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美術館(施設内の廊下)

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「ひまわり、14本」フィンセント・ファン・ゴッホ 1853-1890 | オランダ | 後期印象派

Tournesols (quatorze) 1888年

92×72.5cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

 

後期印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホのおそらくは最も代表的な作品のひとつであろう『ひまわり(14本)』。本作は日本の浮世絵から強い影響を受け、同国を光に溢れた国だと想像し、そこへ赴くことを願ったゴッホが、ゴーギャンを始めとする同時代の画家達を誘い向かった、日差しの強い南仏の町アルルで描かれた作品で、本作を始めとする≪ひまわり≫を題材とした作品は、このアルル滞在時に6点、パリ時代には5点描かれていることが記録として残っている。画家の人生の中でも特に重要な時代であるアルル滞在時に手がけられた作品の中でも、最も傑出した作品のひとつでもある。本作の観る者の印象に強く残る鮮やかな黄色の使用については、ゴッホが誘った画家達と共同生活をするために南仏の町アルルで借りた、通称「黄色い家」を表し、そこに描かれるひまわりは、住むはずであった画家仲間たちを暗示したものであると指摘する研究者もいる。また、ひまわりの強い生命力と逞しいボリューム感を表現するために絵具を厚く塗り重ね描かれたが、それは同時に作品中に彫刻のような立体感を生み出すことにもなった。なおゴッホは1889年の1月に本作のヴァリエーションとなる作品を始めとして3点のレプリカ(フィラデルフィア美術館所蔵版、ファン・ゴッホ美術館所蔵版、損保ジャパン東郷青児美術館所蔵版)を描いているが、その意図や解釈については研究者の間で現在も議論されている。

 

アルルのはね橋.png

「アルルの跳ね橋」フィンセント・ファン・ゴッホ 1853-1890 | オランダ | 後期印象派

 (Le Pont de l'Anglois) 1888年

54×65cm | 油彩・画布 | クレラー・ミュラー美術館蔵

 

現存はしない『アルルの跳ね橋』

『アルルの跳ね橋』は1880年代後半のオランダを代表するポスト印象派の画家であるフィンセント・ファン・ゴッホが1888年に描いた作品です。ゴッホは、アルルの跳ね橋にとても惹かれました。実は描いた作品は1点だけではありません。繰り返しアルルの跳ね橋を描きました。現在では5作が知られています。もっとも有名な《アルルの跳ね橋》がこちらのクレラー・ミュラー美術館が所蔵する作品です。この作品のモデルとなった橋はアルルの中心部から南西約3キロの運河に実際に架かっていた「ラングロワ橋」です。「ラングロワ橋」は1930年にコンクリート橋に架けかえられたため、現存はしていません。ただし、別の場所に再現されて作られていて「ファン・ゴッホ橋」と名付けられて観光地となっています。しかし風景などが異なり、作品の雰囲気が再現されているとは感じられえないようです。

 

浮世絵の影響を受けたともいわれる『アルルの跳ね橋』

ゴッホが親日家であったことでも知られています。ゴッホが残した作品の中には、浮世絵の影響を受けたといわれる作品がいくつか存在しますが、この『アルルの跳ね橋』もそのうちの1枚です。当時パリでも知られていた、日本の画家、歌川広重の「あおはしあたけの夕立」に影響を受けたのではないかと言われています。

 

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「デルフトの小路」 ヨハネス・フェルメール 1632-1675 | オランダ | オランダ絵画黄金期

(Het Straatjd)

53.5×43.5cm | 油彩・画布 | アムステルダム国立美術館

 

17世紀オランダ絵画黄金期を代表する風俗画家ヨハネス・フェルメールが手がけた現存する二枚の風景画作品の内のひとつ『デルフトの小道』。1654年デルフトの街で起こった火薬庫爆発事故を機に、画家が思い入れの強い街の情景を絵画内へ留めようと、街への敬愛を示した都市景観画のひとつであると推測される本作に描かれる場所の特定については、研究家スウィレンスが提唱したフォルデルスフラハト運河近くの旧養老院とする説が主流とされているも、異論も多く、現在も研究が続いている。フェルメールと同じデルフト派のひとりピーテル・デ・ホーホの手がけた都市景観画に強い影響を受けていることが多くの研究者から指摘される本作では、左から洗濯をおこなう女、道端に座る二人の子供、戸口で針仕事をする老女が登場人物として描かれるが、いずれも当時の人々のありふれた日常生活の一場面を描いたものである。また本作の制作年代については、煉瓦で使用される赤褐色や、それらを繋ぐ膠泥(モルタル)の白色、ポワンティエ(点綴法)、一部に見られる何層にも重ねられた厚塗り描写など『牛乳を注ぐ女』や『デルフトの眺望』で用いられた手法と同様の手法で描かれることから、同時期に手がけられたと推定されている。

