講師(宗夜)ブログ

2023-11-30 14:48:00

⚫︎よし庵口切りの茶事

霜月の最終日曜日

よし庵にて口切りの茶事が催されました。

 

待合にて皆さまと顔合わせ。

いつもお稽古でご一緒とは言え、皆さま少しだけ違う表情。

口切りという特別な茶事に対しての、期待感と緊張感、そしてこのひと時を共に味わえる喜び。

それらが内側から滲み出ていて、頬がバラ色に上気してどなた様も美しく輝いておられました。

 

待合での作法を済ませ、腰掛け待合に移り、躙口から茶室へと入る。

広い空間から一旦狭い口を経て、各々が連なって茶室に入るさまは、生命誕生のようなドラマを感じました。

静まり返った茶室には、衣擦れの音だけが響きます。

皆さまのお召し物もとても上品で、衣擦れの音にもそれは表れており、音がそれぞれの色に染められておりました。

 

ひとしきりご挨拶を済ませたところで、お正客さまよりお茶壺拝見のご所望を承ります。

 

キュッキュッという小刀の心地よい響き。

口を切るとき、誰もが固唾を飲んで見守っていました。

 

亭主の『いずれのお茶を差し上げましょう』

という問いに対し、皆様でご相談の上

『では、雲鶴をいただきとう存じます』

とお正客様がお答えになりました。

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亭主が蓋を開けた瞬間、瑞々しい茶の香がふわり舞いました。

サササササ……

薄茶葉(詰茶)が上合に出されます。

さらに芳しく茶が香ります。

お茶席への期待は高まるばかり。

 

その後、亭主により蓋が戻され、詰茶と他のお濃茶は壺に封印されたのでした。

大きな盛り上がりを見せたお茶壺は、朱の口緒を結ばれ、お茶席の際には床に静かに鎮座しておりました。滑らかな曲線美を持つ堂々たる風格。

まさに主人公。

 

お茶壺の拝見の後には、生徒様による初炭手前。

お稽古にお稽古を重ねた、素晴らしい初炭手前でございました。

座掃きもキリリと引き締まり、お炭の配置も美しく口切りの茶事に相応しい格調高いお手前でした。

 

炉のお炭はどれもたっぷりと大きく、よくはぜて、パチパチと心地よく炉の中で歌います。

宗嘉先生が一つ一つ、よく洗い、よく乾かして下準備したもの。

湿し灰も、何とも言えない美しいグレージュで、こちらも宗嘉先生が丹念に下準備したもの。

茶道はこのように、一見では分からない沢山の手数が掛かっています。

その手数の多さを深く理解していただくこともお稽古のうちだと思っています。

 

そのため、茶道ではお稽古にしろ、お茶事にしろ、簡単にはキャンセルしてはいけないという暗黙のルールがあるのです。

大人の女性としての素養の一つでしょう。

現代は消費者至上主義ですから、お金を払う度に

『ありがとうございます』

とどこでも頭を下げられます。

頭を下げられれば何となく自分が偉くなった気持ちになります。

でもここが落とし穴。

万が一相手がお金を受け取らなければ、そのサービスも受けられなくなってしまいます。

立場は対等なのです。

そして双方が対等な立場であることを、茶道は私たちに思い出させてくれています。

亭主役になり、お客様役になり、様々なお役を通じて私たちは人としてのルールを学びます。

例えば江戸時代。

日本は度々飢饉に見舞われました。

富める者も貧しい者も同様に飢えに苦しんだそうです。お金は何の効力も発揮しなかったと史料は語っていました。

 

他者の気持ちや苦労を慮ることが人としての深みとなり、知らず知らずのうちに幸せの差につながってしまいます

茶道が美しい所作を身につけるだけでなく、心を磨く場であると言われる所以はここにあるのでしょう。

パチパチとよく歌う炭は、朗らかに優しくその後もずっとお茶室全体を暖めてくれたのでした。

 

