園だより

2023-05-29 15:07:00

一人の人間が親になるということ

 

一人の人間が親になるということ

 

(1) 「親になる」 ということ

 

 保護者も自分が子どもを産むまでは「育てられ る者」でしたが, 子どもができると急に「育てる 者」という役割を担っていくことになります。 自分はどうやって育てられたのかなど、 自分の育ちを子どもに映し始めたり、母・娘・妻としての自分と向き合うなど、 様々な自分に対する問いが始 まってきます。

 

(2)“育てられ方” との向き合い

 

自分が育ってきた過程で,自分の親との関係が 肯定的であれば、親としての自分を連想しやすいのですが,困難を経験してきた場合, 嫌な記憶を思い出すか、過去に蓋をしたい反応を引き起こす場合もあります。

 

思春期は,それまでの親子の関係をベースにして,親から離れて信頼できる大人をモデルに生きていこうとする大きな段階です。 このときに親との関係が上手くいっていないと,自分に自信のな いまま誰かに依存してしまうようになります。困ったときに頼れる人や愛着対象を探し始め、 パートナー,仲間,支援者がその対象になります。 従って、安定した思春期を過ごせていたかどうかが とても大事になります。 保育者との関係で難しさを感じている保護者の多くは、 思春期の親子関係 が上手くいっておらず、保育者との間で思春期のやり直しをしていることがあります。 悪態をつく, 頼りたいけれど頼れない, 頼っているが先生に言 われたことは聴きたくないなど,このような揺れはまさに思春期の状態です。

 

(3)“育てられ方” と “育て方” の両面との向き合い

 

子どもを産んでから自分の母親との関係で葛藤している保護者が結構います。子ども時代をどのように振り返っているか、特に母親との関係がどうだったか、自分はどんなふうに育てられたのかということを意識します。 例えば, 育て方について口出しをされると, 振り返って思いおこせば,“私は母親の言うとおりに育ってきた”ことに気付くことがあります。「私は自分のやりたいことを全部我慢してきた」ということや, 思春期では,「本当はこっちのことがやりたかった」 という気持ちがあったけれど,親が期待するからこの道を選んだ」ということに気付いてきます。 このように,意識的,無意識的な振り返りから,子どもが産まれて祖母と母親の関係になって対立し始めということがあります。

 

(4)“育て方”の獲得(育てられ方の影響は?)

 

“育てられ方” の影響を受けて “育て方” を獲得していきますが, その養育の仕方は大体3つくらいに分かれてきます。

 

①柔軟型/感受・応答型は,安心できる親子関係です。子どもの安全確保を中心に, 養育行動を明確に把握できる, 子どもに危ないことをさせない、危ないことをしようとすると上手にケアしストップをかけることができます。 子どもの機嫌が悪いときにどう対応できるかがポイントになります。

 

②拒絶型/軽視型は、頑固で子どもに対して厳しく、親の方からの要求が多いタイプです。子育てに意欲はあるが,子どもの育ちに対して関心が低く,母親としての居心地の悪さを感じています。「母親というよりも仕事をバリバリする自分の方が好き」 「早く大きくなってくれたらいいのに」 子どもと触れ合うことが面倒だというタイプです。

 

③不確実型/過敏反応型は、子育てのイメージが獲得できず,危険なできごとを上手く認知できません。認知しても効果的な関わりがイメージできず「どうしたらいいんでしょう」 「よくわからないんです」など保育者に質問が多いのですが, アドバイスをしても理解しにくく, 絶えず強い不安があります。 子どものことを一生懸命見ているかと思うと大事なところで目を放しているなど,親子の関係性で波長が合っていないタイプです。

 

(5)“育て方” に影響を与える社会

 

気質的に難しい子どもを持っていても、 生活上の社会的サポートがあれば母親は安定します。他者からの好意を受けたり, 肯定的な経験をしたりすることで養育表象に変化が起き, 自分の子育てのイメージがいい方向に変わっていきます。しかし、今の日本では 「子どもが泣いているのにほったらかしにしている!」 「あのお母さん、ちゃんとやれているのかしら」 という目で見られることも多く、 「自分の子育てを監視されているみたい」と言う母親もいます。他者から好意を受け、「お母さんよくやってるよ」 と言われる機会や肯定的 な経験をすることがとても少なくなってきています。

なことは、普通の大人にはしませんよね。本来、小さな子どもにも、「あなたはどうしたい?」とか、「ここまでがんばってみる?」と聞いてもらえることが尊厳を大切にしているということなのです。

しつけにおいては、その子のペースが保障されたり、その子のうまくいかなさを理解してもらえたり、がんばろうとしていることを認めてくれる他者の存在がとても大切なのです。それは、排せつだけでなく、食事・衣服の着脱・言葉・運動など、全ての子育てにおいて言えることです。それが、ひとりの人間としての尊厳が大切にされるということなのです。そのようにかかわられることで、子どもにはしっかりとした自我が育ち、自尊感情が育ちます。これは、生涯の根っことなる重要な育ちにつながるのです。[大豆生田啓友著 『子育てを元気にすることば』より]