大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-07-18 16:02:00

dive34

  毎日、朝から晩まで担々麺を作った。麺を打ち、たれを作り、野菜を切り。今まで毎日いろんな中華料理を作ってきたけれど、一つの物を一日中作り続けるのは、初めてだった。同じものを作っているつもりだけど、一つとして同じものができない。いくつかこれならと思うものはできるが、なかなか。王さんの作ったものは、みなあるレベルをクリアーしているようだ。難しいものだ、全部を同じレベルに作るというのは。しかし、こうやって同じものを、毎日作っていくには、体力うんぬんよりも精神というか、気持ちというか思いが重要な気がする。そりゃあ技術も必要なのは当然だけど、貫く思いこそがこれを成し遂げる。すごいことだなぁとつくづく感心する。それは『祈り』にも近いもののような気がして、王さんのことがより偉大に見える。私もがんばらねば。

 そんなある日、王さんが明日は店を休みにすると言ってきた。何かあるのか尋ねると青龍寺に行くと教えてくれた。私は特に用事もないし、青龍寺には一度行ってみたかったので、一緒に行ってもいいか聞いてみた。すると、来てもいいけど面白いものは何もないよ、と言い、それでもと言うと、笑っていいよと言ってくれた。翌日、王さんとお店で接客をしている妹の麗華さんと私の3人でお寺に行った。いつも通る街道のあの曲がり角を初めて曲がることにワクワクしていた。目印の石柱を曲がり参道に入るとにぎやかな売り子たちが声をかけてくる。縁日のようで、いい大人でも楽しいものだ。いろいろ目移りしている私をよそに王さんが一軒のお供え物屋の前で立ち止まって話し出した。

 「已经过了六年了呢、王先生」(もう6年たちましたね。王さん)

 「一转眼就过去了。」(あっという間でした。

 「很努力呢」(がんばってるね)

 「正如僧侣所说的那样」(和尚に言われたとおりに)

 そう言うと花とお供えを買って寺へ向かった。なんだかよくわからないが、二人について石段をのぼった。両側に藍染めの原料である蓼藍が群生しており、下の店の藍染めは、これのおかげなのだと理解した。寺の収入源にもなっているのであろう。しばらくのぼると山門が見えた。門は開いており、その向こうに屈強な羅漢像が立ち居並ぶ。寺を守るこの羅漢の顔に、邪なものは恐れをなすことだろう。羅漢たちの審査を受け、ようやくたどり着いた先の大門には大きな仁王像が待っていた。その赤い柱の傍らに藍染めを着た僧侶がこちらをうかがっていた。

 「早上好,王先生。」(おはようございます、王さん)

 「好久不见。龙仁和尚」(お久しぶりです、龍仁和尚)

 挨拶を終えると奥へ案内してくれた。奥へ行くとたくさんのお墓があった。王さんは、その中の一つの前で立ち止まった。花を飾っている王さんを見ながら立っていると、麗華さんが話してくれた。どうも、このお墓は王さんの奥さんのお墓らしい。一緒にお店で働いていたのだけれど、6年前に突然倒れ、治療のしようもなくなくなったそうだ。王さんはお墓に埋葬し、もはやお店を続ける気力もなく、和尚に出家して仏門に入りたいと願い出たそうだ。しかし和尚は断り、王さんにこう言った。

「彼女も町のみんなも、そなたの作る担々麺が大好きだ。それをやめることが何の供養になろうか。彼女を思うのなら、その身に彼女の思いも背負い、二人の思いを料理に込めて皆を喜ばせてやればいい。店をやめてしまうことは、きっと彼女も望んではおるまい。自分が病に倒れてしまったせいで、そなたの料理を作る思いの邪魔をしたとなれば、この世に未練も残ろう。あの世の彼女を安心させてやりなさい。そなたのがんばっている姿に恋した彼女に、いいところを見せてあげなさい。それがそなたのできる最高の供養になる。」

 それから、またお店を開き、麗華さんが手伝うようになり、毎年命日になるとこうしてお墓参りに来るようになった。この話を聞いて私は、理解した。彼の作る担々麺への思いは亡き妻への供養だったのだと、だから祈りのようだったのだと。すべての者に対する慈愛なのだ。そして私も残してきた家族のことを思い出していた。

dive35に続く・・・・

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