講師(宗夜)ブログ
●スレンダー美人、柄杓
柄杓の形。
頭がまん丸で大きくて…、かわいい。
と思うのは私だけでしょうか?
まん丸、かわいい。
竹の節の自然な形を生かして作られています。
裏側がすこし凹んでいるの、ここもかわいい。
体はシュッとスレンダーで、美しい。
柄の中心の竹の節が素敵なアクセント。
そして全体に竹の繊維が縦に走っている。
ここに成長の速さを感じます。
そして全側面が滑らかに研磨されています。
亭主が怪我をしないように角が丸くなっています。
作り手の優しい思いやりを感じます。
でも…
お道具の中で、最も頻繁に買い替えるもの。
それも柄杓。
落としてしまうことが多いからなのです。
頭が大きいのでバランスが悪い。
結果、落としやすい。
もちろん、わざと落とすような方は一人もおられません。
皆さま真剣にお稽古を行ってくださっています。
落とした際には申し訳ないと謝ってくださいます。
だけれども…
打ちどころが悪ければ一回の落下でヒビが入り使えなくなります。
それに、やっぱり柄杓がかわいそう。
頭から落ちてとても痛そう。
そして、お値段も決してお安くはないのが現実です💦
スレンダー美人をみんなで大切に扱いましょう。
柄杓を落とさないためには何に気をつければいいのでしょうか?
落とさないコツを3点にまとめてみました。
《柄杓を落とさないコツ3つ》。。。
①ターンする時の足の位置を迷わずに決める。
②左手首を直角に曲げて健水の上線を水平に保つ。
③静かに動く。上下左右に揺れない軸を整える。
。。。。。。。。。。。。。。。。。
①ターンする時の足の位置を迷わずに決める。
足を進める時に一本の細い線を感じながら歩きます。足の親指と人差し指の間に、その細い線が一直線に走っている意識です。
ターンの時には、足をかぶせるように直角に交わらせるのが美しく回るコツです。
直進と直角の動きをすると畳も痛みません。
動きに迷いがないことで目線が泳がず、お顔の表情も引き締まって美しく見えます。
②左手首を直角にまげて健水の上線を水平に保つ。
手首を直角に曲げて床と平行にする意識を持ちます。体が動くのに合わせて水平を保つのは結構難しい技だと思います。手首の柔軟性が大切です。
おうちでこの動きを練習する場合には、少し深めのお皿にビー玉やピンポン玉などのボール状の物を入れて練習すると効果的です。
ご自身の体だどれだけ揺れているのかがよく分かります。
③静かに動く。上下左右に揺れない軸を整える。
これが最も難しいかもしれません。
揺れている人は、ご自身の揺れを感じないからです。軸を整えるのは簡単ではありません。
私は常に踵(かかと)をくっ付けるようにしています。何気なく立っているときも踵をくっつけています。それだけでも効果的です。
もしも根本的にご自身の姿勢を変えたければ、宗嘉先生主催の『茶道パフォーマンス』のご受講をお勧めいたします。
宗嘉先生は幼少の頃から武道に親しみ、合気道・空手の有段者です。
武道ではお稽古の前に必ず準備運動を行います。
怪我をしないように体と心に刺激を与えてギアチェンジをします。
安心、安全な日常から離れて『戦う身体』に変えていくのです。
武道は、武術の流れを汲んでいます。
現在、スポーツとして自己鍛錬のために存在している武道の数々は、江戸時代には武術として存在いしていました。
剣術から剣道が生まれ、
柔術から柔道が生まれました。
合気道は、沢山の流派の総合武術を親としています。
武術は戦場で実際に戦うための術であります。
生と死を分ける闘いです。
しかし、武士の世である江戸時代が終わりを告げると共に、武術は武道として精神哲学を有するスポーツへと変貌を遂げました。
スポーツではありますが、真剣勝負ですので何が起こるか分かりません。
準備運動は自分の体にも相手の体にも責任を持つことを教えてくれているように思います。
そのような視点で茶道を見ますと、柄杓の長い柄は刀の扱いから生まれた所作のように感じます。
おそらく無関係ではないでしょう。
安心、安全な現代の暮らし。
『でも本当はやっぱり、何が起こるか分からないんだよ。いつでも体と心を準備しておいてね。』
バランスを取るのが難しい柄杓の扱いは、そんな風に私たちに問いかけているのかも知れません。
平和な世に甘やかされ過ぎないよう気をつけたいものです。
柄杓。茶室のスレンダー美人さん。
扱いを極めれば、きっとご自身もスレンダー美人さん。