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条件付所有権移転仮登記移転(相続)及び抹消
レア案件のため、自身の備忘録を兼ねて記事にしようと思います。
相続登記の依頼を受けて不動産を調査したところ、土地が10筆ほどあり、その中の1筆(畑)に被相続人の弟(令和1年2月3日死亡)が25年ほど前に設定した農地法3条許可を条件とする、条件付所有権移転仮登記があったので、この際抹消までしましょうと提案し受任いたしました。
仮登記名義人の相続人は兄弟姉妹(代襲と数次相続で甥・姪)のため8人ほどいましたが、全員ご協力いただけるとのことで何とか遺産分割協議ができました。当該土地については、先に相続登記を済ませて依頼人名義にしてあったため、仮登記を遺産分割協議で依頼人名義にして、混同で抹消することにしました。以下が2連件で申請した内容です。
*依頼人をA 仮登記名義人を甲とします。
1件目
目的 条件付所有権移転仮登記移転
原因 令和1年2月3日相続
相続人(被相続人甲)A
添付情報 登記原因証明情報(相続に関する戸籍1式及び遺産分割協議書) 住所証明情報 代理権限証明情報
登録免許税 1,000円(定額課税のため、評価証明は不要)
2件目
目的 条件付所有権移転仮登記抹消
原因 令和1年2月3日混同
権利者兼義務者 A
添付情報 登記識別情報 代理権限証明情報
登録免許税 1,000円
1件目の登記原因証明情報は、通常の相続登記と同じく、相続関係説明図を添付して原本還付できます。遺産分割協議の内容としては、「相続財産中、下記不動産の条件付所有権移転仮登記(平成10年10月10日受付第1234号)は、Aが取得する」との文言にしました。
2件目の抹消については、「混同」は、試験勉強のときにはよくやってましたが(模擬試験の記述でよく引っ掛かっていました)、実務では初めてでしたので、これで良いのか確信が持てず、完了までドキドキでした。
相続財産清算人について
成年後見業務をしているなかで、担当をしていた被後見人が亡くなりました。相続人調査をしたところ、相続人がいないことが判明し、管理財産を引き継ぐことができない状況となったので、相続財産清算人の申立てをしました。このようなことは今後も予想されるため、自身の備忘録を兼ねて記事にしてみたいと思います。
1.相続財産清算人とは
民法は「相続人があることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と定めています(民法951条)。相続財産清算人はその相続財産法人を代表し、管理する者です。相続財産清算人は、相続人を探し出し、見つからなければ清算手続を行い、最終的に残った財産を国庫に帰属させる手続を行います。相続財産清算人について法律上、特別の資格が必要との規定はありません。
2.相続財産清算人が選任されるケース
①戸籍上相続人がいないことが判明した(している)場合
「相続人のあることが明らかでないとき」には、相続人がいるかどうかわからない場合に加えて、戸籍上相続人はいないことがわかっている場合も含まれます。このような場合には、実質的に遺産を管理する人がいなくなり、遺産が失われる恐れがあるので、相続人を探し、相続人の存在が確認できなければ相続債務の弁済などの清算を行ったうえで、最終的に残った遺産を国庫へと帰属させるために、相続財産清算人が選任されるのです。
②相続放棄により相続人が誰もいなくなった場合
相続人が相続放棄をすると、その者は当初から相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。
3.相続財産清算人の選任申立
相続財産清算人は、「利害関係人」または「検察官」の請求によって、家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。利害関係人とは、相続財産について利害関係を持つ者をいい、具体的には以下のような人たちが該当します。
- 被相続人の債権者、債務者
- 特定遺贈を受けた人
- 特別縁故者 など
*後見人が利害関係人と言えるのかは微妙なところですが、財産を引き継ぐ先がない以上、仕方のないこととなり、申立は受理されました。
4.相続財産清算人の選任申立に必要な書類
- 選任申立書
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人の財産を証明する資料(不動産登記事項証明書や預貯金・有価証券の残高証明書など)
