大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive 30 シーズン2 ダイバーの血統
平成5年4月1日、この日は今も忘れることができない。私の名前は守山藍生(あおい)。私が働いていたのは、横浜中華街、善隣門を過ぎて通りの中ほど「桃園酒楼」という6階建て中華料理店の厨房。毎日のように観光バスで団体客が押し寄せる繁盛店だった。厨房で働くのは私のような日本人よりも招聘された香港人など中華系の人たちや、タイ、マレーシア、韓国からきている出稼ぎの人たちのほうが多く、普通に日本にいては感じない、アジアの一員という思いに浸っていた。普通にというのは、もはやこの街自体が異質な空間であるからこそなのだ。日本の警察署は目の前にある。なのにうじゃうじゃ違法滞在者がいる。一緒に働いているものには13歳の男の子もいる。こっそりとかひっそりとかいうレベルではない。皆知っているのだ。知っていても「うまくやっている」この一言ですべて解決。JR東西線の石川町の駅を降りるともうそこは日本ではないのだ。一般の人たちは遊びに来るだけでこの街の表の顔しか見ないから何も知らないのだろうか。きっと落花生県にあるネズミの国にも裏の顔があるのだろうが、こちらは「混沌」とよぶにふさわしい。まさにアジアのごった煮状態だ。違法といえどこういうところならではの法は存在する。しかしその法をつかさどるのは日本の司法ではない。まさにこの地域の支配者たち、そうこの街で金を稼ぐということは力を持つこと。力を持つということは・・・入ってくるものも闇ならば出ていく者たちも闇。一緒に働く者も世間話程度に素性などは言うが本当はどうだかわからない。かの国からやってきた特級厨師なるものは全く仕事もできない一般人だったり。そうかと思えば、仕事はバリバリするが町にある日本系ではないその筋の事務所に入り浸っては、賭けマージャンで莫大な借金をしている者もいる。大陸から逃げるときにサメに腹をかまれたと傷跡を見せる者もいれば、集団で出稼ぎに来ていた朝鮮系のおばちゃんたちは、私が管理している前菜の材料であるキュウリを盗んでいっては、豆板醤のツボにどっぷりつけてバリバリ食べている。まったく、たくましいったらない。日本人に足りないのはこういうことなのかもしれない、と時折思う。これぞ『アジア』だと。
そんな店で毎日のように楽しい?仕事を済ませうちに早く帰ろうと、石川町の駅へ。
「守山さん、そんなに急いで、どこか行くんですか?」一緒に働いている陳さんだった。
「いやー、もうすぐね、孫ができるんだよ。それでね、孫に何か買ってやろうかと思って横浜駅のデパートに寄ってみようかと思ってね。」
「ええっ!孫だって!だって、守山さんまだ40代ですよね。早いですね。」
「うん、そうなんだよね。46でもうお爺ちゃんなんだよ。なんかちょっとね・・・」
「まあ、でもおめでとうございます。どっちなんですか。」
「男の子らしいんだよ。それで息子が私の名前をもらいたいっていうんだ。「藍」の一文字で「あおい」ってね。なんか照れ臭いんだよね。でもうれしくてね。自分の分身が生まれてくるみたいで。なにかしてあげたくてしょうがないんだよ。」
「それは、よかったですね。息子さんがお父さんを尊敬しているからですよ。何をあげるんですか?」
「うん、石をね。ちょっと気に入ったものがあって。」
そういいながら改札を通り、家のある根岸とは反対方向の横浜駅方面のホームへ向かう。
「それじゃあまた明日。」陳さんに挨拶をし電車に乗り込む。横浜駅に着くまで数分の間、電車の中で一人、孫のことを考えにやにやしている。ふと目の前のガラスを見て、映る自分の姿に笑ってしまった。こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。私が彼にあげられるものは、君が生まれてきてくれてとてもうれしいという思いと、いつか君が何かに迷ったときに羅針盤になるようなもの。そんなことを考え、守り石のようなパワーストーンをプレゼントしようと決めていた。
店に着くと店員が私を見つけて飛んできた。
「いらっしゃいませ。守山様、やはり決められたのですか?」
「ああ、やっぱり、これだと思うものは、このブルートパーズだけだよ。なんていうか清々しく誠実な感じがして、私が孫にこうなってほしいと思う気持ちにぴったりのような気がして。惹かれてしまったんだ。」
「石には相性というのもありますから、守山様の思いとひかれあったのでしょう。気が合うということだと存じます。トパーズの石言葉も「誠実」。守山様のイメージ道理です。古来、魔よけの石としてつたわっております。お孫様にもきっと伝わると思います。」
「うん、やっぱりこれにするよ。ペンダントトップに加工してくれないか。プラチナのチェーンで。」
「かしこまりました。ではできましたらご連絡させていただきます。」会計を済ませ、楽しみでウキウキしながら店を出た。
駅に戻り今度は根岸方面行のホームに。電車を待っているとなんだかクラっとしてよろめいた。興奮しすぎて疲れたのかと思い目頭を押さえる。電車が入ってくる。ヘッドライトがまぶしく一瞬フラッシュのように、ばっと光った。まぶしさと同時にゴーーと大きな音がした。何事かと思い、目をつむり身構える。音が止み、光も消えた。しかし、目の前に電車の姿がない。どういうわけだか草原に立っている。おかしい、今さっきまでホームで電車を待っていたのに。なんだ、どうなっている。俺は夢でも見ているのか。
そんなわけない。恰好はさっきまでと同じじゃないか。えっ!あれ、なに、ちょっと、ちょっと、なにこれ。戦国自衛隊?フィラデルフィアエクスペリメント?あれ!あそこにいる人たちジャッキーの映画に出てくるような服着てる。中華街にあんなの売っていたなぁ。映画の撮影かなんかか?
すぐさまその人たちに尋ねに行った。私の格好に変なものを見るようなで寄り付かない。どうも話しているのは中国語のようだ。
「対不起、这里是什么地方?」(すみません、ここはどこですか)
「你在说什么?这是成都」(あんた、何言ってんの、ここは成都よ)
「今天星期几?」(今日は何日)
「4月1日」
あー場所が移動しただけでよかった。日本大使館に行けば・・・
「1840年的」(1840年の)
なにーーーーーーーーーーーー!
dive31に続く・・・

