講師(宗夜)ブログ
●着付けの心得
着付けの準備はしっかりと整えましょう。
準備が出来てから、着付けを開始します。
世の中には沢山の着付け教室がありますが、どのお教室でもこの作法だけは変わりません。
必要なものを必要な順に取りやすく。
きちんと並べてから着付けを開始します。
着付けの途中で『アレがない、コレがない』と動き回らないようにいたしましょう。
動き回るとせっかくの着付けが崩れてしまいます💦
着物をきちんと身に纏っている方は、着ている途中も美しいのです。
『一畳で着て、一畳で脱ぎなさい』
と着付け教室では厳しく躾けられます。
『一畳では広すぎる、半畳で十分』というお教室もあります。
最初は厳しく思われるかもしれません。
ですが、ぜひ実践していただきたいです。
自分が教える立場となってみると、この躾は大人の女性が素敵に存在し続けるためにとても大切なことを教えてくれていると思うからです。
着姿にその方の精神性が表れます。
着姿がきちんとされている方は、全てにおいてきちんとされている印象を周りに与えます。
言葉遣い、所作、時間やお金の管理など。
そして実際にお付き合いを重ねてみると、やはり最初の印象通りのお人柄ということが多いのです。
着付けの技術は訓練を積み重ねてようやく身につけられるもの。それが分かっている人同士は、一目見ただけで相手に信頼を持つことが出来ます。
着物を日常的に身につけていた時代は、このような躾は母親の仕事であったことでしょう。
子どもと大人の着付けは異なります。
その節目となるのが『十三詣り』に当たると思われます。
数え十三歳になった男女のお祝いの儀式で、子供用の着物から大人用の着物へと身につけるものを変えていきます。
18世紀の後半(江戸時代中後期)から行われた儀式とのことです。
十三歳というと、ほぼ初潮の時期と重なります。
ここで肩上げしていた子供用の着物を、大人用のものにして、衣紋も抜くようになります。
娘を持つ母親ならではの心配が、この時期にはあるように思います。
初潮を迎える年頃の娘さんは、野生的な色気のようなものが所々で表れてくるものだと思います。
まだまだ子どもだと思っていたのに…
母親から見てもドキリとするのではないのでしょうか。
腕や脚がほっそりとしてきて、首も長くなって綺麗になって。
色気があっても心配。なくてもまた心配。
どちらにせよ、素敵な女性に育ててあげたい。
野生的な色気を淑女の美しさに整えてあげたい。
そして大人の女性の着付けを娘に手取り足取り教えたことでしょう。
そのためなのか、着付けは難しいです。
十三歳というとまだまだ遊びたいお年頃。
幼さ残るその年頃には、余計に難しく感じられることでしょう。
『でもね、いつまでも甘えていてはいけないの。
もう大人なのよ。』
着付けは、そのように教えてくれているようです。
江戸時代中後期というと、文治政治や貨幣経済が整っていた頃です。
身分制度はあったにせよ、自らの才覚によって経済力を付けられる世の中でした。
シンデレラストーリーも夢ではなく、実際その時代の女の子達は、幼い頃から諸芸のお稽古に励んでいたという記録が残っています。
諸芸をするにもまず見た目(着物)ありき。
当時の母親も現代に負けない教育ママ振りを発揮していたのではないでしょうか。
大人になる年齢が、現代よりもずっと早かった時代。私にはその頃の考え方の方が、自然に思えます。私たちは余りにも甘やかされてしまった。
そんな風に思えます。
甘やかされているようで、誰からもハッキリと注意されないようで、でも最後は厳しい現実が待っている。
その現実に直面すると誰もが困惑する。
『え?なんで?なんでいけないの?』
誰からもハッキリ注意されたことがないから、許されることと許されないことの判断がつかなくなってしまった。これはつらい。
周りも迷惑するけど、本人が一番つらい。
着物を着られるようになったからといって、全てが解決するわけでもないけれど…
すぐに淑女になれるわけではないけれど…
それでも確実な一助になると私は思っています。
大人の女性には、ぜひ着物と向き合う時間を持っていただきたいです。