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2026/03/13 00:18

第3回鱗kokera賞 受賞作

👑大熊光汰「腫れ方」👑

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✨村上鞆彦賞

 からだ   市原みお

はりはりと如雨露の底の薄氷

冴返るならむ時計の中の鳩

春蟬や生麦生米演劇部

灯涼し酔へば歌へる師のありて

卵手に取れば朝来る冷蔵庫

流し場の下に梅酒の闇のあり

麻を着て十指いづれも肉薄く

初秋や手の甲に見る紅の色

水澄みてかぷかぷ回るものが見ゆ

秋草やばらけはじめし持久走

底浅き花をうつりて秋の蝶

閉経へ傾くからだ花柊

風呂吹や星の少なき町に住み

背中合はせに毛糸編むひととをり

手に残る辞書の重さや冬至の湯

 

✨西村麒麟賞

春のいろ   綾竹あんどれ

丸皿の縁のふくらみ春の雪

風船も乗せ海行きのバスとなる

水温むさかしまに木をつつく鳥

迷ひ来て朧の家のベル鳴らす

むず痒く海胆のうごくを見てゐたる

アネモネの一輪窓のなき楽屋

通話せり雫のやうな春の灯に

指先に舐めとる砂糖サイネリア

永き日の相槌の間の似てきたる

寄居虫のさばしる床に置かれては

春の宵カシューナッツの割れやすき

ぶらんこを漕いでうつすら口開いて

じわじわと寄るよ蛙の正面へ

笑ひたるままに歩いて春田まで

ヘリオトロープ楽団の来る朝

 

✨鴇田智哉賞

人の頭   森田秋津

頭山みたいな話春の宵

桜から桜に渡る跨線橋

飛花落花蹴散らしてをる愛その他

暮れの春水面に上がる心地して

われもまた緑となりて夏に入る

向うから件の来たる夕若葉

短夜に雨の通つたやうな気も 

あらば買ふダークマターといふ香水

昨日まで人魚の国にゐた金魚

その手から鬼灯出しぬ秋日傘

落花生割つて火星に行くと云ふ

人の頭こんなに重くそぞろ寒

ちさき猫わたしにちようどよい冬日

狐火が玻璃戸に映り大き家

知らしめよ狼ここにをりしこと

 

✨奨励賞

◇懐く犬  紺乃ひつじ

手をかぶせつつ虫籠の蓋開けぬ

翅へ青およぶ塩辛蜻蛉かな

絡まつて水引に色濃きところ

秋風やこけしの罅の毛羽立てる

ことわつておく無花果の熟れ具合

落葉踏むよ落葉踏むよと声に出し

ひとりづつ参る鎮守や冬珊瑚

こつそりと募るサンタのアルバイト

去年今年なますのうへしたをかへす

珈琲淹れなほす寒夜の天動説

己が雪にまへがみ濡るる雪女

春ショールかき寄せて絵に近づきぬ

左右から上から鶯餅ながむ

こでまりや義足の犬に懐く犬

追ひ越さぬやう石鹸玉追つてをり

 

 

◇恋歌留多   福嶋すず菜

砂風呂に鱗の光る九月かな

追伸に本音のありて桐は実に

串カツを好む男や西鶴忌

白秋のオルガン深く踏み込みぬ

豊の秋危うき橋を迷ひなく

蜻蛉や小さき路地も名を持ちて

村長の派手に斬らるる村芝居

おまかせの髪型にして返り花

眉毛なき素顔も愛し根深汁

鯛焼の塩気について物申す

雪吊りの締めの一本宙に舞ひ

笹鳴や宿の枕の固さうな

狐火に蔵の大戸を放ちけり

戒名に好きな字ばかり室の花

妹も姉も取らざる恋歌留多

 

