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2025/03/10 21:10

第2回鱗kokera賞 奨励賞8作品

 今だけ   荒川力也

 

紫心ある葉はすべからく病葉に

茉莉花にうっとりとする司書を見た

土の中知りたくなって桜桃忌

蜜豆を食う今だけは雨が要る

夏帯のときどき鳥と喋る母

すこしだけ揚羽はすこしだけ怒る

夕焼よあるはずのない手を握る

海とあと夏の果て方などを見に

赤のままベンチに眠るベレー帽

その中に世界がすこし芋の露

秋分の電器屋が売る花の数

芋煮から芋煮へ向かう日曜日

稲刈をはじめる前の水を飲む

稲架かけてしばらく同じ空の色

海風にちりちりの髪新松子に

 

 松虫 うにがわえりも

 

春泥を踏みしめながら指相撲

猫いつもすこしとぼけて豆の花

行く春のちひさく光るおりんかな

吊り橋の先のまぶしき立夏かな

鳥の影いくつも映す代田かな

生ビールこれからもつとなかよしに

ゲーム機の線からみ合ふ夏休み

かなちよろやそろそろ僕の肩に慣れ

夏木立祈りは風になりはじめ

ハンカチの夜風にふつとなじみけり

おしぼりで耳まで拭いて海の家

水ヨーヨーこの人はなんとなく好き

雨を待つ松虫背ナを硬くして

秋昼寝だんだん文字を忘れつつ

刀豆やまだ諦めてゐない顔

 

 蹴るかたち 彼方ひらく

 

エプロンを掛けて薄暑の椅子となる

西瓜割みんな恋してをりにけり

梅雨寒やしやつくりのたび猫が見る

東京の野太き蚯蚓跨ぎけり

鶏頭や母笑はせて切るシャッター

帰省していよいよ訛る口ごたへ

提げて来し茸飯入り炊飯器

同棲や炬燵で本音確かめて

クリスマスいいねはそつと置くやうに

寒鴉言葉を選ぶ会議室

冬暖か「せーの」で車持ち上げる

麻雀牌片寄せて置くおでん鍋

永き日や鳩の帰らぬ鳩時計

石けんの泡の真白き花疲れ

夏近し脱ぎつぱなしの蹴るかたち

 

 遠く 川田果樹

 

Ardbeg隙なくならぶ淑気かな 

寒の水母に言はずに家を出て 

養花天電話をかけるまでもなく 

花菜畑肺が半分吹き飛んだ 

ちりめんやらくらくフォンの点滅す 

猫の恋ひとりで入るサイゼリヤ 

よじれたるシートベルトや夏は来ぬ 

薄暑光ひとりに広きエレベーター 

遠花火母好まざるニューメタル 

父遠く母遠くある泳ぎかな 

いなたまのとどかぬコインランドリー 

八月や刻んでタッパーに詰める 

茸山の足跡すぐに小さくなる 

墓洗ふあらかたの指に指輪 

いつまでも母の娘や冬の山

 

 古き絵本 辻村栗栖

 

新涼やつかまり立ちを自慢げに

肩車してゲレンデはまだ花野

露草は花びら足りぬやうなれど

動かざるリフト貫く秋の山

初雪やおほきなこゑに茶の揺れて

まつすぐに壁を見てゐる菊人形

火恋し日記は夜にさしかかり

冬来るや小籠包の先端に

薬局に古き絵本やスキー街

ほんたうに消炭か目を凝らしたり

熱燗やあそびごころの花を乗せ

歯ブラシの長短を手に柚子風呂へ

スキー客すこし寺見て帰りけり

平成の絵馬の黒さよ初雀

嘘泣きの巧くなりたる寒牡丹

 

 仄見えて 藤井祐喜

 

憚らず泣く鞦韆は立ちて漕ぐ

死後もなほ鶯餅があれば欲る

菜の花が上手く隠してくれてゐる

紫陽花の高さで運ぶ柩かな

水底に団扇社名が仄見えて

滴りに見惚れて羽化を忘れけり

クリオネがまだ生きてゐる冷蔵庫

立秋や白あんぱんを見て買はず

バタ足で戻ると蜻蛉生れけり

デザートは只ならぬ柿ぶかぶかの

胃袋は琳派のかたち冬ざるる

どんど焼ああと崩れてゆく達磨

袖口に鳩が隠れてゐるコート

白鳥を撮るぼんやりと父も容れ

冬の日を回して開けるランチジャー

 

