宗夜ブログ
●文月之茶事
7月の最終日曜日
よし庵にて続きお薄の文月之茶事が催されました。
今回はこぢんまりと3名さまのご参加。
テキストなどでは大抵お客様が3名ですので、今回が王道といったところでしょうか。
それならば、お客様のお作法に集中していただこうと考え、お点前は全て工藤が行いました。
皆さまにはよし庵公認のテキストを茶室にご持参いただき、ページをめくりながら進行に合わせてお作法の確認をいたしました。
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●淡交社『イラストでわかる茶懐石のいただき方』
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工藤は今まで色々な本を購入しましたが、上記が最も分かりやすくまとめられていてお勧めです。
茶事では同時進行でたくさんのことに気を配りますため、何かに気を取られると間違える可能性があります。
私にとってこの本は頼れる同僚のような存在です。
皆さま、お料理と談話の合間にテキストをご覧になられ、これはこれでリラックス出来るお茶事でございました。
宗嘉先生のお料理もゆったりと味わっていただけたようでした。
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《文月之茶事献立》
・向附:すずきの造り、水玉胡瓜、赤梅肉
・汁:合わせみそ かぼちゃ
・御飯:みょうが御飯
・椀盛:もずく入り卵豆腐、海老、椎茸
・預鉢:滝川豆腐
・焼物代わり:白身魚の米粉揚げ
・箸洗い:とうもろこし
・八寸:鴨のロースト、なすの煮浸し
・香物:たくあん、きゅうり、大根
・菓子:練り切り『桃』
干菓子『胡麻チュイール』
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●向附:すずきの造り、水玉胡瓜、赤梅肉
プリプリで新鮮なすずきのお造り。
光の当たり方によって虹色に表面が輝きます。余分な水分は一切なし。
旨みが凝縮されているのは丁寧な下拵えのしるし。
目にも涼やかな水玉胡瓜と共に、赤梅肉でさっぱりといただきます。
●汁:合わせみそ かぼちゃ
赤味噌強めのこくのあるお味噌汁。
真ん中には夏のお野菜、かぼちゃが鎮座しております。
蓋を開ければお味噌のいい香り。
塩味がかぼちゃの甘みを一層に引き立てて…。
先人が繋いでくれた発酵の技に感謝の一椀です。
●御飯:みょうが御飯
最初は一文字飯で、飯器の持ち出しにてみょうが御飯をお出ししました。
ほんのり出汁醤油の味付けにて、シャキシャキとしたみょうがの食感と共に御飯をお楽しみいただきました。
『なんでだろう。大人になるとみょうがって本当に美味しいのよねぇ!!』
『うん、うん☺️☺️☺️』
激しく同意。
●椀盛:もずく入り卵豆腐、海老、椎茸
『わぁ、きれい』
丸い椀に四角い卵豆腐
海老と椎茸が絵画のモチーフのよう。
まずは香りを楽しみ、その次にお汁を楽しみます。
ふわりと鼻に優しく抜けるお出しの香りと旨み。
もずく入り卵豆腐は、きれいな四角い形をギリギリに保つ柔らかさ。
口に含めば瞬時にホロホロともずくが解けます。
卵豆腐は出汁の旨みをたっぷりと吸い、卵の旨み甘みと共にもずくが磯の香りも届けてくれるのです。
海老はシコシコと甘く絶妙な食感。
椎茸は噛むと向こうの方から山の土の香りがやって来る感じ。
山の中の少し湿った土の香り。
海に囲まれ、尚且つ山がちな日本の自然を一椀で表現したような一品でした。
●預鉢:滝川豆腐
ん?イクラが乗っているのかな?
