九九 甘酒屋
冷たくすずしい氷ばかりが暑さを忘れさせるとは限りません。熱くてもおいしい甘酒はどうです。真鍮の色の光ったお釜をかけた甘酒屋の荷は、あの赤色からして夏らしいものではありませんか......(中略)
あの熱いやつを飲みに立寄る行来の人も少なくはありませんでした.....
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【解説】
「破壊」「夜明け前」の小説で知られる島崎藤村が見た当時の甘酒売りの様子がうかがえます。
暑い季節に甘酒が売られていたことが分かります。ただし、その甘酒の売り方は、飲み方は加熱して飲んでいたことが読み取れます。甘酒は常温で放置しておくとすぐ傷むため、冷蔵庫がなかった昔は、お釜で加熱しながら甘酒を販売していました。
甘酒の挿絵でたまに見かけるあの昔の「天秤棒と箱」は甘酒を加熱する道具だったのです。