講師(宗夜)ブログ
●門出
現在、4月の半ば。
門出の季節🌸
よし庵の生徒さまたちにも様々な変化が訪れます。
『転職したので慣れるまでお稽古回数を控えます』
『仕事を再開しましたので今月だけおやすみします』
『娘が結婚します。準備に忙しくなるため、数ヶ月お休みさせてくだあさい』
女性の人生は何かと変化が大きく、自分の用事は後回しにしてしまうこともありますが、それは一時期のこと。
落ち着いた頃にまた茶道を…と思っていただけることがいつも嬉しく存じます。
皆さまの人生に寄り添えるお教室であることが私どもの喜びであります。
ところで、この門出の季節になると思い出す高校時代のエピソードがあります。
高校3年生の卒業間近のこと。
選択科目の小論文の授業にて。
最後の授業で、
『私の3年間とこれから』
という題で小論文を書くように宿題が出ました。
そして皆の前で読んで発表する、というものでした。
私は動物写真家の岩合光昭さんを取り上げ、
『私も岩合さんみたいに何か好きなものを見つけて、とことん追いかけてみたい』
と文章を綴りました。
最後の方に教卓に進んだのが、大人しいS子ちゃんでした。
S子ちゃんは勉強好きな、大人しい女の子でした。
やや大人しすぎるほどに大人しく、挨拶が返ってこない子でした。
ほんの数回だけ喋ることがあり、珍しかった為にものすごく驚いた記憶があります。
いつもいつも勉強していたのが印象的で、推薦枠を狙っているように見えました。
S子ちゃんが話し始めました。
。。。。。。。。。。。。
私の3年間。
この小論文を書こうと思って、机に向かったのですが、何も思いつきません。
いつも勉強ばかりしてきました。
『私の3年間は、一体何だったのかなぁ』と思ってボーッとしていたら、お母さんがやって来て
『何してるの、勉強しなさい』って……
。。。。。。。。。。。。
『ぅわぁ…』
S子ちゃんは突然顔を覆って泣き出しました。
『うぅ…』
押し殺していた感情が爆発して抑えきれず、後から後から涙が溢れてくるようでした。
見ている私たちも呆気にとられて、どうしたら良いのか分からず、先生もどうしたら良いのか分からず、でもやっぱり最後は先生が肩を支えて席に着いたのだろうと思います。
可哀想なのは、誰も友達がいなかったために、一人の同級生も近寄らなかったことでした。
別にいじめられてもいなかったし、嫌われてもいませんでした。
高校生くらいになると半分は大人だから『こういう子も居るよね』という対応でした。
S子ちゃんは席に着いてもしばらく涙が止まらずにいました。
可哀想という言葉だけでは収まらない、生の人間の姿を見て、高校生それぞれがすごくショックを受けました。
言葉以上に雄弁で、人生というものを考えさせられた一つのエピソードになりました。
この経験が、自分の子育てにも、今の講師の仕事にも大きな影響を与えているように思います。
本人が望まないことを押し付けても上手く行かないということ。
目の前の人に愛情を持つなら、伸びたいと思う時期まで静かに待つこと。
人と人には適度な距離が必要であること。
このエピソードが思い出されるたびに、記憶が自分に何を伝えようとしているのか、想いを巡らせています。
みんなの前で泣いてしまったことは可哀想だったけれども、感情を出して少しはスッキリしただろうと思います。
今になって分かるのは、S子ちゃんは本当はみんなの事が好きだった、ということ。
嫌いな人の前で、人は泣けません。
本当は自分は友達が欲しかったのだ、という自分の気持ちに気付けたことが、彼女の門出だったように思います。
そして見ていた私たちにも、大事な門出となりました。