その後、心尽くしの茶懐石料理。

お作法通りにお料理が進みます。

ご飯は土鍋で炊きました。

真っ白い光を放つお米のつぶつぶ。

口に含めばふんわりと優しい甘み。

 

お汁は白味噌引き立つ合わせ味噌。

汁椀の中央に六角形の里芋。

その上に、丸い練り辛子。

チョコンと小さな一粒の小豆が練り辛子のお座布団にお行儀よく座っていました。

黒塗りのお椀に、薄黄色のお汁、象牙色の里芋、濃い黄色の辛子、小さな一粒の小豆。

襲の色目のような汁椀でした。

 

向付は昆布締めの鯛。

一塩細造

昆布の風味りが鯛のもっちりとした旨みと相まって豊かなハーモニーを奏で、わさびの爽やかな辛みが後を追って鼻に抜けます。

 

メインのお椀は飛竜頭。

柚子の細切りが菊を思わせ、ほうれん草の緑と共に鮮やかに目に飛び込んできました。

お出汁のいい香り…。

ほぅ…と静かなため息が茶室に溢れます。

ふわりと口当たり優しいお豆腐の中に沢山の具が含まれていて、一度揚げたものをこくのある餡がまったりと包んでいます。

具の銀杏が僅かな苦みを加え、味に奥行きを持たせます。

 

焼物は鰆。

焼き目はパリッと、中はふんわり。

カラスミでよそ行きの装い。

鰆ってこんなに美味しかったんだ…。

素材の持つ旨みを存分に活かし切るお料理に、どれだけの細やかな感性が注がれているのだろうかと想像しました。

 

預け鉢は柿と春菊の白和え。

ここに来て柿の爽やかな甘みの演出。

白和えはよく冷えていて、ジューシーさが増していました。

トータルコーディネートの成せる技。

 

八寸には、

蓮根と銀杏の素揚げ&自家製ポップコーン。

鴨のロースト。

 

湯桶には、土鍋のお焦げを入れました。

自家製の香の物と共にサッパリと。

 

誠に美しい茶懐石料理でした。

一つ一つのお料理の完成度も去ることながら、全体のバランスが素晴らしく、お料理の流れにストーリーを感じました。

皆さまも大満足のご様子。

 

さて、お料理の後には…

またもや宗嘉先生特製の、亥の子餅が供されました。口溶けよく上品な亥の子餅。

そして皆様は腰掛け待合に一旦お戻りになり、後座へとお席が改まるのです。

 

続きお薄のお点前も、生徒さまにより行われました。ご担当の生徒さまは、前述の生徒さまと同じく、何度も何度もお稽古を重ねてくださいました。その真剣な佇まいにこちらも襟を正す思いでした。お正客さまも、お次客さまも、同じように真剣にご参加くださり、お茶室全体の空気が高尚なものへと隆まりました。

本当に素晴らしいお席でございました。

ご亭主の慎ましやかでありながら、充足感に溢れた笑顔はとても美しく、私も心が満たされました。

 

茶の湯を嗜む者にとって、お茶事にて亭主役を遂行することはある種『夢』であります。

大抵の社中においては、茶事そのものが大イベントであり、年に一度もしくは数年に一度の稀有な機会なのです。

 

『夢』を持てる喜びを是非多くの皆さまに味わっていただきたいと、よし庵では隔月で茶事を催しております。

大人になってから夢を持つことは、子供の頃の夢よりもずっと大事だと私は思います。

現実が見えている大人だからこそ実現可能な夢になるのです。そして一つの夢を実現させると次の夢が見えてきます。

夢を追い続けている女性は素敵に輝きます。

家庭の中心である女性が輝けば、ご家庭全体がきっと輝くことでしょう。

幸せオーラを纏っていると、つられて周りの人々も幸せになるからです。

 

幸せなお茶事を夢見て…。

さぁ、また明日からよし庵で茶道のお稽古です😊🤲

結局、平素日ごろが大事なの😉🎵