一言法話

2021-04-20 00:00:00

17.キンスカの木

 

お釈迦さまの前世の物語「ジャータカ」にこのような話があります。

昔々、インド北部の都市、ベナレスの国王に四人の王子がいました。その四人の王子が集まって話をしているうちに、見たことのある人がほとんどいないと言われているキンスカの木のことが話題となりました。四人ともキンスカの木を見たことがなかったので、四人で見に行ってみようということになりました。しかし、まわりにキンスカの木のある場所を知っている人は、一人の老人しかいませんでした。しかもその老人の持っている馬車はとても小さく、乗客一人しか乗せることができません。さらにその老人は忙しくて暇がほとんどないのです。それでも四人はその老人にキンスカの木まで案内してもらうお願いをします。

まず、キンスカの木が芽吹いている頃、第一の王子が案内してもらいました。第二の王子が連れて行ってもらったのは、若葉が茂っている頃でした。第三の王子は花が満開の頃、森に連れて行ってもらいました。第四の王子がキンスカの木を見たのは木が実を付けているころでした。そのあと、四人の王子が集まってキンスカの木について語り合いましたが、彼らはそれぞれ違う季節のキンスカを見ていたので、話が嚙み合いません。

王子達はこの話を王様にしました。すると王様は王子達にこう教えました。
「お前たちはキンスカの木を見に行った時、もっとしっかりとその老人にキンスカの木について聞いておくべきだったのだ。この木は過去にどういう姿をしていたのか、そして未来にはどういう姿になるのか、それを教わっておけば、お互いに他の者が見たものを理解できたのだ。それが物事を“正しく見る”ということなのだよ」

仏教では「正見」正しく見ることが大事だと考えます。しかし“正しく見る”ことは簡単なことではなく、私たちは、目の前の今の姿だけを見て、判断を下してしまいがちです。しかし、そのようになったいきさつ、そして今の状況がどのような未来につながっていくのか、というところまで視点を広げることによってはじめて、物事を正しく見ることができる、ということをこのお話は私たちに示しています。