ノンノン☝️
タピオカをパプリカ色素で色付けしてみました。鮮やかでありながら豆腐の穏やかな風味を邪魔しません。
わさびの風味でつるりと…。
清流を想起させる爽やかな小鉢。
●焼物代わり:白身魚の米粉揚げ
サクッと軽い米粉揚げ。
夏野菜も米粉揚げ。
暑い夏。野菜からも元気をいただきましょう。
バジルソースを添えました。
バゲットに見立てた油麩にはチリソースを乗せて洋風に。
●箸洗い:とうもろこし
薄味のお汁にとうもろこしを数粒浮かべました。
お口を程よくクレンズして夢から現へと心も整えます。
●八寸:鴨のロースト、なすの煮浸し
鴨は茶懐石では海のものと捉えられいます。柔らかくローストしました。
なすの煮浸しは一晩掛けて、たっぷりと汁を吸わせてあります。
飾り包丁で綺麗に表面をお化粧。
じゅわーっと旨みが広がります。
●香物:たくあん、きゅうり、大根
湯桶と共に、香物をいただきます。
するすると喉を滑る柔らかな湯。
やや白く濁り、表面がところどころに千切れたお米の粒々が漂います。
私たち日本人は、赤ちゃんのときに離乳食としてお粥の上澄みをいただきます。
他国の方からは『味がない』と思われてしまう、お粥の上澄み。
上澄みから始まって、10倍粥、7倍粥、5倍粥、全粥と、1年をかけてゆっくりゆっくりと米に慣れていきます。お母さんは本当に大変。
毎回手間が掛かります。
でもその手間により、舌の味蕾(みらい:味のセンサー)を潰さず、ほんの少しの微妙な味わいを愉しむ味覚が育ちます。
香物は糠漬け。
お米の糠を発酵して作られる漬物。
糠…。現代であれば捨ててしまうでしょう。よほど食べるものに困らなければ目に食材とは映りません。
自分たちのルーツを確認するかのような茶懐石のお料理。
年齢と共に愛情を持って心が傾く日本料理の数々。
今回も美味しゅうございました。
宗嘉先生の心尽くしのお料理。
皆さまに存分に味わっていただき、その後のお点前へと続きました。
千鳥の盃のあたりで、工藤は下火を入れ始め、お料理の終了の後に炭手前をいたしました。
お正客さまには所々でお道具を亭主に訊ねていただきます。
亭主が釜を紙釜敷に置いたあたりから問答が交わされます。
。。。。。。。。
正客:緘は
亭主:寒雉でございます
正客:羽は
亭主:鴻鶴でございます
正客:火箸は
亭主:浄益でございます
正客:炭斗は
亭主:網代籠でございます
正客:灰器は
亭主:黄瀬戸でございます
正客:灰匙は
亭主:浄益でございます
正客:どうぞ香合の拝見を
亭主:(お辞儀)
正客:どうぞ風炉中拝見を
亭主:(お辞儀)
・・・風炉中拝見・・・
・・・薬罐による水足し・・・
・・・亭主水屋に下がる・・・
・・・客の香合の拝見・・・
・・・亭主入室、風炉清め、蓋を切る・・・
正客:お香合は
亭主:八角形螺鈿香合でございます
・・・茶道口にて主客総礼・・・
・・・主菓子持ち出し・・・
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●お菓子:練り切り『桃』
可愛らしい桃の形の練り切り。
中には本物の青い桃、若桃が包まれています。
桃の搾り汁が混ぜられた練り切りは、薄いピンクと白い生地とのグラデーション。
繊細な手仕事を思わせます。
お菓子をお召しあがりの後に、床などの拝見を済ませて、腰掛け待合に移動。そして後座へと移り、続きお薄のお点前となりました。
今回はお正客さまの本来のお役目をたっぷりとお願いすることが出来ました。
特に炭手前ではお道具を訊ねるタイミングが大切なポイントです。
これらはご自身が炭手前をよく知っていることが肝要となります。
お正客さまは、何度も亭主役をなさられて、よくよくご存知でいらっしゃいました。
客と主の滑らかな問答が見せ場。
『一座建立:いちざこんりゅう』を体現したようなお茶事となりました。
お次客さまは初々しく。
御詰は風格あるベテラン気質でお任せができました。
夏の暑い一日。
季節の輝きを一枚切り取ったようなお茶事となりました。
●真之茶事
水無月の最終日曜日
よし庵にて真之茶事が催されました。
梅雨空の合間を縫うようにところどころで薄日が差し、ちょうど良い具合に腰掛け待合でのお時間と重なりました。
空模様を気にしながらのお茶事。
自然と寄り添う私たちの生活そのもの。
どんなお天気もそれなりの美しさがあることを気づかせてくれます。
よし庵での真之茶事は実に5年振り。
正式な真之茶事の流れそのままに行いました。
席入の仕方や炭手前までは同じ。
異なるのは炭手前の後に和菓子をいただくことです。
正午の茶事では茶懐石となるところ、真之茶事ではすぐに和菓子が供されます。
真之茶事では和菓子は七種。
(七種!)
