大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-08-13 14:36:00

dive55

 月夜が明け、はっとして起きる。どうやら一晩中作っていた私は、テーブルに突っ伏して寝落ちしてしまっていたようだ。昨日は結局、完成しなかったがイメージは固まってきた。すべての食材が喧嘩せず、うまく調和する一杯。主旋律を目立たせるための副旋律をしっかりさせないと全体のバランスが崩れてしまうハーモニーのように。そう調理とはオーケストラの指揮をするようなものだ。この料理はどこを強調し、何をベースにして、アクセントには何を入れるか、そしてどうバランスをとるか。このバランスが難しいからうまいまずいが出てくる。楽譜のように、レシピは同じでも出来上がるものは調理する人によって変わってくる。それが調理師としての技術。技術だけなら習えばできる、しかし、そこから新たなものを生み出すのは経験と特殊な感性。こればかりは天が与える才能だろう。雪山の登山の様に半歩ずれたら滑落してしまうようにちょっとの塩加減、甘味などを間違えれば途端に『うまい』から『まずい』に転落してしまう。どこが正解なのか、自分の考える鍵穴にぴったりとはまるようなものを作るためには、どういう凹凸なのかという設計図である自分のイメージをはっきりさせることが重要である。何度も作っては食べ、いらないところを削り、足りないものを足しという作業を繰り返しているとだんだん正解がどこなのかわからなくなってくる。そんな無限ループのような地獄を抜ける一手は意外なところにあり、見つけるとなんだこんなことかと思えるようなものだったりするものだ。そこに近づくにはいろんな問題を解いてきた経験が必要なのです。そう数学の証明問題のように何度も経験して正解への扉をこじ開ける方法を身に着けることが大事なのです。芸術的なものも理屈だったりするんです。まるで黄金比のように。だから調理師には芸術的な脳と理系的な脳が両方なくてはならないのです。

 だいぶイメージができてきたので食材を探しに市場へ向かう。その途中、王さんの症状がこの間の事件の奥さんの症状に似ていたのでちょっと聞いてみようと思いお見舞いがてら立ち寄った。ちょうど夫婦そろっていたのでどんな具合だったか聞いてみた。奥さんが言うには、特に何をきっかけにというわけではないのだけれども、急に目眩がして意識が遠くなり倒れたそうだ。最初は疲れかと思って横になっていたけどすぐに戻り、普通に生活していたらまた倒れた。2回目になってから頻度が増して寝込むまで5日とかからなかった。意識がなくなるときに何か暗い渦に吸い込まれるような感覚があったそうだ。横になっているときも意識はあって、目を開けようとするのだけどぼんやりして動けないそうだ。旦那さんに聞くと特に熱もなく、寝ているだけのようだったと。それで何かにとりつかれたのかもと思い和尚様に相談したのだそうだ。あれ以来もう何ともないと言う。ちょっと気になったのでその前に何かいつもと違うものを食べてないか聞いてみた。すると、いつも大体なじみの店にしか行かないのだけれど、倒れる二日くらい前に新しく出来た麺料理やにいったぐらいだと。後は友人のお土産で焼き菓子と饅頭を食べたぐらいだという。やっぱりあの店が・・・でも王さんが食べるとは思えないしな・・・色々聞かせてもらってありがとうとお礼を言って王さんのところに急いだ。一度和尚に相談したほうがいいな。でも、もしもあの石に関係する病だとしたら、王さんはいったい何を食べたんだろう。例の店にはいかないだろうし。そんなことを考えているうちに王さんの家に着いた。相変わらず寝ているようだ。麗華さんに聞くと起きたり寝たりの繰り返しだという。そこで最近王さんがいつもと違うものを食べたことはないか尋ねた。すると特にないという。思い当たる節がないなら、と思い市場へ向かおうとすると麗華さんが

「等一下!我想应该没关系,但是我从寺庙那里得到了之前的回礼点心。」(ちょっと待って!関係ないと思うけど、この前のお礼だってお寺の方がお菓子を持ってきました。)

和尚にそんな話は聞いたことないけど、

「诶!谁拿来的?」(え!だれが持ってきたのですか?)

「看,那个,总是粘着和尚大人。千道先生。」(ほら、あの、和尚様にいつもくっついてくる。千道さん)

なにーーーーーー!千道ーーーーー!市場へ行くのはやめだ。和尚に聞きにいかないと。このとき私はまだ重大なことに気づいていなかった。ダイブするのに最も重要なことに。

dive56に続く・・・

 

 

Today's Schedule
2026.10.30 Friday