一言法話

2021-02-11 00:00:00

10.境と心

 

「割れ窓理論」をご存じでしょうか。
これはアメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング博士によって提唱されたもので、「1枚の割れたガラスを放置すると、いずれ街全体が荒れて、犯罪が増加してしまう」という理論です。 逆にいえば,公園や地域の清掃活、落書きの消去作業などにより、身のまわりの小さな乱れに早く対応すれば、将来発生し得る犯罪を未然に防ぐ効果があるといえるわけです。
確かに雑然とした環境の中にいると心は乱れ、知らず知らずに自分自身の行いも乱雑になり環境は更に悪化していくでしょう。まさに悪循環です。逆にきれいに整った環境の中では心も清々しくなり、結果、まわりを取り巻く環境は更に良いものとなっていくでしょう。こうなれば好循環、このような心と環境が整った生活ができることが理想ですね。

お大師さまの詩、碑銘、上表文等を弟子の真済が集成した『性霊集』という書物の中にこのような文章があります。
「それ境は心に随いて変ず 心垢れるときは則ち境濁る 心は境を逐いて移る 境閑かなるときは心朗らかなり 心境冥会して 道徳玄存す」
(そもそも、環境は心にしたがって変わるものである。心が汚れていれば環境は濁るし、その環境によってまた、心も移り行くことになる。静かな環境に入り、そこに身を置けば心も清らかである。そして、心と環境が合致し、互いが無心にひびき合うことができれば、万物の根源となる"自然の道理"とそのはたらきである""が自ずと発揮される。そこに悟りがあるのだ)
お大師さまは仏さまの座する蓮華の形にも似た山々に囲まれる標高800mの高野山を自らの、そして弟子たちの修行道場として選ばれました。まさに心を清らかに保つ最高の環境にある聖地が高野山といえるわけです。

私たちの日頃の生活を顧みてみると「心境冥会して 道徳玄存す」(こころと環境が合致し、互いが無心にひびき合うことができれば、万物の根源となる"自然の道理"とそのはたらきである""
が自ずと発揮される)のようにはなかなかいきませんが、そこを目指し、密接に結びついている自分自身の「心」と、それを取り巻く「環境」を整えることに、まずは目を向け、日々の暮らしを送りたいものです。