 波 藤色葉菜

 

古箱を肩にボロ市の荒波

さすまたの立て掛けてある冬館

おにぎりの味噌の焦げゆく雪催

ひよつとしてすつぽかされたかもくしやみ

冬青空只今電話工事中

歌声は土にしたしく寒の明

ケチャップの花丸いびつ春嵐

水底に影脱ぎ捨ててプール出づ

秋の海めくれて浜を駆け上がり

さざなみの絶え間なき賭場秋日和

入賞の菊を抱へて喫茶店

鵯は半濁音符咥へ去り

鹿鳴いて鋭利な夜となりにけり

右耳にマスクの揺るる夜食かな

昼の虫パラパラ漫画の最後は墓

 

 日の当たる 前田拓

 

虫籠の底の隙間を踏み外す

わんぱく相撲廻しの下に履くズボン

常連になるまで通ふ豊の秋

紅葉狩髪の一部を染めて行く

赤ん坊のすこし沈みし今年藁

雪女月山に日の当たるまで

河豚刺しの箸を寝かせて掬ひけり

古日記ひなは卵に戻らざる

羊日の前脚で打つキーボード

闇夜汁だんだん甘くなりにけり

柊を挿しつつ辺り気になりぬ

雛壇に新幹線の一輌目

前髪の鋏は縦に若葉風

噴水の水仰向けに飲む写真

捲りては小さくなりゆく紙魚の跡

 

 

2025/03/10 20:28

第2回鱗kokera賞 選者別15作品

【村上鞆彦先生 15句選】

夏帯のときどき鳥と喋る母 荒川力也 

闇夜汁だんだん甘くなりにけり 前田拓

提げて来し茸飯入り炊飯器 彼方ひらく

サルビアに輓馬の息の荒くあり 古田秀

笹鳴にとなりをみればうなづきぬ 八田吏

女郎花大きな花の如く揺れ 山本たくみ

眠る前雪の愛車を一周す 嶋乃拶希

なにもない秋だ埴輪になりそうだ 桃園ユキチ

風呂吹の半径に箸入れにけり コンフィ

歌声は土にしたしく寒の明 藤色葉菜

ハンカチの夜風にふつとなじみけり うにがわえりも

かりんの木九月の雨を明るうす 加藤柊介

ハンモックより火起こしに口出しぬ 川崎乃古亭

へりくだりながら光の風の中 郡司和斗

春月や雌雄自在といふ魚 中村たま実

 

【西村麒麟先生 15句選】

河豚刺しの箸を寝かせて掬ひけり  前田拓

西瓜割みんな恋してをりにけり  彼方ひらく

川を見るひと妙齢にして裸足  岡一夏

来館者ノートこげらのスケッチも  古田秀

寒泳に参加しますか小さく◯  八田吏

釣るまへの川ひろびろと秋曇  蛙多楓太

写真より大きなパフェや夏休  笠原小百合

初雪やおほきなこゑに茶の揺れて  辻村 栗栖 

白鳥を撮るぼんやりと父も容れ  藤井 祐喜

初日記明日の分まで少し書く  黒島流世

船遊山毎年船に酔ふ人と  山本たくみ

雨の日の雨の色なるソーダ水  今尾 江美子

墓洗ふあらかたの指に指輪 川田果樹 

水ヨーヨーこの人はなんとなく好き  うにがわえりも

ペンギンをピンクに塗つて冬休み  村蛙

 

【鴇田智哉先生 15句選】

 雛壇に新幹線の一輛目  前田拓

芭蕉葉の蔭に顔ありおはやうさん  山崎秀貴

待合の座面の裂けてゐて竈馬  古田秀

掬ふときゆるむあやとり牡丹雪  紺乃ひつじ

露草は花びら足りぬやうなれど  辻村栗栖

葱を買ひ肉少し買ふ川明り  福嶋すず菜

あまがへる恋はなにかと目がかゆい  清水縞午

煙草吸ふウエットスーツを肌脱に   髙田礁湖

長き夜の寮のトイレや誰かゐて  阿部八富利

喧嘩したあとの明るさ柿の花  南方日午

音立てるだけの妖怪木の芽和  桃園ユキチ

声の素溜めて小春の喉ぼとけ  コンフィ

雲のにおい虹のにおいのランドリー  後藤麻衣子

へりくだりながら光の風の中  郡司和斗

日も凍てて大道芸人白塗す  加藤柊介

 

