一言法話

2021-01-11 16:56:00

7.春に遇いて

 

昨年の暮れから年始にかけ、厳しい寒さが続いております。
お大師さまは『三昧耶戒序』という書物の中で「冬の凍 春に遇いて 即ちそそぎ流る」とおっしゃっています。冬の寒さで固まった凍りも暖かな春の日差しという縁に遇ったならば、すぐさまそそぎ流れ出すだろう、と。 

延暦23年(804年)、お大師さまは31歳で遣唐使船に乗り、唐(中国)に渡りました。世界中の文化や思想が集まる、唐の都長安で半年間、語学や様々な宗教等学んだ後、密教の根本道場である青龍寺の門をたたきました。偉大な密教僧恵果阿闍梨は、即座にお大師さまの機根を見抜かれ「あなたが来ることはわかっていた。私は全てを授ける」と言いました。お大師さまはわずか3カ月で密教の全てを体得。密教の正統な継承者となったお大師さまは、恵果阿闍梨から日本にすぐに帰って布教に努めるよう告げられます。師の言葉を受け、本来20年間滞在しなければならない留学僧という立場で唐に渡ったお大師さまは、2年で帰国。無断帰国の罪から入京の許しが出ず、3年間九州の大宰府で足止めされることなります。その後、上京を許され、後に高野山を開創し、真言密教の教えを弘められたのです。


お大師さまのような方であっても、順風満帆に物事が進んだわけでありません。しかし、上京が許されなかったその3年間に真言密教の教えを体系化し、密教図像を制作するなど、着々と真言密教の教えを弘める準備をされていたといいます。
冬の寒さとともに様々な制限が課される今、その中で自らが出来得ることに徹し、必ず来たる春の暖かさを待ちましょう。