イタリア研修

2026-09-13 21:30:00

【私たちが「シチリア料理」と呼んでいるもの。】

11月末のイタリア研修に向けて、少しずつシチリアの料理や歴史を調べています。

 

調べ始めて、最初にひっくり返されたことがあります。

私たちが「シチリア料理」と呼んでいるもの。

なんとなく、土地のマンマたちが、昔からある料理を大切に作り続けて、それを娘へ、またその娘へ。

そうやって何百年もつないできた料理。

そんなイメージ、ありませんか?

僕もどこかでそう思っていました。

もちろん、家庭の中で料理が受け継がれてきたことは事実です。

でも、それだけでは「郷土料理」は説明できない。

 

そもそも昔の人たちが、

「土地の食材を大切にしよう」

「この地域の伝統料理を守ろう」

と思って、地元のものを食べていたとは限らないんです。

 

輸送にはお金がかかる。

冷蔵庫もない。

保存も難しい。

所得も高くない。

だから、身近にあるものを食べるしかなかった。

 

保存するために乾燥させる。

塩に漬ける。

発酵させる。

乳はチーズにする。

肉はサラミにする。

今では「伝統的な食文化」と呼ばれるものの一部は、もともとは生活の制約から生まれた技術でもありました。

 

もう一つ、ひっくり返されたことがあります。

 

「昔のシチリア人は○○を食べていました」

これも、実はかなり乱暴な言い方かもしれません。

 

農民と漁師。

地主とそこで働く人。

都市の商人。

貴族。

修道院。

 

同じシチリア、同じ時代に生きていても、みんなが同じ食卓を囲んでいたわけではありません。

さらにシチリアには、外から次々と人や文化が入ってきました。

ギリシャ、フェニキア、アラブ、ノルマン、スペイン……。

作物も、料理技術も入ってくる。

人や物が行き交い、交易も広がっていく。

それを拒んで「昔ながらのシチリア料理」を守ったのではなく、

外から入ってきたものを、それぞれの土地の農業や気候、仕事、経済、宗教に合わせて料理へ変えていった。

その積み重ねの先に、現在僕たちが「シチリア料理」と呼んでいるものがある。

 

例えば、カポナータ。

 

茄子を揚げて、野菜と合わせて、甘酸っぱく仕上げる。

今ではすっかり、「シチリアの伝統料理」です。

でも、昔からずっと、この形だったわけではありません。

 

19世紀の文献には、魚を使い、茄子やアーティチョークなどを合わせたカポナータも登場します。

さらに遡った起源や名前の由来には、今もいくつもの説があります。

 

そして同じカポナータでも、町が変われば、使うものも、甘酸っぱさのバランスも変わる。

パレルモで作られてきたものと、カターニアで作られてきたものも、同じではない。

 

僕たちは、「シチリアの伝統料理、カポナータ」

と一つの名前で呼んでいるけれど、島全体で一つの完成されたレシピが、そのまま伝承されてきたわけではありません。

それでも料理は作られ続け、それぞれの場所で形を変えながら残ってきた。

 

そして今、僕たちはその変化の先にある一皿を、

「シチリアの伝統料理、カポナータ」

と呼んでいるんだと思います。

そう考えると、郷土料理の見え方が少し変わってきます。

 

今回訪れるのは、西シチリアの

Erice(エリチェ)
↓
Trapani(トラーパニ)
↓
Marsala(マルサラ)

という狭い範囲です。

 

同じ西シチリアなのに、これがまた全然違う。

山の上にあるErice。

港町のTrapani。

ブドウ畑とワイン産業のMarsala。

 

今回の研修では、

「これは昔からある料理ですか?」だけではなく、

「この土地の誰が、何を使い、どんな暮らしの中でこの料理を作ったんだろう?」

そんな目で料理を見てこようと思っています。

 

【参考文献・資料】

  • Marina Castiglione編『Tradizione, identità, tipicità nella cultura alimentare siciliana. Lo sguardo dell’Atlante Linguistico della Sicilia』(2011)
  • Marina Castiglione「Il tipico alimentare secondo gli informatori ALS」(2011)
  • Vincenzo Mortillaro『Nuovo dizionario siciliano-italiano』(1853)
  • Accademia Italiana della Cucina「Melanzana, cibo popolare」
  • Massimo Montanari『Italian Identity in the Kitchen, or Food and the Nation』(2013)

 

  • Alberto Capatti & Massimo Montanari『Italian Cuisine: A Cultural History』(2003)