茨木のり子「灯」

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茨木のり子「灯」

         

人の身の上に起こることは

我が身にも起こりうること

 

よその国に吹き荒れる嵐は

この国にも吹き荒れるかもしれないもの

 

けれど想像力はちっぽけなので

なかなか遠くまで羽ばたいてはゆけない

 

みんなとは違う考えを持っている

ただそれだけのことで拘束され

 

誰にも知られず誰にも見えないところで

問答無用に倒されてゆくのはどんな思いだろう

 

もしも私が そんな目にあったとき

おそろしい暗黒と絶望のなかで

 

どこか遠くにかすかにまたたく灯が見えたら

それが少しづつ近づいてくるように見えたら

 

どんなにうれしくみつめるだろう

たとえそれが小さな小さな灯であっても

 

よしんば

目をつむってしまったあとであっても

 

         茨木のり子

 

(岩波文庫 谷川俊太郎選 茨木のり子詩集より)