◇雪に問ふ   笠原小百合 

冬ざれや片足立ちの鶺鴒来

幻聴でもいい山茶花はまだ散らず

しぐれては錆のこゑもて応へたり

綿虫が笑ふ笑はぬわたくしに

剥製の姿正しく小春凪

てのひらをしぶしぶ歩く冬の蠅

ミンチつめたし指の間をあふれ出し

雨の日も兎は鳴かずエビリファイ

寒鴉月光の木を塒とす

クリスマスツリーの鈴は鳴らぬ鈴

好きなだけ着ぶくれてゐる夜の渇き

あきらめの青い窓なり霜の花

水死んでゐるか蘆原枯れ尽し

口癖も髪もコートも昏き色

雪の日に生まれしことを雪に問ふ

 

 

◇真空管   阿部季縁

ペン先の詰まり溶けだす春の宵

余寒より迷ひ込みたりジャズの昼

春の鳥飛ぶかとみえて地を歩み

ふいに聞くなれの出立鐘霞む

草餅やラジオの奥に声かけて

引き出しに山廬の栞竹の秋

山吹と畳残して家仕舞

不慣れなる事を収めて黄木蓮

紙見本飽かず繰りけり菜種梅雨

原つぱは突つ切るものぞ夏薊

破るるを知らぬ風船葛かな

待宵の真空管に目を凝らし

モルタルの足形乾く湯冷めかな

三平汁骨を大きく盛りにけり

杣の山刳りて深し冬の川

 

◇眠る兎   髙田礁湖

活躍のまばゆき友や花菜漬 

逃水に濡れしランナー近づき来

助手席に目ざめ淡海は飛花落花

若鮎のしつぽこんがり天を指す

革靴に皺さだまりぬ今朝の夏

薔薇園や架空の国にゐるつもり

白シャツの肩叩き合ふ夜市の灯

天女いま夏の鷗と化すところ

レプリカの美術館より薄野へ

りんご剥くゆるき螺旋を揺らしつつ

暗幕をこぼれくる陽よ文化祭

束の間の港にはしやぐ秋燕 

初雪の街を吸ひこむ煙草かな

冬ざれや翼やすらふ駐機場

ささやいて眠る兎の耳立たす

  

 ◇ひとつかみ   花島照子

耳打ちを蜂の巣はまだすこし先

石鹸玉ねむらせる気のない椅子へ

手を洗う水や日向に雉もいて

言い漏らす柳の芽から次々に

ジャム舐めて五月ちっちゃい皿に匙

桃はみなかがやく螺子を夢にみる

青嵐みひらくと目のまるいひと

しゃべらない二時とつりあうハンモック

野葡萄の奥にふれたい幼稚園

健康の森へと月がずれてくる

もうねむる夜食の皿は木のお皿

白鳥やゼムクリップをひとつかみ

ストーブに顔はこちらの方を向く

日脚伸ぶバックパックは軽いのに

あやとりの箒透けるや枇杷の花

  

 ◇ごっこ   髙田祥聖

将来の夢に目刺と書いており

春キャベツたぢたぢ運命じゃないもんね

言われてみれば結婚願望ない夜桜

トムヤムクンふたつめのムが春の夢

蛙の目借りどきたまに不安な七の段

ねむいって言い出せなさそうな噴水

日向水Whyの寝惚けて浮く感じ

刺すことが箸の本懐パイナップル

爽やかにチューインガムは飲み込む派

スポーツの日の快晴が不正解

いちじくに仕事まる投げして眠る

発酵というか着膨れというか

木の葉髪もはや生き様なる遅刻

ポインセチア赤すぎだいたい自分のせい

三が日ずっと無人島ごっこ

 

◇ぽんかん   滝口然

生ビール寝ても覚めても良い写真

ガレージに干されてゐたるトマト缶

舟涼し誘導員に会釈して

託児所の手描きのダーツ菊日和

休日出勤川べりに萩混じり

星飛んでマクドナルドの百年史

腕章を見せて枯野に入りけり

煙突も梯子も細き秋の暮

ぽんかんや二秒で脱げる館内着

大寒の部屋いつぱいの静電気

寒鱈汁暗算早き人とゐて

電球の細き神経猫柳

特急の窓に春闘らしきもの

龍天に登り七味の胡麻詰まる

濡らされし面より切手かぎろへる