講師(宗夜)ブログ

2024-04-19 22:11:00

●忘れる快

よし庵の生徒さまは皆さまとても優秀でいらっしゃいます。

学びに余念がなく、きちんとされておられるのでビジター会員さまからお褒め言葉を頂戴することもしばしばです。

 

素晴らしい生徒さまのうちのお一方が、先日ポロリと仰いました。

『ああ。私、次回のお稽古までに今日のご指導を覚えていられるかしら?忘れたくないわ。』

そのお気持ちよく分かります。

覚えるまでは本当に苦しいものです。

(おかしいなぁ、あんなに練習したのにな…。どうしてかなぁ。)

それでは覚えれば楽かというと…

今度は別の苦しみが生まれてきました。

 

飽きる

 

生意気な表現であります。

でも毎日同じことに向き合っていると、新鮮な気持ちが徐々に失われてしまうのが正直なところです。

飽きはプロにとっては深刻な悩み。

自分の仕事に情熱が薄れれば先が見えています。

 

手の動き、足の動き、全部覚えた。

アナウンスも滞りなくスラスラと出てくる。

でもなんだろう、この虚しさは。

600年も続いた茶道の文化。

覚えて終わりなんてことはないはず。

もっと重みがあるはず。

自分にはその重みや深みがどうしても感じ取れない。

芸術の域に近づくことができない。

 

そんな折に宗嘉先生が始めたお稽古が『奥秘伝』でした。

こちらは裏千家茶道のお稽古科目には含まれていません。

その為どなたにも指導は行っておりませんが、茶道の深い世界を味わっていただきたく、よし庵にてzoomでご視聴可能な科目となります。

 

奥秘伝のお稽古を始めてから、新たな意欲が芽生えてきました。

そのきっかけが『忘れる』でした。

奥秘伝には、奥伝と同じお道具を用いる科目が複数あります。

ついつい奥伝と同じ動きに手が流れますと、宗嘉先生から『そこ違う』と注意されます。

そしてその次、今度は奥秘伝を覚えてから奥伝に戻ろうとすると『それは奥秘伝』と注意されます。

(あれ?あれ?)

と頭が混乱しました。

この一見無駄な時間が却って良かったのでした。

翻って、初級・中級などのいつものお稽古や奥伝の味わい方をより深く知ったのでした。

 

また、宗嘉先生ご自身も奥秘伝の研究で茶道の新たな側面を発見したそうです。

動きもご指導も、以前よりシャープになられました。

混乱を経て審美眼の精度が増したと言えるのかも知れません。

 

『忘れる』という現象は、脳の機能の一つだそうです。

進化の過程でむしろ積極的に行われてきたと聞きました。

刻々と変わる状況で即座に判断を下すには、既存の記憶が弊害となることもあるからだそうです。

 

『なぁんだ、じゃあ忘れて良いんだ!』

と思えたら気持ちが軽くなりました。

一旦忘れて組み直す

それをみんなで楽しく行うことが、一つのことを長く続ける秘訣かも知れません。