講師(宗夜)ブログ
●弘法も筆の誤り
『弘法も筆の誤り』という諺があります。平安の三筆に挙げられる弘法太師であっても間違いは有り得るという諺。
道を究めることの難しさを表しています。
芸事は難しい。
本当にその通りだと思います。
宗嘉先生と工藤は、毎日のように茶道に向き合っています。
茶室の室礼(しつらい)や、棚の種類、花月をも含めると数百種に昇るかと思われるお点前を、珍しいものも含めて毎日のようにリモートにて配信しております。
本番一発で録画を決め、すぐに片付けて午後の対面お稽古に移ります。
毎回ほぼ一発で録画は完了しますが、まれに『あっ』と小さな間違いもあります。
100%を確実に打ち出すことの難しさを感じています。
書道の先生もごく稀に
『あ、この線ちょっと膨らみ過ぎましたね』
と仰ることもあります。
指導中会話をしながら線を引いているので呼吸などの振動に依って多少誤差が出るのだと思います。
先生の間違いを目にした時、生徒さんには2通りの感じ方があるようです。
。。。。。。。。。。
●道の険しさを感じる生徒さん
●先生の腕を疑う生徒さん
。。。。。。。。。。
自分の歩んでいる道はそれほどまでに険しいのだな。
誰にだって間違いはある。
自分も謙虚に学びを積まなくては…
と思う生徒さんは、先生との信頼関係が築けていらっしゃいます。
それに対して
せっかく習いに来ているのに残念だわ。この先生大丈夫かしら…
と先生の腕を疑われる生徒さんは、先生との信頼関係が築けていらっしゃらない。
どちらが悪いという判断は出来ません。相性の問題です。
色々なケースがあるでしょう。
『先生の間違いを指摘しても良いでしょうか?』
という質問を受けました。
在籍している社中の先生のご指導に誤りがあったとのことでした。
自分のお点前に間違いは無いのに、先生から間違いだと断言されたそうです。
間違っているのは私ではないのに。
悔しい。
その気持ちとても理解できます。
真面目であれば尚のこと。
もしかしたら先生の口調も鋭いのかも知れません。
学ぶ意欲が削がれ悲しい気持ちになってしまうことでしょう。
でも…
『目の前の先生のお言葉に従ってください』
と工藤は回答しました。
『目の前の先生がルールブックです』と続けました。
どうしても我慢が出来なければ先生を変えるしかありません。
お金を払ってお稽古を受けているのです。常識的に考えれば消費者に理があると言えます。
その際は、黙って去ることをお勧めします。
理由を述べたり、今までの感謝を伝えたりする必要はありません。
相性が悪かった、それ以外に原因は無いのですから。
そして先生を見る目を養って、次こそ本物の先生を探しあてましょう。
しかし環境により、もし社中を変えることが叶わないのであったら、気持ちの持ち方と行動を変えるしかないでしょう。
前述のように、宗嘉先生と工藤も、稀では有りますが間違いがゼロではありません。
お互いに側で見ていて『あっ』と思うこともあります。
タイミングを見計って口添えすることもあれば、全体の流れを優先して黙っていることもあります。
間違いを許せない生徒さんは去られます。
逆に…、成長を長い目で捉えて楽しさを感じてくれる生徒さんはずっと居てくださいます。
共に成長する喜びを感じています。
『それが理想だけど、なかなかそんな教室近くにないのよ』
と思われることもあるかも知れません。
では、ここでもう一つの選択。
自分で教室を立ち上げることに目を移してみましょう。
お教室を立ち上げるのに必要な要素は主に五つ。
・技術
・時間
・空間
・資金
・生徒の育成期間
【技術】
言わずもがな、であります。
まず技術がなければ話になりません。
茶道以外に着付け、華道、書道、香道などの心得も含まれます。
その道のプロとまでは行かなくとも、まぁまぁの腕前は必要です。
因みに宗嘉先生は、懐石料理と和菓子の師範でもあります。
宗嘉先生の場合はプロです。
【時間】
生徒さんをお迎えしたなら、簡単に休むことは出来ません。
学びの場を安定的に供給することが、教室運営の第一の責務です。
工藤の最初の師匠も、お休みは盆暮だけでした。
よし庵では暮れのみです。
講師の学びはスキマ時間に行い、お稽古には響かせないことが理想です。
【空間】
住居空間とは別の、茶道のみの空間を茶室とすることが望まれます。
寝起きをする場所には、生活感が溢れてしまいます。
女性は匂いに敏感です。
どんなに懸命に掃除をしても生活感は拭えないでしょう。
日常から切り離された異空間を演出するためには、茶室専用の空間が必要と言えます。
【資金】
茶道はとにかくお金が掛かります。
たくさんのお道具、お炭、お茶、お菓子、光熱費などなど…。
女性の先生であれば、着物。
着物は高価なのに消耗品です。
講師にとって着物は自分を飾るものではありません。
日本文化の象徴として着物は外せないアイテムです。
また、茶道道具の材料費の価格変動に教室運営も左右されます。
昔から炭の値段は上がる一方でしたが、それだけでなく手に入れることも難しくなってきています。
【生徒の育成期間】
初心者が盆略点前や和室での立ち居振る舞いから始めて、何となく形になるのに約3年。
茶道のお点前を人前で出来るようになるのに約5年。
茶道は、講師一人、生徒一人では成り立ちません。
複数の生徒さんがいらっしゃらなければ出来ないお点前もたくさんあります。
ところが人材の育成にはとてもとても時間が掛かります。
いかがでしょう。
お稽古を成立させる裏には、運営側にもたくさんの努力が必要であることがお分かりいただけましたでしょうか?
前述のように、どうしても我慢できなければ先生を変えるしかないのですが…
先生の立場になると、生徒の立場からは見えなかったものが見えてくるかと思います。
舞台裏に気付くことが出来ると、人生の捉え方が多角的になります。
そうなると短慮による損失が減ってくると思われます。
結局のところ、損か得かであります。
ちょっと嫌だな、と思うことがあっても
『でもその前は楽しかったし』
『お菓子も美味しかったし』
と思えたならお稽古への気持ちも変わってきて、表情も明るくなってくるでしょう。
そうすると先生も影響を受けて
『私が言い過ぎたわ』
と思われるかも知れません。
教室の運営上、立場に上下関係はあります。が、人間の力としては上も下も存在しないと本当に思っています。
お稽古の場を創ってくださる先生に感謝をしつつ、生徒さんの側からお教室の成長に働きかけることも可能なように思います。
先生も生徒も教室も、みんなで成長できたら、とても素敵な時間になることでしょう。