【村上鞆彦賞】
行 郡司和斗
紫陽花を触れてきし手に手が触れぬ
サイダーやミュシャの絵柄のバッグより
禿げてゐる方の駝鳥は緑陰に
夕立や白い大きい人に会ふ
ナイターの人ら乗り込む三鷹行
鰯の群心臓のごと伸び縮み
秋麗を雲の研究飽きにけり
水始めて涸る新聞捻じ折られ
はじめから平成老いてゐる稲妻
この秋を眠りとほして納税す
霜柱少し話して大学へ
鳥もわれもインフルエンザにて真顔
湖の詠み尽くされし霙かな
詰め物の舌にざらつく氷橋
へりくだりながら光の風の中
【西村麒麟賞】
酔ふ人 山本たくみ
蜷の道光を曲げてゐたりけり
空は陽を離れて青し堤焼く
恋猫のふつと素面に戻りたる
蒸籠よりおしぼり出づる暮春かな
甘酒やここらで宿を探しつつ
鴫焼の茄子が水吸ひ油吸ひ
東京を軽く貶して夏の湖
船遊山毎年船に酔ふ人と
酒二度と飲まじや烏瓜の花
月涼し隙あらばよき旅と言ひ
様々の染みある団扇仕舞ひけり
中元が届きしとすぐ電話あり
女郎花大きな花の如く揺れ
溢蚊や南の唄を懐かしみ
選ばざる方の新酒も注ぎくれし
【鴇田智哉賞】
冬至の水 加藤柊介
わが胸を貫くとせば黄のカンナ
流燈やうす闇ひらきつつ流る
かりんの木九月の雨を明るうす
秋風の彫像石の子を抱けり
十六夜の五体をうすく肉あまる
一分といへども遅刻いてふ散る
救急車鬼の子赫くして過ぎぬ
恐竜を深紅に塗りて秋深む
セロリ噛む良家に苦労あるらしく
老の双子ぽつぽつと来て蜜柑買ふ
火の粉より高きへ落葉焚の音
日も凍てて大道芸人白塗す
しんしんと枯野は山の水を受く
枯れ切つて桜は枝をのばしをり
冬至の血冬至の水をもて漱ぐ