すべて宗嘉先生の手作り。
七種の全てが製法が異なります。
と、いうことは…
お菓子を作る技術も、最低でも七種は身につけておかねばなりません。
亭主を名乗るには、大変な修練を必要とすることを和菓子が私たちに語りかけているようです。
宝石のように麗しい和菓子。
お写真はフォトグラファーの太田真弓さんが撮影してくださいました。
菓子(七種)・・・・・・・・・
◆練り切り「ぷちダリア」
◆蒸し菓子「浮島」
◆蒸し菓子「水無月」
◆焼き菓子「栗まん」
◆冷やし菓子「緑茶羊かん」
◆冷やし菓子「みるく水まんじゅう」
◆干菓子「琥珀糖」
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その場ですべて味わいたいところですが…
時間的にも難しいので、2〜3種をお選びいただきます。
残りは工藤の方で陰で箱詰めをして皆さまにお渡ししました。
その後に宗嘉先生による真之行台子のお点前の披露。
しんと静まり返ったお茶室。
皆さまの目が宗嘉先生の一挙手一投足に注がれます。
明瞭に道を照らしてくれる師は、世の中にそう多く存在しません。
限られた時間を惜しむように、皆さまは宗嘉先生のお点前をしっかりと目に焼き付けておいででした。
その余韻を味わいつつ、腰掛け待合に移動。
しばしの休憩を経て
精進料理、精進落とし、懐石料理、千鳥の盃と進みます。
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向附・・刺身こんにゃく
汁椀・・三色そうめん 青かえで麩 みょうが
煮物椀・・豆腐とかえで麩の信田巻き煮 春菊
香の物・・きゃべつのミルフィーユ
焼物・・さわらの西京焼き
向附・・鯛の造り 生野菜 胡麻だれ
椀盛・・結びキスの葛叩き 笹竹の子
預鉢・・牛肉の味噌和え
箸洗い・・へぎ青梅
八寸・・らっきょう漬け イカの一夜干し
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美しいお料理の数々。
旬の恵みを宗嘉先生が美味しく調理してくださいました。
いくつかお味の紹介をいたします。
《精進料理》
●向附:刺身こんにゃく
ん?イカ?と思ったらこんにゃくでした。適度な弾力と歯応え。
細切りのきゅうりと茗荷が酢味噌と添えられています。
薄切りのこんにゃくでこれらの香味野菜を巻いて酢味噌を付けていただくと、とても美味。
●汁椀:三色そうめん
やさしい味わいのお出汁に三色のそうめんが揺らぎ、つるりと喉をすべります。
茗荷の香りがアクセント。
●煮物椀:豆腐とかえで麩の信田巻き煮
豆腐?言われなければ豆腐とは気付きません。滑らかな舌触りは白身魚のすり身蒸し煮を思わせます。
青かえで麩を中心に、滑らかな豆腐が油揚げでぐるりぐるりと渦を巻かれ、その油揚げがたっぷりと旨みを含んでいます。
じゅわ〜と溢れ出すおいしさ。
●香の物:キャベツのミルフィーユ
きらりと光るネーミングのセンス。
程よくシャキシャキ感の残る浅漬けキャベツの爽やかなミルフィーユです。
若緑の色合いが美しく食感の楽しい一品でした。
《懐石料理》
●向附:鯛のお造り
丁寧な下処理にて旨みを引き出した鯛のお造りです。
生野菜と胡麻だれが添えられていました。胡麻だれには切り胡麻を使って食感と香りを際立たせています。
●椀物:結びキスの葛叩き
キスがこのように美しく結ばれているお椀を初めて拝見しました。
葛でつるりとお化粧されて中央に鎮座しております。
肉厚の椎茸が花笠のように添えられ、笹竹の子がお椀のバランスを引き締めています。
デザイン画を思わせる一品。
ふわり柔らかいキスの結び。
深い溜息が出るようなお椀でした。
宗嘉先生のお料理は素材の旨みを最大限に引き出しているものばかり。