2025/03/10 20:20

第2回鱗kokera賞 個人賞作品

 

【村上鞆彦賞】

 

 行   郡司和斗

 

紫陽花を触れてきし手に手が触れぬ

サイダーやミュシャの絵柄のバッグより

禿げてゐる方の駝鳥は緑陰に

夕立や白い大きい人に会ふ

ナイターの人ら乗り込む三鷹行

鰯の群心臓のごと伸び縮み

秋麗を雲の研究飽きにけり

水始めて涸る新聞捻じ折られ

はじめから平成老いてゐる稲妻

この秋を眠りとほして納税す

霜柱少し話して大学へ

鳥もわれもインフルエンザにて真顔

湖の詠み尽くされし霙かな

詰め物の舌にざらつく氷橋

へりくだりながら光の風の中

 

【西村麒麟賞】

 

 酔ふ人   山本たくみ

 

蜷の道光を曲げてゐたりけり    

空は陽を離れて青し堤焼く

恋猫のふつと素面に戻りたる

蒸籠よりおしぼり出づる暮春かな 

甘酒やここらで宿を探しつつ   

鴫焼の茄子が水吸ひ油吸ひ    

東京を軽く貶して夏の湖  

船遊山毎年船に酔ふ人と     

酒二度と飲まじや烏瓜の花

月涼し隙あらばよき旅と言ひ   

様々の染みある団扇仕舞ひけり  

中元が届きしとすぐ電話あり   

女郎花大きな花の如く揺れ    

溢蚊や南の唄を懐かしみ    

選ばざる方の新酒も注ぎくれし

 

 

【鴇田智哉賞】

 

 冬至の水   加藤柊介

 

わが胸を貫くとせば黄のカンナ

流燈やうす闇ひらきつつ流る

かりんの木九月の雨を明るうす

秋風の彫像石の子を抱けり

十六夜の五体をうすく肉あまる

一分といへども遅刻いてふ散る

救急車鬼の子赫くして過ぎぬ

恐竜を深紅に塗りて秋深む

セロリ噛む良家に苦労あるらしく

老の双子ぽつぽつと来て蜜柑買ふ

火の粉より高きへ落葉焚の音

日も凍てて大道芸人白塗す

しんしんと枯野は山の水を受く

枯れ切つて桜は枝をのばしをり

冬至の血冬至の水をもて漱ぐ

 

2025/03/10 20:14

第2回鱗kokera賞 受賞作

   第2回鱗kokera賞 受賞作

     古田秀 「原野」

原野.png

2025/03/10 19:41

【第2回鱗kokera賞】発表

【 第2回鱗kokera賞 発表 】
2024年10月1日~12月30日に東京・荻窪にある当店が
村上鞆彦先生・西村麒麟先生・鴇田智哉先生に選者をお願いして
募集した第2回鱗kokera賞。
おかげさまで83作品のご応募があり、
厳正なる選考の結果、次の作品が第2回鱗kokera賞に輝きました。
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【 鱗kokera賞 】
・「原野」古田秀さん
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古田さんには村上鞆彦先生・西村麒麟先生・鴇田智哉先生のお三方全員の御句が書かれた色紙と、
鱗kokeraお食事券(1万円分)を授賞式の際に進呈いたします。
授賞式については5月の連休以降で、選者の先生方、受賞者された方々のご都合よき日をお聞きして
調整する予定です。

 

また、次の3作品が各選者の個人賞を受賞されています。
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【 村上鞆彦賞 】
・「行」郡司和斗さん
【 西村麒麟賞 】
・「酔ふ人」山本たくみさん
【 鴇田智哉賞 】
・「冬至の水」加藤柊介さん
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お三方には各先生方の色紙と鱗kokeraお食事券(五千円分)を進呈いたします。
さらに、最終選考に残られたものの、惜しくも鱗kokera賞、個人賞を逃した方々に
奨励賞を贈らせていただきます。
奨励賞の方には鱗kokeraドリンク券を贈らせていただきます。
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【 奨励賞 】(作者名 五十音順)
・「今だけ」荒川力也
・「松虫」うにがわえりも
・「蹴るかたち」彼方ひらく
・「遠く」川田果樹
・「古き絵本」辻村栗栖
・「仄見えて」藤井祐喜
・「波」藤色葉菜
・「日の当たる」前田拓
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受賞された方々、本当におめでとうございます!
惜しくも受賞を逃された方々も力作のご応募、
誠にありがとうございました。