ごあいさつ
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変形性膝関節症とは、膝関節内の構造物(特に関節表面の軟骨)が加齢によって徐々に劣化・損傷し、痛み、腫れ、変形などの症状を出すものです。
明らかな原因がなく年齢とともに進行する場合と,以前に受けた怪我などに引き続いて発生する場合があります。
年齢とともに進行するものは女性に多く、日本人では内側を中心に変性(すり減り)が進み、O脚(おうきゃく)になるものが多数を占めます。50歳をすぎると膝関節のすり減りの起こる人が徐々に増えてきて、70歳台では女性の約7割、男性の約半数が変形性膝関節症になると言われています。この割合を聞くと誰にとってもまったく他人ごとではありませんね。現在日本には約 2500万人という驚くほどの数の変形性膝関節症の患者がいるそうです。
【 症状 】
初期は歩行開始時や膝を深く曲げた際の膝関節の痛みで、通常は安静にすると改善します。また、膝蓋骨(お皿)と太ももの骨の間の関節(膝蓋大腿関節)にすり減りがある場合、階段の昇降や立ち上がり動作などで痛みを感じます。膝の炎症が強くなると関節に水(関節液)が溜まります。さらに進行すると、日常の歩く動作にも痛みが伴い歩行が困難となります。膝は変形して症例の多くはO脚になり、関節の動く範囲が狭くなり正座やしゃがみ動作ができなくなります。
【 診断に必要な検査 】
レントゲン検査で膝関節の変形を確認し、すり減りの程度を推測します。MRI検査では軟骨のすり減りの評価とともに、半月板や靱帯など関節内の主要な構造物の損傷程度を調べます。関節に炎症や破壊が起こるリウマチなどの病気の可能性がないか、血液検査で調べることもあります。関節に溜まった水が多い場合や、にごって汚く見える場合は、採取した関節液を検査に出して感染が起こっていないか調べることもあります。
【 治療 】
原因のひとつが加齢による変化なので、治療をしても良くなる部分と良くならない部分があります。ただし、急激に進行するものではないので、保存療法(手術以外の治療)を各種ためした上で、痛みが十分に改善しない場合に手術を検討するのが良いでしょう。具体的な内容については、各項目をごらんください。
運動療法(リハビリ) : 筋力強化を主体とした運動療法には、関節障害の諸症状を改善させる効果があることが科学的根拠をもって証明されています。病院に通院して治療を受ける患者さんは、医師の処方のもとで、各自の状態にふさわしい内容の運動療法の指導をリハビリテーション部で受けることができます。運動療法が確実に行えるようになれば、以後自宅で継続して行うことで関節症状の緩和が期待できます。
運動療法の効果は主に次のようなものがあります。
・膝関節周囲の筋肉を強化することで関節の安定性が向上して歩行に良い影響がある
・関節液のヒアルロン酸の分子量が増加して疼痛が改善する
・膝関節周囲で筋肉が収縮することで、歩行・体重負荷に伴って関節に加わる衝撃が吸収される
・股関節周囲筋を強化すると、立った時の骨盤の傾斜が少なくなり、膝関節の内側に加わる負荷が軽減する
減量 : 肥満は症状発生や症状悪化の大きな因子なので、食事療法や減量のための運動療法なども有効です。
薬物による治療 : 炎症によって強い痛みがある場合は、炎症を抑える目的で湿布や塗り薬、飲み薬(消炎鎮痛剤)を使います。ただし、これらの治療で原因の根本的な解決は困難です。また、ヒアルロン酸の関節内注入(関節注射)は、炎症を鎮静化し関節の潤滑性を高めることで、痛みの改善に効果が期待できます。
膝関節が変形してぐらつくような場合は、支柱のついた装具で歩く時の不安定性を改善させます。
内反膝(O脚)では歩行時に重心が膝関節の内側を通ることで、関節の内側に負担が集中して損傷が進みます。この場合、底に傾きのついた靴の中敷きを使って歩行時の体重負荷を膝関節の外側に移動させることで、痛みを軽減させることが可能です。
これらの装具は医師の処方のもとに保険を使って作成することができます。
各種細胞や再生医療を利用した治療方法
徐々に臨床応用が進んでいますが、すり減った軟骨そのものをすべて新しいもので置き換えるような根本的治療法になるにはまだ遠い道のりが残されています。
PRP(多血小板血漿)の関節内注入 : 血液内の血小板には成長因子というものが含まれ、これらは傷ついた組織の修復と炎症を抑える働きがあります。患者本人から採取した血液から濃縮した血小板を関節内に注入する治療が特定の医療機関で保険外診療として行われています。初期から中等度の関節損傷に対して痛みを改善する効果が認められており、ヒアルロン酸の関節内注入よりも効果が長く持続すると言われています。
幹細胞移植 : 患者本人の身体の内部から脂肪などの組織を採取し、そこに含まれる幹細胞を培養して関節内に注入して治療します。幹細胞は組織修復を助ける各種物質を分泌し、さらに軟骨細胞に分化する能力があり、繊維軟骨(本来の軟骨とは違うもの)と、一部は硝子軟骨(本来の軟骨と同様のもの)に変化します。広範囲にすり減った軟骨を十分に補うことはできませんが、PRP療法よりも痛みの改善効果が高く、年単位で効果が持続することもあると言われています。ただし、この治療も保険が適応されないため、患者さんの経済的負担は手術よりもはるかに大きくなってしまうのが現状です。
サプリメントについて
ヒアルロン酸、グルコサミンなどの関節軟骨の成分をサプリメントとして補充することが、すり減った関節に有効かどうかは科学的な根拠が乏しいのが現状です。それらの成分を飲んで体内に取り入れても、血流の乏しい関節内の軟骨には有効な量が届きにくいと考えられます。
内視鏡(関節鏡)手術 :
軟骨のすり減りや傷によるひっかかり、半月板など軟骨以外の関節構成体の損傷による症状をやわらげるために、内視鏡(関節鏡)を使って関節内でひっかかりの原因になる組織(軟骨のかけらや損傷した半月板の一部)をクリーニングする方法です。傷も小さく手術後早くから動くことができるため有用性が高い手術ですが、症状改善の程度には限界があります。
膝関節周囲骨切り術 :
各種の手術方法がありますが、一般的なものが高位脛骨骨切り術(HTO)です。高位脛骨骨切り術はO脚変形の強い例に対し、脛骨(すねの骨)の上部を切って向きを矯正し、関節の外側のすり減りの少ない部分で体重が支えられるように形を整える手術です。切った骨が治るまでに時間が必要ですが、自分の関節構造が温存され、骨が治ったあとは各種労働やスポーツを含めて行動の制限がなくなることが大きな利点です。詳しくは「脛骨骨切り術」の項目で説明します。
人工膝関節置換術 :
関節全体の変形が激しく、痛みや変形で歩くのに不自由がある場合に行います。損傷の激しい軟骨と骨の一部を削って、関節の表面を金属とプラスチックでおおいます。確実に痛みを取り除く効果が望めます。詳しくは「人工膝関節置換術」の項目で説明します。