手を加え過ぎず、優しいお味が身体と心をじんわりと温めます。
召し上がり終えましたら、腰掛け待合に移動し、少しの休憩。
その後に宗嘉先生による台子薄茶点前にて一服お召し上がりいただきました。
本式通りのたっぷりとしたお茶事。
大人になったなら本物を知っておきたい。
大人のための大人の時間でした。
●皐月☘️野点茶会
皐月の最終日曜日
よし庵にて初の野点茶会が催されました。
長らく雨続きでありましたのに、この日は澄んだ青空が広がりました。
よし庵の待合には定刻までにご参加の皆さま8名がお集まりくださいました。
今回は茶事ではなく茶会ですので、ややカジュアルです。
白湯で喉を潤わせつつ軽く自己紹介。
その後に宗嘉先生お手製のワンプレートの茶会ランチ。
食材選びと献立のバランスに拘り抜いた優しいお味のお膳。
身体にじんわりと沁みます。
。。。。。。。。
もち麦鶏つくね
和風サラダ
アスパラのごま和え
にんじんのもち麦あんかけ
新しょうがの炊き込みご飯
沢煮汁
季節の和菓子:水ぼたん
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ランチの間に盛り上がったのが
『美容と健康』の話題でした。
・最近はこんな風に食事に気をつけている、とか
・食べ物の嗜好がこんな風に変わった、とか
・え?私は全然変わらないんですけど、とか
・無頓着に食べるのは危険、とか
・でもせっかく生きているんだから好きな物を食べたいのよ、とか
・そう言えば今日の献立では『もち麦』がフィーチャーされているね、とか
・私はご飯に入れて毎日食べているの、とか
・それは素晴らしい!、とか
とかとかとか…
まぁよく喋りました。
普段のお稽古ではお喋りを慎んでいただいているので、このように心を許して皆さまとお話し出来る時間は貴重な機会です。
このメリハリがよし庵の茶道の良いところだと思っています。
皆さまはそれぞれに魅力的。
お互いにその魅力を確認し合える時間がこのようなカジュアルなお茶会の醍醐味のように感じました。
『美容と健康』に話題が上るということ自体が素晴らしいと思います。
生活と気持ちが安定しているからこそ口に出来る話題です。
未来志向で誰も傷つけません。
ところで、女性は全般的に美容とおしゃれに貪欲です。
若い女性も美容とおしゃれにエネルギーを注ぎますが、大人女性とは大きな違いがあります。
それは真剣さです。
大人女性にとってのおしゃれは、健康の上に成り立つことものであり、現実的です。
大人世代の女性が『美容と健康』を口にする時には、言動が一致しているのです。
『結局のところ、大切なのは日々の積み重ねなのよねぇー』
『うん、うん』
とみんなで納得しました。
ランチを食べ終えたら、そのまま和菓子をいただきます。
本日の和菓子は、水ぼたん。
花ひらく直前のぼたんの蕾です。
きゅっと最上部がすぼまった状態ですが、するすると花びらがほどけて、今にも満開となりそうです。
幾重にも美しいドレープを持つ見事な牡丹を想像しつつ口に運びます。
中は香り豊かなレモンあん。
外側のういろうも同じくらいに柔らかく、調和のとれた美を感じます。
さぁ、そろそろ茶庭に移りましょうか。
今日は本当に良いお天気。
カラリとした風を感じ、鳥の囀りに心が弾みます。
手水に注がれる水の音。
さらさらと心地よく、時間の流れを忘れるほど。
よし庵の茶庭には3色の小石が敷かれています。
白とグレーとブラウン。
配置も絶妙で実に現代的。
茶室を多く手掛ける専門家のアドバイスにより、このような色彩となりました。
色の違いは、遠近法に則っており、奥行を感じさせます。
陽の光を浴びた時の反射率も計算されているようです。
グレーとブラウンは光を吸収しますので、白い石の輝きが一層に目立ちます。
白い石には石英がふんだんに混じっているのでしょうか?
