講師(宗夜)ブログ

2024-03-18 10:32:00

●美のカタチは一つではない

こちらは書道の先生からよく掛けられるお言葉です。

最初は真意が分かりませんでした。

一つの文字の美しい形を真似するのがやっとでしたので、混乱の嵐が吹き荒れるばかり。

『色々あると言われましても…。どれか一つに決めてくださいよ💦』

と泣きたい気持ちになりました。

 

しかしお稽古を積むと、先生のお言葉が少しずつ霧の中から浮かび上がってきました。

『躍動せよ!』

そんな風に聞こえます。

美しい形にこだわるあまり、ガチガチに体を強張らせて、見本と睨めっこして一喜一憂していてはダメなんだ。

文字だって生きているんだよ。

 

例えば基本的なセオリーとしては、

・中心を揃えて

・漢字は大きく

・平仮名は小さく

というものがあります。

その中でも画数の多い漢字はより大きくします。

セオリーを守れば何となく全体的に美しく見えるのですが、魅力的な書にはなりません。

何となく綺麗なんだけど、物足りないのよね…、となります。

その裏に人格が見えてこないからでしょうか。

 

じゃあセオリーなんて無視して、好きなようにやってみようとすると、もうごちゃごちゃ🌀

やっぱり『型』は必要なんだな、と実感します。

 

この美的感覚は一朝一夕では身につかない。

ほんのちょっと傾けたり、字と字との隔たりをずらしたり、トライ&エラーを繰り返して数年掛けて築いていく技術なのでしょう。

この経験こそがゆくゆくは『自分らしさ』となるのかもしれません。

 

ところで…

 

●美のカタチは一つではない

 

この言葉を初めて聞いた時に、ふと頭に浮かんだのが奈良東大寺南大門の『金剛力士像』でした。

運慶・快慶で有名な慶派が作り上げた奈良の金剛力士像は、当初はセンセーショナルな存在であったようです。

筋肉ムキムキであまりにも写実的すぎると。

当初は院派や円派が主流で、この両派は京都の朝廷と関わりが深かったとのこと。

それに対し、慶派は奈良仏師の小さな集団であったそうです。

しかしこの筋肉ムキムキが武士のwantsと合致。

『力こそ全て』を象徴するような美のカタチが、武士の台頭と共に、慶派の地位をも上げていったとのことでした。

そしてまた、納期が異常に早かったとのこと。

この巨大な像を69日で作り上げたそう。

寄木造(よせぎづくり)で3000パーツにも分かれるそうですが、一体どうやって作成を可能にしたのか…。

木は筋目に沿って膨張と収縮を繰り返すと聞きますので、木を知り尽くし、技術を極め、何代にも渡って準備を進めていたのでしょう。

『んまっ、お下品な!』

と最初は難色を示した人々も、

『でもカッコいいかも…』

と、徐々にファンを増やしていったそうです。

 

この躍動感。

私も奈良で実際に目にした時には驚きました。

美のヒントをひとつ示してくれているように思いました。