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2021-09-20 15:48:00

dive105

 魔物を引き剝がすと、奥方は泣くばかりになり、憑き物が取れるというのはこういうことかと思わす。でも、憑いている霊に憑いている魔物なんてありかよ。しかし、そのおかげで二体に憑かれて、一番負荷がかかっていた娘が正気に戻ったようで話せるようになった。絞り出すような声だったがしっかりと聞こえた。

「帮帮我……拜托了……请让妈妈开心。」(助けて・・・お願い・・・母さんを楽にさせてあげて・・・ください。)

その願いをかなえるように和尚がまた一段と厳しい眼差しで真言を唱える。魔物の苦しそうな叫びが部屋を突き抜ける。暴れまわり、部屋の壁をたたき割る。その禍々しく、強大な力を前にして、僕は恐れと同時にあこがれて興奮していた。あの力があれば・・その時、なぜだか、あの黒い炎が揺らぎだし、僕の中から声がした。

「想要力量吗・・・」(力が欲しいか・・・・)

バクンッ!心臓が何かに鷲掴みにされたように無理やり拍動させられた気がした。なんだ、誰だ!湧き上がるように燃える黒い炎の中から黒い一筋の流れが這い出てくる。その黒い筋は近づくとともにだんだんと大きくなり、僕の耳元でささやく。

(お前が欲しいなら、あの力・・・あやつごと食ってしまえばいい。そうすればお前のものだ。)

何言ってるんだ、あいつを食うって?だいたいお前はなんだ?それにあんな魔物なんて、禍々しい力、和尚様たちに滅されるぞ。

(はは、俺は精霊だ。お前も知ってる、お前の姉さんが使った力も精霊の助けがあって初めて使える力さ。お前、姉さんたちを、お前の家族の自由を奪う者たちが許せないんだろ。そいつらを倒す力が欲しいんだろ。お前のことは何でも知っている。だって俺はお前から生まれた精霊だからな。和尚にはわからないさ。力を外に出さなければわかりゃしないさ。俺には何の力もない、だからお前を助けられない。あいつを食えば力が手に入る。俺がお前を助けてやれるようになる。さあ、あいつを食らうぞ。俺に任せておけ。お前は後ろで見てろ!)

何言ってんだ。あれっ?なんだ、どうなってるんだ、体が動かない。いや、動いている、でも僕の意思じゃない動きだ。嘘だろ、さっきの精霊だって言っていた奴に体を乗っ取られたのか。返せ!人の体を。

(まあ待て。おい!そこの魔物よ。助けてやろうか。そのままでは、この阿闍梨たちに滅されるぞ。お前の力では奴らには勝てん。それはお前もわかっているだろ。そこで、この体に入ることを許してやるぞ。ほかに逃げ道などないぞ。)

先ほどまで暴れていた魔物が少しおとなしくなって様子をうかがっている。和尚たちが段々陣を狭めていく。緊迫した雰囲気の中、魔物がその姿を包み込むような煙のようなものを吐いた。そして僕の方をにらんだと思うと

(その体ごと食らってやる!)

そう言って僕の体の中に入り込んできた。和尚さんたちは気づいていない。ただ、滅したと思っているのだろうか。違う、僕の体にいる。円信兄・・・

(小僧、さっき俺には話しかけてきたのはお前じゃないな。坊主たちのせいで腹が減った。ふふ、ならば、まずはお前からいただこうかな。)

(おいおい、せっかく助けてやったのに、無礼な奴だな。そいつはお前に食わせるわけにはいかん。あまり調子に乗るな。)

(ん、なんだ、さっき話しかけてきたのはお前だったのか。助けてやっただと、あんな坊主どうってことはないわ。お前もまとめて食って、この体をいただくことにしたぞ。)

待て、人の体の中で何をやってるんだ。早く出ていけ。

(まあ待て、行徳よ、よく見てろ。俺の力を。こんな雑魚はすぐに処分してやるから。)

そう言って、僕の中の黒い筋状のものが、ゆっくりと大きくなり一匹の蛇になった。真っ黒な体に二本の赤い筋と一本の金色の筋が三つ編みの様に背中に入っている。見開いた眼は宝石のように緑色に光っていた。僕に「処分」とまで言った口は大きく開き、上下に8本の牙がそろっている。恐ろしいといえば恐ろしいのだが、僕にはその姿の美しさが力の象徴のように見えて心奪われた。飛び込んできた醜い魔物と比べても雲泥の差だ。まるで町のチンピラが拳法の達人に絡んでいるそれを見ているようで勝ち負けなど明らかだった。そして、魔物が断末魔を叫ぶより早く美しい蛇が丸のみにしていく。

(腹の足しにもならんが、喜べ、あいつの力を手に入れてやったぞ。)

僕はその一部始終を瞬きもせずに見入った。そしてその力の恐ろしさ、美しさに陶酔していた。

dive106に続く・・・

 

 

 

 

 

 

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