まるでダイヤモンドのようにキラキラと光を放ち、現実を忘れて夢のような幻のような不思議な気持ちになりました。
このお席にて薄茶と自然の両方を存分に味わいました。
それでは、もう一度広間に戻り宗嘉先生の座学に参りましょう。
本日のお題『利休とキリシタン』です。
学校で習う日本史とは全く異なる切り口で、宗嘉先生の解釈が進みます。
史実の羅列だけではない、その時代に確かに生きた人々の足跡を辿り、茶道を軸とした歴史と宗教観が展開されていきました。
ご参加者の中にキリスト教を信仰されている方々がおられ、宗嘉先生のお話に目を潤ませて何度も頷いておられました。
ご自身でも茶道とキリスト教との共通点に何となく気付かれていたとのこと。
ところが確かめようもなく、お社中の師に確かめることも憚られ、一人胸の中にそっと仕舞われていたのだとか。
それが、宗嘉先生の口から滔々と語られる様を見て『心が動きました』と仰っておられました。
実に充実した一日となりました。
楽しく打ち解けたお食事の時間。
その後、爽やかな空気と共に薄茶を味わい
最後はしっかりと茶道の真髄を述べて引き締める。
楽しくて、ためになる。
よし庵らしい野点茶会でありました。
9月にも野点茶会を催します。
皆さまのお越しを楽しみにお待ち申し上げております。
●暁の茶事
卯月の末の日曜日。
よし庵茶道教室は、美しい茶庭を持つ本格的な茶道教室へと生まれ変わりました。
前日までしっとりと路地を潤していた雨も茶事当日にはやみ、まさに陽春のみぎり。
風はすでに初夏の香でありました。
本日お迎えしましたのは、6名さま。
社中の生徒さま5名と、海外からご参加の会員さま1名。
待合にて揃われた皆さまがやや緊張気味でいらっしゃるのは、今回が特別な茶事であるから。
暁の茶事には儀式的な作法がふんだんに織り込まれ、とても神秘的なのです。
私共の席入は正午でありますが、元々は漆黒の夜明け前。
そのため、待合も廊下もお茶室も電気を消しろうそくをつけて想定の時間帯を演出しております。
待合にて皆さまが腰をかけられておりますと、亭主が手燭🕯️を持って枝折り戸を静かに開く姿が見えました。
本来は真っ暗闇であります。
赤みを帯びたろうそくの灯が宙に浮くように向こうの方からゆらゆらと近付いてきます。
その灯に気付き、お正客さまも敷石に置かれた手燭🕯️を持ち、亭主と相まみえてお互いの手燭を交換します。
静寂の中で行われる儀式を終え、手口を清めに手水へと向かいます。
火と水。
庭の木と、土・岩・石。
頰をかすめる風。
全身で自然を感じた後に、その身体を二つに折るようにして躙口を抜けて茶室へと入ります。
設いの拝見を経て亭主とのご挨拶。
そして各所に荘られたお軸などに謝意を伝え、諸々のご由緒を耳で愉しみます。
自然の美しさも良し。
人の手が作り出した美しさもまた良し。
そして初炭手前。
暁の茶事の初炭手前はとても難しいのですが、ご担当の生徒さまは滞ることなく完璧にお務めを果たされました。
ゆらめく手燭の灯がご亭主の真剣な面差しを照らします。
和蝋燭の炎は思いのほか大きく、明るく、ご亭主を始め皆さまの影が放射状に伸びたり縮んだり。
生き物のよう。
湿り気を帯びた茶室の空気に、練香の薫りがねっとりと絡みます。
本日のお香は『坐雲』
