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 法務部門のメンバーが、インテグリティ・レターの裏話をはじめ、日常の想いを語ります。

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 2021年12月29日の21時からTBSで放送された「99.9-刑事専門弁護士-」について、法律的な観点から少しコメントしてみたいと思います。

 ドラマ内では、前半で下着泥棒の事件が、後半で市長の収賄事件が取り上げられていました。

 

 今回は、1つ目の下着泥棒についてコメントしてみたいと思います。

 いわゆる「下着泥棒」は、下着の所有者(占有者)の意思に反して下着を奪われてしまっているので、その犯人には窃盗罪(刑法235条)が成立します。

 そして、実務的には、窃盗罪の場合、窃盗罪が成立するか否かという問題の他に(それ以上に)、誰がその下着を盗んだかという点(犯人性)がよく問題となります。今回も犯人性が問題となっていました。

 実際の事件では、通常、下着を盗まれたことに気づいた被害者が警察に通報し、犯人の特徴を警察に伝え、その情報を付近を警戒している捜査官に伝達して似た特徴の人物を探し、見つけ次第、職務質問を実施し、嫌疑が晴れない場合には、警察署まで任意同行を求め、警察署で時間をかけて質問をし、それで嫌疑が晴れれば解放し、嫌疑が晴れなければ、逮捕状を取得して逮捕するというような流れを経ます。

 今回は、小島一哉さん演じる男性(大島さん(笑))が、被害者宅付近の道を歩いていたところ、被害者が申告した特徴と似ていることを理由に警察官に職務質問され、任意の所持品検査に応じてバックの中身を警察官に見せたところ、被害者の下着が出てきて、それが決定的な証拠となって現行犯逮捕されたという流れです。

 真犯人に窃盗罪が成立することは明らかなので、ここでは、小島さんが演じる男性(大島さん)が真犯人なのか否か(犯人性)が問題となっています。

 捜査機関が小島さんが演じる男性が真犯人だと考えたポイントは2つです。

 1つ目は、事件発生から時間的にも場所的にも近接したタイミングで、被害者が申告した犯人の特徴と小島さんが演じる男性の特徴が似ていたこと。

 2つ目は、事件発生から時間的にも場所的にも近接したタイミングで、被害者の下着を所持していたこと(厳密には、その出てきた下着を被害者女性に見せてその下着が被害者女性のものか否かを確認する作業は必要です。この確認作業によって、この下着が「被害品」であることが明らかになります。)。

 2つ目の方が重要な事実で、「被害品の近接所持」と言い、その人が犯人であることを強く推認する事情であると考えられます(殺人罪の場合の犯人性が問題となっているときに犯行に使われたと思われる血のついたナイフを事件発生と時間的場所的に近いタイミングで所持していたという事情がその人が犯人だと強く推認するのと似ています。)。

 小島さん演じる大島さんにとっては、非常に不利な状況です。

 しかし、その下着が、知らない間に誰かにバックに入れられていたということを示せれば、犯人ではない可能性が一気に高まります。

 そこで、深山先生は、まず、小島さん演じる男性に気づかれずに誰かがバックに下着を入れる方法が有るかを調べました。

そして、小島さん演じる大島さんが逮捕前にいた宮城県気仙沼市に行き、大島さんのバックに下着を誰かが入れることができる方法を実験によって発見しました(現場に行くことって大事ですね!!!)。

 ただ、これだけでは、釈放を勝ち取るには弱い可能性があります(誰かが入れたかもしれないという抽象的な可能性の範囲を出ないからです。)。

そこで、深山先生は調査を進めて、気仙沼で小島さん演じる大島さんの近くで作業をしていた重機を所有する建設会社に話を聞きに行ったところ、待合室に、その会社の社長と被害者とされる女性が一緒に写っている写真を見つけ、これが決定打となりました。

 

 ここまでで明らかになった事情を整理するとこんな感じになります。

・小島さん演じる大島さんのバックに下着を誰かが入れることができる方法の存在

・被害者の女性を懇意にしていた建設会社の社長の存在

・小島さん演じる男性がバックに下着を入れられた可能性がある場所の近くにその社長の会社の重機が音を立てて動いていたこと(この重機の音が足音を消してバックに下着を入れることを成功させるために重要な役割を果たしていたという事情)

・(おそらく)その社長の会社が小島さん演じる男性が反対運動をしていた建設物の建設を請け負っていて、小島さん演じる男性を疎ましく思っていたこと

 これらのことから、「その社長が自分が懇意にしている女性に被害者を装わせ、気仙沼で、小島さん演じる男性のバックにその女性の下着を密かに入れて小島さん演じる男性を窃盗犯に仕立て上げて、反対運動をできなくしようとした」というアナザーストーリーが極めて高度な現実味をもって立ち現れてきたのです。

 これによって、捜査機関も、小島さん演じる大島さんは下着を盗んでいない可能性が高いと判断せざるを得なくなり、釈放に至ったんだと思います。

 法律的に検証してみても、かなり実務の運用に近いストーリーで、観ていて非常に勉強になりました。すごいドラマだと思います。司法修習生は検察起案の勉強のために全員観た方が良いと思いました。

 なお、この社長の行為は、嘘を用いて警察の業務を妨害しているので(小島さん演じる大島さんの逮捕等、本来する必要のない職務を強いられたことで本来やるべきだった別の業務ができなくなってしまっているので)偽計業務妨害罪が成立します。

 もっとも、深山弁護士達をダンプカーで追い回す等していることから、もっと重い殺人未遂罪が成立する可能性もありますね(笑)

 

 

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2024.04.25 Thursday