 

青い花瓶.png

「青い花瓶」ポール・セザンヌ Paul Cézanne 1839-1906 | フランス | 後期印象派

(Vase bleu) 1885-87年頃

61×50cm | 油彩・画布 | オルセー美術館(パリ)

 

近代絵画の父ポール・セザンヌ初期を代表する静物画作品のひとつ『青い花瓶』。1885-1887年頃に制作されたと考えられている(注:1890-91年頃とも推測されている)本作は、花が入れられた青い花瓶を中心に皿や林檎らしき果物などが構成される静物画である。画面中央やや左側に配される青く縦長の花瓶は強く濃く、何度も重ねられた輪郭線によって画面の中で圧倒的な質量感と形状的存在感を醸し出している。それは、本作に描かれる(諸説あるが、おそらくアイリスやシクラメン、ゼラニウムと思われる)花瓶に入れられた花や3つの果物も同様で、細部まで克明に描写されることなく、ただ静物の形態とその存在そのものが強調されている。本作で最も注目すべき点は、この静物が内包する形態の真実性に対する画家の探求と、それらが互恵的に関係し合う計算され尽した構成にある。互いの存在を消し合うことなく絶妙に配される各静物の距離感や、伝統的な写実性や遠近的表現を無視してでも取り組んだ、描く対象における形態の力動的な描写は特に秀逸な出来栄えを示しているほか、他の代表的な静物画作品に見られる複雑な構成とは一線を画する、簡素ながら絵画としての完成度が非常に高い静物の構成は、今なお観る者を感動させる。また色彩の表現においても背景の壁と視感覚溶け合うかのような花瓶の青い色彩や、それと対比する黄土色のテーブルや赤色の花と果実などは、画面の中で見事な調和を示している。さらに意図的に歪められた形態の描写にもセザンヌの独自的で革新的な絵画表現に対する信念が感じられ、これらの特徴はナビ派の画家たちを始め、パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックなどキュビスムの画家たちや、アンリ・マティスに代表されるフォーヴィスム(野獣派)の画家たちに大きな影響を与えた。

 

赤いチョッキの少年.png

「赤いチョッキの少年」ポール・セザンヌ Paul Cézanne 1839-1906 | フランス | 後期印象派

 (Garçon au gilet rouge) 1890年

92×73cm | 油彩・画布 | 個人蔵(ポール・メロン夫妻)

 

これは,愁いをふくむ若者を描いた後期に属する油絵の一つである。少年が頭蓋骨をわきにしてテーブルの前に座っているもう一つの作例がある。ここでは,もの憂い姿勢と斜めに重く垂れるカーテンによる閉じた包囲が,憂鬱な夢想のムードを,その主題を指し示すことなしに表現している。その材質が身の回りの重苦しげなカーテンに似た衣服を着た少年は,その空間に押し包まれているように見える。赤いチョッキも,このムードの要素の一つである。この強い色彩の例外的な中核は,散発するのではなく,冷たい紫色へと移ってゆく。襟飾と腰帯の青は,暗く灰色味を帯びる。片手を腰にあて,片手を下にさげた,裸体画の常套的なクラシックなポーズ,くつろいだ動勢のポーズと瞬間的休止は,受動的で弱々しい姿勢となっている。力の抜けた生気のない腕に対比してみると,脚の釣り合いのとれた傾斜の繊細さと,カーテンの反復する斜めの塊量の力とがはっきりする。背の高いメランコリックな,もの悲しい優雅さをもつ人体は,内省と懐疑によって活動が阻止されたところの16世紀のイタリアの富裕階級の肖像を思い起こさせる。少年の相貌は,そこはかとないけれども,繊細に描かれる。われわれは,彼の内気と悩める内的生命に気づかずにはおれない。うすく引かれた唇は,遠くの空を飛ぶ鳥の翼のようである。この感情の渋い調子は、実にセザンヌにとっては重要である。対照的に,この絵は,われわれが盛期ルネッサンスの巨匠たちのうちに貴著する形態のあの高貴な大きさと,そしてセザンヌ独自の,生動する筆づかいによって実現された色彩のすばらしい響きと生命感によって,生き生きとし,力強いのである。これは明瞭に配置され,形式化された構図であり,そこにおいては,少年のしなやかな身体の,それ自体で均衡のとれた構成が,その反面で,変化交替する対照性のうちに,カーテンと椅子の長いリズミカルな形態に対して,対立している。左では直線のカーテンは,右では曲線である。少年の身体は,左でいっそう曲折し曲線を描くに対して,右では硬直している。このきわめて想像的な構図は,きわめて慎重に考え抜かれ,直接的な印象にほとんど負うところがない。しかし色彩と輪郭線の細部はそれらの無限の変化のうちに,視覚世界に対して見開いた,探究的で感覚的な目を,如実に示している。

 

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