心を空にしてただひたすらに坐す。
鼻腔から全身に入るこのお香は雅でありながらスッキリとした清涼感を持ちます。
香合の拝見と共に夢のような初炭手前が終わりました。
パチパチと炭が唄い、私たちは現実に戻りました。
あら、急にお腹が空いてきたわ。
お待ちかねの宗嘉先生の茶懐石料理。
。。。。。。。。
向付:鯵の三杯酢
汁:合わせ味噌仕立て 青さ
椀物:ふきの信田巻き
焼物代わり:桜えびのかき揚げ・鶏天
預鉢:白和え
進肴:青海苔入り出汁巻き卵
小吸物:新しょうが
八寸:そら豆の鎧煮・はんぺんいくらのせ
香の物:沢庵・きゅうり/なす浅漬
主菓子:菖蒲
。。。。。。。。
皆さまが小吸物を手にされたあたりで、亭主(宗嘉先生)が静かに入室。
そしておもむろにお軸を荘ります。
ちょうど朝日の昇る時間。
天窓から差し込む陽の光がお軸に注がれ、皆さまの目を集めます。
バテレン追放令(1587年)の発布後の命懸けの茶事において、その光景がどれほど茶人の心に響いたか、現代の私たちは知る由もありません。
数々のお料理の後に、続きお薄となりました。こちらも社中の生徒さまがご亭主を務めてくださいました。
6名の皆さまと宗嘉先生の、合計7名の方が茶室に揃われているのに、誰もいないかのような不思議な静寂。
時々ご亭主の衣擦れの音や、コトリ・カツリとお道具の立てる微かな音が茶室から聞こえてきます。
『ゆるやかな流れを持つ美しいお点前であった』とのことでしたが、もはやよし庵ではそれが当たり前であるような安定感すら漂っておりました。
数々の作法を終えてお茶事がお開きとなり、もう一度待合にお集まりいただき談話の時間を設けました。
満足感でいっぱいの皆さまのお顔を拝見し、とても嬉しい気持ちになりました。
大人の愉しみとはこうも深いものなのかと味わえた時間でありました。
茶事というこの数時間に向かって、数ヶ月の準備をしていく。
当日のお天気はどうかと気を揉む。
着物はどうしようかと悩む。
上手く事が運んだこともあれば、次回への課題もあるけれども、そのどれもがキラリと輝きを持ち、愛しい。
海外からの会員さまは、溢れる笑顔を向けてくださり『是非にまた!』と言葉を残してお帰りになられました。
社中の生徒さまも『では次回に…』とお茶事の余韻を愉しみつつお帰りになられました。
まことにいいお茶事でありました。
初釜の茶事
2024年1月28日正午
よし庵にて初釜の茶事が催されました。
皆さま華やかなお召し物でご参加くださり、お茶室に新春の空気が吹き込まれました。
外はまだまだ寒いのに、皆さまの少し上気した嬉しそうなお顔を拝見しましたら、いち早く春を見つけたような幸せな気持ちになりました。
待合での汲み出しの後に、お軸を拝見し、お作法通りに腰掛け待合へ…
亭主との静かなご挨拶。
手水にて両の手と口を清め、躙口で頭を垂れて、お茶室に入ります。
躙口は腰のところで身体を二つ折りにするようにしてお茶室に入るので、いつも少し呼吸が苦しくなります。
赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれるときは、こんな感覚なのかなぁ…などと想像します。
だとすると、私たちはお茶事を経験すればするほど生まれ変わっているのかもしれません。
そのせいでしょうか?
