園だより

2022-11-28 15:31:00

ネットに頼ると「負け続ける育児」になる

ネットに頼ると「負け続ける育児」になる

――高橋先生は育児におけるインターネットの過剰利用について警鐘を鳴らしておられます。どういう問題があるとお考えですか。

高橋 大きな問題としてあげられるのは、親たちが自分の育児に自信をなくしていることです。そもそもこの世に「正しい育児法」が存在するかどうかも疑問ですが、それを是として、「正しい育児」とはどういうものか、答えをネットに求める傾向があるのです。情報を“つまみ食い”するのに、ある程度信用できて、一番お手軽なフィールドがインターネットだということでしょう。

 ネットを検索すると、実際、「正しい」と思われる情報がたくさん出てきます。なかでも自分の考えに近く、役に立ちそうな情報を拾い読みしていくと思うんですが、そのときに陥りやすい問題があります。それは、自分か実践している育児と比べて、少しだけレベルの高い方法に「正しさ」を求めがちだ、ということです。

 そうなると、もうキリがない。「これは自分より正しい」[こっちはもっと正しい」となって、ネット検索が「正しい育児」という“鬼”をつかまえる“追いかけっこ”のようになる。これが「負け続ける育児」につながってしまうのです。

 たとえるならそれは、「どんな栄養素を摂れば、病気にならない体をつくれるか」と、正しい栄養の摂り方を求めてネット情報を集めまくるようなものです。検索すれば「亜鉛が不足すると、こんな症状が出ます」「鉄分が不足すると、こんな病気になります」といった具合に、たくさんの情報が出てきます。

 しかし、どんなに体に大切な栄養素でも、大量に摂ればいいというものではない。足りないと病気になるということと、摂れば摂るほど健康になるということはまったく別の話ですが、どうも育児でもそれと似た誤解が広がっていると思います。

 

――ネットの普及が、よその子と比べることを助長している部分もありますね。

高橋 他者と比較するということは、つまるところ、「自分の子を、優秀とされる子どもたちのカテゴリーに入れようとする」ことにほかなりません。個性を認めるのとは逆方向の考え方ですね。

 ネットの普及でその種の情報も「正しい育児」の検索範疇に入ってきています。こちらもやはり「負け続ける競争」にしかならない。学校内やクラス内で試験の点数を比べ合うくらいなら、まだ実感をともなうから勝ち負けがあってもいい。でも全国模試レベルになって、顔の見えない相手、つまり偏差値と比べっこを始めると、いつか必ず負けますからね。

 他者との比較は避けられないとしても、見えない無数の敵、実像をともなわない相手と競争することは避ける。その点だけは気をつけたほうがいいと思います。

[養老孟司 『子どもが心配』より]

・・高橋孝雄 慶応義塾大学医学部小児科主任教授