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専門家に訊(き)く:値上げはどう進める?小規模事業者のための価格転嫁のポイント
原材料やエネルギー価格の高騰が続く中、「値上げしたいが言い出せない」「取引先にどう説明すればよいか分からない」と悩む小規模事業者は少なくありません。実際、価格転嫁が進まず、忙しいのに利益が残らないという声も多く聞かれます。では、どのようにすれば顧客や取引先に納得してもらいながら価格を見直すことができるのでしょうか。今回は、中小企業診断士の斉藤竜先生に、現場の支援事例をもとに「業種ごとの進め方」と「伝え方のポイント」を伺いました。
■値上げに悩むのは当たり前
職員:
最近、事業者の方から「値上げしたいけれど言い出せない」という相談をよく受けます。原材料もエネルギーも上がっていますから、皆さん本当に困っている様子です
斉藤:
そうですね。私が支援している事業者でも同じ声をよく聞きます。ただ、まずお伝えしたいのは「値上げに悩むのは当たり前」ということです。
小規模事業者の場合、お客様との距離が近い分、「値上げ=迷惑をかける」という感覚が強くなりがちです。ですから「値上げが言いづらい」と感じるのは、とても自然なことだと思います。
■まずは「理由」をきちんと伝える
職員:
確かに、「長い付き合いだから言いにくい」という声もよく聞きます。
斉藤:
そうですね。だからこそ大切なのは、値上げをお願いする理由をきちんと伝えることです。
例えば、
・原材料がどれくらい上がっているのか
・電気代や燃料費がどう変わったのか
・事業が続けられなくなる可能性があること
こうした状況を正直に伝えると、多くのお客様は「それなら仕方ないね」と理解を示してくれることが多いです。
■納得感がすべてを左右する
職員:
つまり、単に「値上げします」ではなく、背景を説明することが大切なのですね。
斉藤:
はい。特に小規模事業者の場合、「ほんとうに困っている」ことが伝わるかどうか、が大きなポイントになります。きれいな言葉よりも、現場の実感が伝わることがとても大切なんです。
ある飲食店では、メニューにこう書きました。
「原材料やエネルギー価格の高騰により、やむを得ず価格を改定させていただきます。これからも品質を守るための判断です。ご理解いただけますと幸いです。」
こうした説明を添えただけで、クレームはほとんど無かったそうです。
■業種によって進め方は変わる
職員:
業種によっても事情は違いますよね。
斉藤:
その通りです。価格転嫁の進め方は業種によって変わります。
例えば
製造業・下請取引 → 取引先と交渉して価格改定
飲食店・小売店 → メニューや価格表の改定
サービス業 → 内容の見直しやセット価格の調整
など、それぞれ方法が違います。
職員:
具体的には、どのあたりがポイントになるのでしょうか。
斉藤:
もう少し踏み込むと、現場では「タイミングの見極め」がとても重要になります。
■製造業は「タイミングと下準備」が鍵
例えば製造業では、
・同業他社が値上げしているか
・取引先が価格改定に応じ始めているか
といった周囲の動きが、大きな判断材料になります。また、人手を多く使う現場では、最低賃金の上昇などは説明がしやすい材料にもなります。
また、いきなり正式な交渉に入るのではなく、「最近コストが厳しくて…」といった形で、購買担当者に事前に感触を確認しておくことも有効です。
客先購買担当者も「社内決裁」、場合によっては「エンドユーザーの説得」といった重い手続きが必要となりますので、対応しやすい時機もそうでない時機もあるのです。
職員:
なるほど、準備の段階が重要なのですね。
■飲食・小売は「世の中の流れ」を味方に
斉藤:
はい。一方で、飲食店や小売業では少し考え方が変わります。これらの業種では、世の中全体の値上げの動きが大きく影響します。
例えば、ニュースなどで値上げの話題が多く出ている時期は、お客様自身も「値上げは仕方ない」という意識を持ちやすくなっています。こうしたタイミングは見逃さず、「世の中全体が上がっている中での判断」であることを伝えることが効果的です。
職員:
確かに、最近は値上げの話題をよく耳にしますしね。
■サービス業は「前向きな理由」と「事前告知」
斉藤:
その通りです。また、サービス業の場合は、さらに工夫が必要です。
単に「コストが上がったから」だけではなく、
・サービス内容の向上
・新しいメニューの導入
・より良い環境づくり
といった前向きな理由を組み合わせることが重要です。
加えて、数ヶ月前から案内を行うなど、事前にしっかり時間を取ることで、お客様の理解を得やすくなります。
職員:
確かに、何も変化がない中で突然値上げすると驚かれそうです。
■建設業は「見積段階の説明」が重要
職員:
建設業の方からも、資材や人件費の上昇で厳しいという声をよく聞きます。
斉藤:
そうですね。建設業の場合は、見積段階で説明できる点が大きな特徴です。
資材価格や人件費の上昇について、見積書や打合せの中で丁寧に説明することで、納得してもらいやすくなります。追加工事や仕様変更の際にも、その都度しっかり説明することが重要です。
■値上げは一気にやらなくてもいい
斉藤:
結局どの業種であっても、値上げをする時には、「理由」+「タイミング」を考えることが大切なんです。
また、もう一つよくお伝えすることがあります。
それは「全部を一度に上げなくてもよい」ということです。
例えば
・一部商品だけ値上げする
・サイズや内容量を調整する
・高付加価値商品を作る
こうした方法で少しずつ調整する事業者さんも多いです。
■価格を守ることは、事業を守ること
職員:
値上げ=一気に価格を上げる、というイメージがありましたが、方法はいろいろあるのですね。
斉藤:
その通りです。何よりお伝えしたいのは、「価格を守ることは、事業を守ること」ということです。
無理をして価格を据え置くと、利益が出なくなり、最終的には事業の継続が難しくなります。それは事業者だけでなく、お客様にとっても良いことではありません。
■悩んだら商工会へ相談を
職員:
確かに、続けていただくことが地域にとっても大切です。
斉藤:
はい。ですから、値上げを検討することは決して悪いことではありません。
ただし、小規模事業者の場合は
・お客様との関係
・地域での信頼
・長年の付き合い
などもあります。
だからこそ「きちんと説明して理解してもらう」という姿勢がとても大切なのです。
職員:
最後に、価格転嫁で悩んでいる事業者の方へメッセージをお願いします。
斉藤:
多くの事業者の方が「値上げは簡単じゃない」と感じています。それは皆さん同じです。ですが、原価が上がる中で価格を見直すことは、事業を続けていくための大切な判断でもあります。
もし悩んだときは、一人で抱え込まずに商工会や専門家に相談してみてください。業種や状況に合わせて、値上げの伝え方、タイミング、価格設定の考え方などを一緒に整理することができます。
地域の事業者の皆さんが安心して事業を続けられるよう、私たちもサポートしていきたいと思います。
商工会では、様々な経営課題に対する相談を受け付けています。経営のことでお困りなら、お近くの商工会へご相談ください。