お茶事によくご参加くださる生徒さまは、ご参加毎にぐんぐんと腕が伸びていくのでございます。
普段でのお稽古では経験し得ない、一回ごとの特別な行事が生徒さまの力をより引き出しているようです。
お茶室にはお正月にふさわしいお軸と、宗嘉先生のお庭のお花が荘られております。
お軸を見、お花を見、お釜を見、仮座に入り、皆さま揃って広間へと進みます。
シュッシュッと畳を擦る白足袋の音。
音まで白く清らかです。
亭主とお客様とのご挨拶。
その後に初釜の初炭。
真っ白な奉書の上の、大ぶりな炭。
立派でありながら、断面は美しい菊模様。
カラカラと音の鳴りそうなほどの乾燥が見てとれて、宗嘉先生の陰のお仕事振りが光ります。
生徒さまによる初炭手前が始まりました。
この日のために稽古を重ねてくださいました。
『手首を柔らかくしてお羽を舞わせてください』
お稽古中に生徒さまに申し上げました。
炉縁を清めるにはお羽の両面を使うのですが、お羽が翻るときの手首の動きが見どころのひとつであります。
宗嘉先生の手首の動きは本当に美しいもので、zoomでのご視聴の際は、ぜひ先生の手首に注目していただきたいとお伝えしました。
それら全てを心得て、生徒さまはよくよくお稽古してくださいました。
足捌きは迷うことなく滑らかに…。
お羽も美しく炉縁を舞いました。
嬉しく、頼もしく、お隣にて拝見しました。
炭を焚べているそばから、パチパチと爆ぜる音が炉の壁に反響しました。
炭と空気と火の競演
黒い炭が、ほの赤い色をゆっくりと帯びていくその変容のさま。
誰も口を開くことはなく、神秘的な雰囲気を肌で感じて、一瞬一瞬を愉しんでいました。
素晴らしい初炭手前を終えて、『ふぅー』と息を吐く生徒さま。
『良かった、良かった』とその生徒さまを労って囲む他の生徒さま達。
そしてお楽しみの宗嘉先生の茶懐石料理。
数々の美味しいお料理の後に、主菓子。
先生のお庭の柚子で作られた柚子羊羹です。
柚子の皮を器とした目にも嬉しい柚子羊羹。
直前までよく冷やして、生徒さまに供しました。
さっぱりつるんと爽やかな酸味が、身体の細胞ひとつひとつを目覚めさせます。
そして腰掛け待合へ。
後座にて、長緒茶入による濃茶席。
ご担当の生徒さまも、長緒の扱いを一生懸命に練習してくださいました。
音楽好きで手芸が趣味の生徒さま。
私から見ると、趣味の腕はプロ級です。
物静かな佇まいで丁寧に丁寧に技術を磨いていらっしゃる。
『手芸用の紐で練習していました』
柔らかく微笑んでくださいました。
努力の甲斐あって美しいお点前でした、と宗嘉先生も嬉しそうに仰っておられました。
その後、工藤の後炭手前を経て、薄茶席となりました。
薄茶席では、筒茶碗でのお点前。
絞り茶巾の独特の手捌きが美しいお点前です。
ご担当の生徒さまも、お茶巾の扱いを喜んでくださり、練習を積み重ねてくださいました。
この動き、遅すぎても速すぎても見応えが損なわれてしまうのですが、生徒さまはその塩梅をよくご理解くださっていた、と宗嘉先生が感心されていました。
羽化した紋白蝶が青空を楽しむが如く華やかな雰囲気を持つお席となり、お茶事を締め括ってくださいました。
その後、お作法通りにご挨拶をし、花入とお釜の拝見を経て、躙口から腰掛け待合へと移動して、亭主のお見送りを以ってお茶事が終了となりました。
生徒さまにはもう一度待合にお集まりいただいて、お白湯を召し上がっていただきました。
『今日のお席も実りある良いお席でしたね🌸』
と盛り上がっていくうちに、宗嘉先生の将来の展望へと話が進みました。
先生はこの数ヶ月のうちにお教室をリフォームなさいます。
『ここから階段を作ってお庭に降りれるようにするんだ。今度は内装の腰掛け待合ではなく、本物の外庭の腰掛け待合にするんだ。』
それから…
それから…
話が大きくて工藤の想像が追いつかないのですが、何しろ楽しそうです。
皆さまも
『実際に目にするまでは様子が分からないけど、とにかく楽しみですね!』
と口を揃えてくださいました。
春への期待に胸を膨らませつつ、初釜のお茶事がお開きとなりました。
よし庵のお茶事が皆さまから支持される理由はここにあるように思います。
未来への希望。
明日へのチャレンジ。
楽しく、美しく。
皆さま
春からの新しいよし庵でのお稽古とお茶事をどうぞお楽しみになさってくださいませ。
私もとても楽しみです😊