りない。コレが足りない』
と難をつけ、嘘を暴き、冷やかに和歌を詠む/あるいは詠まずに無視。
そのかぐや姫が、五人目の求婚者・中納言には少し変化を見せます。
中納言は燕の子安貝を自ら取ろうと落下してしまい、腰を痛めた後に神経衰弱に陥りました。
かぐや姫は珍しく自分からお見舞いの歌を送りました。
中納言はひと時喜びますが、歌を返すと亡くなってしまいます。
。。。。。。。。。
これを聞きてかぐや姫
『少しあはれ』とおぼしけり。
。。。。。。。。。
月のように冷たいかぐや姫に血が通い出した瞬間でした。
自己中の女の子が、人並みの優しさを身に付けつつある。
成長する姿は魅力的です。
正体不明
5名の成人男性を見事に振り、ますます噂が高まって、時の帝までもが興味を持ちました。
女性の使いを遣りますが煙に巻かれ、帝自ら翁邸に赴きます。
翁の全面協力を得て、かぐや姫の姿をしっかり目に焼き付ける帝。
堪え切れずかぐや姫の前に躍り出て、手を掴み、そのまま宮中へ連れ帰ろうとしますと
。。。。。。。。
かぐや姫、きと影になりぬ。
。。。。。。。。
影とは古語では光を指すそうです。
日陰とは日光
月影とは月光。
影の部分を作り出す『光源』を意味するとのことでした。
この場面で、帝も『あっ!』と驚いたし、読者もあっ!と驚きました。
帝が
『頼む。無理強いはしないから、元の姿に戻っておくれ。』
と懇願すると、かぐや姫はもとに戻ったのでした。
読者のドキドキは止まりません。
いったい何者なのか?
運が良くなる
かぐや姫最大の魅力かもしれません。
かぐや姫には運を引き寄せる不思議な力があるのでした。
かぐや姫を引き取ってからというもの、翁は竹取に出掛ける度に、節から黄金が出る不思議な竹を見つけるようになり、瞬く間に大金持ちになりました。
天の使者からかぐや姫を守る際、翁邸を2,000名の武者(土塀に1,000名+屋根に1,000名)で囲んだというのですから一国のお城の並みです。
お金持ちにさせる他にもう一つ。
かぐや姫はひとを若返らせる力を持つようなのです。
物語の初めの方では
『翁年七十に余りぬ』
とありました。
その後二十年くらいをかぐや姫と過ごしたので、最後は90歳頃のはずです。
それが…
『翁、今年は五十ばかりなりけれども…』
と終わりあたりで記されていたのでした。
これを読んで読者はびっくり仰天!
なぜに20歳も若返っているのか?
『月の住人は悩みもなく歳も取らないのだ』
と作中にかぐや姫が述べていました。
かぐや姫の光を毎日のように浴びていた翁もどうやら一年ずつ若返ったらしいのでした。
ですが翁はかぐや姫を失う悲しさに打ちひしがれ、老け込んでしまいました。
結局は実年齢に戻ったようでした。
昇天する直前、最後の最後でかぐや姫は帝に文をしたためます。
。。。。。。。。
いまはとて
天の羽衣
着る折ぞ
君をあはれと
思ひ出でける
天の羽衣(身に纏うと地上の全てを忘れてしまう)を着る今になって初めて、帝をお慕いしている気持ちがしみじみ湧いてきます。
。。。。。。。。
と愛の告白をするのです。
かぐや姫と帝とは、衝撃的な出会いからずっと和歌での文通を続けており、その付き合いは三年に及びました。
成熟した女性の恋心を最後の最後で手に入れたかぐや姫。
しかし書き終わるや否や、御付きの者が羽衣を着せ、かぐや姫は一瞬で月のひとに戻り、振り返りもせずに天に昇るのでした。
残された帝。
文と共に託された不死の薬を、富士山の頂にて文もろとも燃やすよう指示します。
。。。。。。。。
あふことも
涙に浮かぶ
我が身には
死なぬ薬も
何にかはせむ
かぐや姫に二度と会えないのならば、不死の薬も何の役に立とう。
。。。。。。。
素晴らしいエンディング。
叶わぬ恋ではありながら、この清々しさ。
かぐや姫にも帝にも未練がない。
かぐや姫は、翁と媼のためにはオイオイと泣きますが、帝のためには涙を流さないのです。
帝も自分で燃やすのではなく、使者に作法を指示して燃やさせます。
帝自身は政務についているのでしょう。
二人とも子ども染みた行動は取りません。
真の大人です。
本当に心が痛むとき、
または本当に愛しさを覚えるとき、
涙という形を超えた、もっともっと深いところに静かなる感情と感動が湧くように思います。
清らかなる竹取物語。
月の美しさをそのまま映したような。
千年という時を超え、人々が紡いでいった気持ちがとてもよく分かります。
これから先も繋がっていくのだろうなぁと永遠を感じるのでした。