膝関節の軟骨のすり減りが重度になり、飲み薬や注射で十分な効果が得られない強い痛みがある場合や、歩行や階段の昇り降りが困難になり移動がままならなくなった患者さんには手術が検討されます。
人工膝関節置換術はすり減りの進んだ膝関節の痛みを劇的に改善させ、歩行機能を回復させるすぐれた手術方法です。関節表面の劣化・損傷した軟骨と骨の一部を削って金属をかぶせ、軟骨の代わりになる特殊なプラスチックを組み合わせて関節のなめらかな動きを再現します。膝の状態によって関節表面全体を人工関節に置換する場合、関節の内側(または外側)のみを置換する場合があります。
近年では人工関節も改良されて成績が安定し、一般の整形外科病院で広く手術が行われています。
「人工関節の手術にはどのような問題点があるか」
人間が歩行する際に膝には瞬間的に体重の3倍もの力が加わります。そして長期間にわたり数百万歩も歩くうちに人工関節表面の特殊なプラスチックもすり減りが生じます。また、人工関節の金属を支える骨も老化に伴って弱くなり変形が起こります。つまり人工関節には耐用年数があり、いずれは骨との間にゆるみが生じたり、プラスチックの摩耗でなめらかに動かなくなったりする運命にあります。人工関節の改良や技術の進歩によって、手術後10年20年という長期間にわたって調子よく膝が使える人が大多数という時代になりました。しかし、患者さんの活動性や骨の質によっては比較的早い時期に再手術で人工関節を交換することが必要になる可能性があります。
また、ほかの手術とも共通する合併症として手術後の感染があります。頻度の高い合併症ではないのですが、特に人工関節は感染に弱いものなので、運悪く感染が起こった場合は追加の手術などで対処が必要になります。
「傷の大きさはどれくらいか」
近年手術においてはMIS(最少侵襲手術)という考えが普及して、手術をする部位に加わる負担ができる限り少ない手術が重要と言われています。人工関節に関しても関節周囲の筋肉をなるべく切らずに、傷も大きくない手術が普及してきています。しかし、人工関節においては傷の小さいことが大切なのではなく、何よりも長い期間調子良く使えるように正確に人工関節を設置することが大切です。当院でも、可能な限り手術部位の負担が少ない方法を心掛けていますが、傷の大きさは必要に応じた大きさとなります。
「手術後のリハビリはどこまで必要か」
人工膝関節の手術成績は一般に安定したものと言われています。しかし、その関節を動かすのは筋肉であり、ひどく変形した膝からまっすぐの膝に変わった場合には筋肉の環境も変わります。うまく人工関節を使って歩く、滑らかに膝を曲げ伸ばしする、階段の昇り降りや外歩きなど実用的な動作を安全に行う、これらを実現するためには手術後のリハビリがたいへん重要です。入院期間に行うリハビリは、移動が安全にでき、自宅で生活できる状態をめざします。当科では、入院期間は手術後約3週間が標準です。また、リハビリは入院中だけではなく、十分な筋力の回復と膝関節の動く範囲の拡大を目指して通院できる範囲で退院後も行います。
まずは医師にご相談ください !
「手術をすすめられたけど、私の膝は手術をしなければ治らないの?」 「手術方法は人工関節以外にないの?」 「手術はひどくつらいのでは?」 など、不安をお持ちの患者さんも多くいらっしゃいます。お話だけでもうかがいますので、まずは診察にいらしてください。