・STORY・

2021-12-09 00:00:00

事件は、1本の電話からはじまった

 【あらすじ】

 

  企業法務の担当者として、目覚ましい成長を遂げたY。普段は、社内外のインテグリティの課題と向き合い、隠密に活動していた。 

 ある日、世界的に有名な天才クリエイターのAは、自身が生み出したデザイン案が何者かの手によって無断で利用されていることを知り、捜査機関に通報する。

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  そして、Aのデザインに類似する絵柄のTシャツがオリジナルグッズ作成サービス「SUZURI by GMOペパボ」で売られていることを突き止めた捜査機関は、運営会社の法務Yに電話をかけるのだった。   

  

「なんですって?!SUZURIに出品されている商品が、誰かの権利を侵害しているなんて、信じられない・・・。」  

  

 電話の内容にショックを受けつつも、商品について調査を続けるY。

 ほどなくして、該当の商品販売ページが特定された。

 そこには、「DAON」の文字が。

  果たして、Tシャツは本当にAの権利を侵害するのか?!

  謎の言葉「DAON」が意味するものとは?

  

 

 

 【解説】もっとも身近な知的財産権、著作権のお話

 Aの著作物であるデザインを無断で利用したTシャツをSUZURIで販売することは、著作権のうち、複製権、公衆送信権、譲渡権(著作権法第21条、第23条、第26条の2)を侵害することになります。

 また、そのまま利用せずに「画風」を真似した場合であっても、翻案権(著作権法第27条)の侵害の可能性にあたるおそれがあるので注意が必要です。

 ところで、他人のデザインを利用したり、改変するのではなく、「似ている」もの、例えばパロディと呼ばれるような物を作ることは、一体どこまでが許されるのでしょうか。近時の裁判例では、この判断のために「表現上の本質的な特徴を直接感得すること」という基準を用いています。1639568079-1625x897.png.1.0+0.0059+0.1085.jpg

 少し難しく思えるかもしれませんが、この基準から考えれば、まず、前提として、似ている物は「表現」でなければなりません。思想又は感情(アイディア)は表現ではありませんので、いくら「似ている」と感じるものだったとしても、単にアイディアが共通しているだけでは著作権侵害にならないのです。

 しかし、この表現とアイディアの区別も、その境界は明らかではなく、判断が非常に難しいことがあります。パロディを作成する際にも、事前に相手方の許諾を得るようにしましょう。コミュニケーションをとったことをきっかけに、思いもよらない協業の話につながることもあります。

 

 また、今回、捜査機関が動いているように、著作権侵害は犯罪であり、刑事罰の対象でもあります(著作権法第119条1項)。

 なお、SUZURIでは、利用規約に違反する商品を発見した場合には、直ちに商品の販売を停止する等の措置を講じています。また、発信された情報の削除依頼、発信者情報の開示請求も一部オンラインにて受け付けています。                        

                  (あらすじ・解説担当 Y)

 【法務担当者のコラム①】知られざる企業法務の業務

 ということで、今回のコラムでは、企業法務と警察との関わり、なかでも差押えについてお話しようと思います。

 差押えとは、刑事事件の証拠の収集を目的とする強制処分です(刑事訴訟法第218条)。実務上、捜索・差押えのほとんどは警察によって行われています。強制処分は、法律に基づくもので、差押えの対象者はこれを拒否することはできません。

 インターネットサービスを運営していると、図らずも犯罪行為の証拠となるデータがサーバ内に記録されることがあります。

 この場合、警察官が裁判所に対して許可状請求書を提出し、裁判所が許可状(いわゆる「令状」です)を発布すると、警察官はそれを持参して、サーバの所有者(又は管理者)である運営会社に対して、差押えを執行するのです。

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 この差押えは、このご時世でも、リモートワークでは対応できません。なぜなら、差押え許可状は、警察官から、処分を受ける運営会社に対して、実際に示されなければならないからです。

 また、差押え許可状には、「捜索すべき場所」が特定されていなければならないのですが、事業所の所在地がこれにあたります。そのため、僕の自宅において差押えを行うことはできないのです。さらに、差押えの対象は「物」に限られるため、「物」ではないデータの送受信によって行うこともできません。データを保存したDVD等の電磁的記録媒体が対象になります。

 このようなことから、差押えの際は、我々法務はそれに対応するため、出社をする必要があります。コロナ禍において、完全リモートワーク体制となった期間にも、この差押えの対応だけはリモートではできませんでした。法務のメンバーがよく出社しているのは、このためということもありますね。

コラム担当 K)

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