- 被相続人と申立人の関係を証明する資料
- 候補者の住民票または戸籍附票
*被相続人の配偶者や子ども(孫)、祖父母、兄弟(甥・姪)など、相続人になる人で、既に亡くなっている人がいれば、その人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本も必要です。
5.申立人が負担すべき費用
相続財産清算人選任の申立人が負担すべき費用は、原則として以下のとおりです。*家裁によって多少異なるようです。
- 収入印紙:800円
- 連絡用の郵便切手:数千円程度
- 官報公告料:5075円(裁判所の指示の後)
また、相続放棄をした場合などに、相続財産の金額が、相続財産清算人の報酬や経費に対して不足する場合には、家庭裁判所が申立人に対して予納金の納付を求めることがあります。予納金の金額は、相続財産の管理や相続債権者・受遺者に対する弁済など、必要となる手続きの煩雑さなどに応じて変わりますが、一般的な相場は、数十万円~100万円程度になることが多いようです。今回のように、専門職後見人が選任申立をした場合は予納金不要とのことでした。
6.相続財産清算人が取り扱う手続きの内容・流れ
相続財産清算人は、管理者のいない遺産を国庫に帰属させるまでの一連の以下の管理事務を、相続財産法人を代表して執り行います。
①家庭裁判所による公告
家庭裁判所が相続財産清算人を選任した場合には、家庭裁判所によって選任の旨と相続人の捜索の公告が遅滞なく公告されます(民法952条2項)。
相続人の捜索に係る公告期間は最低限でも6ヶ月以上に設定され(同条同項後段)、相続人としての権利を主張する者が誰も名乗り出なかった場合には、相続財産清算人は、遺産を国庫へ帰属させる手続きなどへ移行します。
②相続債権者・受遺者に対する弁済に関する手続き
相続財産清算人が選任された旨の公告があった後、2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産管理人は遅滞なく、すべての相続債権者および受遺者に対して、弁済請求の申出をすべき旨を公告しなければなりません(民法957条1項前段)。この場合、公告期間は最低でも2か月以上に設定されます(同項後段)。
弁済請求の申出に係る公告期間の満了後、相続財産清算人は、その時点で知れている相続債権者および受遺者に対して、債権額の割合に応じて相続財産の中から弁済を行います(同条2項、929条本文)。ただし、優先権を有する相続債権者に対しては、優先的に弁済が行われます(同条ただし書)。
③特別縁故者への財産分与、最終的な国庫帰属
遺産を国庫に帰属させる前段階として、被相続人との間に特別の縁故があった法定相続人以外の者(特別縁故者)に対して、相続財産の全部または一部が与えられる場合があります(民法958条の2第1項)。特別縁故者として相続財産の分与を受けたい人は、相続人の捜索に係る公告期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に対して分与の請求をしなければなりません(同条2項)。家庭裁判所は、特別縁故者による分与請求を受理した場合、その者の被相続人に対する貢献度などを総合的に考慮して、相続財産の分与を認めるかどうか、また認めるとすればどのくらいの金額かを判断します。相続財産清算人は、家庭裁判所の決定に従い、特別縁故者に対して、相続財産の全部または一部を交付します。
特別縁故者への相続財産の分与手続きが完了したら、相続財産清算人に対する報酬付与、予納金還付手続を経て、それでも残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。相続財産清算人は国庫帰属実現のため、最終的に残った相続財産についての計算処理や、名義変更などの手続きを行います。
④管理終了報告書の提出
手続きが完了し、残った相続財産がすべて国庫へ帰属したら、相続財産清算人は管理終了報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。これで相続財産清算人の業務は終了です。多少端折りましたが、大体このような流れとなります。
7.まとめ
相続財産清算人は、相続人がいない遺産を円滑に清算するための職務を行う存在です。身寄りのない高齢者が増えている近年では、空き家対策も絡んで、その重要性が高まっていると思います。
