講師(宗夜)ブログ
●夕去りの茶事
文月後半の日曜日、よし庵にて夕去りの茶事が催されました。
会員さまの中には、オーストラリアからのご参加者もおられて、とても盛り上がりました☺️
生徒様はコロナ禍最中の数年前に私どものzoom茶道教室にご入会くださいました。
最初は午前中の初級・中級コースをご覧になられていたのですが、『私には難しすぎます😥』というお声をいただき、初級入門コースを立ち上げました。そして初級の資格を取得されて、その後に中級実践コースに進まれて、中級も取得され、ついには先ごろに上級の資格に申請したところであります。
最初のうちはお互いに手探りのお稽古でした。
お茶巾はこう畳みます…とか
茶碗はこう拭きます…とか。
カメラの向きをあっちこっちに変えてお稽古していました。
『お茶碗を拭いているうちにどうしても正面が向こうに行ってしまうんです…』
と悲しそうな顔をされていたので、
『ではナビしますので、私の言う通りに手を動かしてみてくださいね』
とお稽古をしたところ、
『あ、来た、正面来た。すごーい!』
と声をあげて喜ばれていた姿が今でも目に浮かびます。
一度などはミュートのままお稽古をしていて、それに気付かずに最後までミュートで通してしまったこともあります。
生徒様は画面の前で無音のお稽古にずっと付き合ってくださって、終わってから『ごめんなさい、ごめんなさい🙏』と私は平謝りしたのでした。
そんなお稽古の途中で、
『いつか会えたら良いですね。いつかお茶事に参加できたら嬉しいですね』
と頻繁に語り合っていました。
それが今回本当に叶いました。
お茶事の迎えつけのご挨拶にて、
『口に出したことは叶うんですね』
とお互いに涙を堪えながら喜びを噛み締めました。
夕去りの茶事は、主催者としては私たちも初めての経験でした。
最初は蝋燭に火を付けるのは怖く感じたのですが、実際に灯してみると和蝋燭の炎は優しい暖かさで安心感さえ感じました。
ゆらめき方が独特で、古の先人たちは長らくこの炎で生活していたのか、と思うと自分たちもその空間にタイムスリップしてしまったような不思議な感覚になりました。
ご亭主をしてくださった生徒さまは、実に慎重に手燭を扱ってくださいました。
お点前もスラスラと流れるようで実に素晴らしかったです。
ほの明るい茶室にて、亭主の集中力が客側にも伝わり、それぞれの意識が近づいてひとつにまとまる感じが何度もしました。
意識の糸が束ねられたり、ほどかれたり、を繰り返しつつ時が進んでゆく、そんな景色でした。
『和蝋燭の優しい灯火の中でのお点前は、いつものお稽古では味わえない不思議な感覚になりました…』
とご亭主がしみじみと仰っておられました。
『是非皆さまにもこの感覚を味わっていただきたい』と。
日々医療の現場に立たれ、人の心理状態に詳しい専門家でいらっしゃる生徒さまのお言葉です。
何かを肌で感じられて、優美さの根拠を得たような、不思議な満足感が言葉からも表情からも伺えました。
参加者の全員が、しばらく夢うつつの状態で、幽玄な空気に浸っていました。
今回の夕去りの茶事にて…
日常を離れて、ガラリと雰囲気を変える経験をすることは、とても大切だと思ったのでした。
どこか特別な場所に行かなくても、自分たちの努力で、空間をこれほどまでに大きく変えられるのだという経験は貴重でした。
体の中の新しい細胞が目覚めたかのような茶事。
これからもそのような茶事を心掛けて参りたいと思ったのでした。