公立学校共済組合の抵当権抹消
最近ご依頼いただいた相続登記案件で登記記録を見たところ、昭和40年代に設定された、債権者が公立学校共済組合の抵当権があったので、抹消の提案をしたところご依頼頂きました。レア案件のため記事にすることにしました。
公立学校共済組合について調べたところ、組織としては、公立学校の職員、都道府県教育委員会の職員や都道府県教育委員会の所管に属する教育機関の職員で組織されています。登記情報で検索してもヒットしなかったので、法人として登記はされていないようです。また、定款変更した場合には官報で公告されているとのことでした。また、都道府県ごとに支部が設けられています。
抵当権抹消書類についてですが、今回は依頼者の方に取り寄せて頂きましたが、司法書士が取り寄せる場合には、物件所在地の支部に請求することになります。抹消書類が届いたので内容を精査したところ下記の書面がありました。
- 理事長から支部長への委任状
- 支部長から登記を申請する方への委任状
- 文部科学大臣発行の印鑑証明書
- 定款の抜粋と官報公告の写し(原本証明文言付き)
- 解除証書
1の理事長から支部長への委任状については原本還付をして返却してほしいとのことで、丁寧に返送用レターパックまで付いていました。通常の抹消書類とは違い5の解除証書以外訳が分からないため、とりあえず支部に電話をして担当者に聞いてみることにしました。まず、権利証がないことについては、現在では貸し付けをしても抵当権を設定することはなく抵当権を設定していたのは昔のことだそうです。当時から、先生方等の信用で貸し付けを行っていたため、権利証はそもそも不交付にしたとのこと。他の書面に関しては、これで抹消できているとのことで、登記に関してはわからないためそちらで対応してほしいとのことでした。また「権利証がない場合は、法務局から事前通知がなされますがご対応頂けますか?」の問いについては、迅速に対応しますとの回答でした。
登記申請の添付書面ですが、1の理事長から支部長への委任状については「当該登記申請のみに使うものではない書面」に該当するため原本還付します。3については事前通知となるため必要となります。4については、共済組合所在地や理事長が変更になっていることから、これがいわゆる変更証明書になるようです。共済組合側は返却不要と言っていましたが一応原本還付しました。3の委任状及び5の解除証書には物件の表示がいずれも記載されていなかったため、解除証書の下部に物件の表示を入れました。
実際に登記申請をしたところ10日程度で完了したため、事前通知に対しては迅速に対応して頂けたようです。
相続人の地位が重複した場合の相続分(いわゆる二重資格者について)
先日ご依頼を頂いた相続登記と法定相続情報一覧図作成業務におきまして相続人を調査したところ、相続人の中に二重資格者がいることが判明してビックリしました。このようなことは受験知識の範囲だと思っておりましたので、慌てて先例や学説を調べて、何とか法定相続情報一覧図が完成したところです。
概要は以下の通りです。
二重資格者相関図.pdf (0.27MB)
- 経緯は不明だが、花子が婚姻をせずにA子を出産した。
- 子を出産したので、父母の戸籍から除籍となり、筆頭者が花子の戸籍ができた。
- 花子の父母が、A子を養子にした。
- 令和5年に一郎が死亡した。子供はいないうえ、両親も既に亡くなっているため相続人は配偶者と兄弟姉妹となった。
- 一郎に先立って、令和2年に花子が死亡していたため、代襲相続となり、A子が花子の代わりに相続人になった。
以上の経緯から、A子は被相続人の姉としての地位と、妹としての地位で相続人となります。(同一順位間で相続資格が重複する場合には二重の資格を得ます。)
具体的な相続分は、妻B子は12分の9、二郎は12分の1、A子は12分の2となります。
このケースの場合「孫かつ養子」(昭和26年9月18日民事甲第1881号民事局長回答)と酷似していることから、具体的な先例は存在していないとはいえ、学説上、民法自体が重複する場合を認めていることを前提に、特に重複を認めない理由がないということで、両者の相続分を合計して取得するという考え方が有力と考えます。実際、法務局側としてもこれで良いとのことでした。
とはいえ法務局に申請した際にはかなりビクビクで、ダメ出しが来ないかと心配でした。法務局でも協議したようでした。