✨村上鞆彦賞
からだ 市原みお
はりはりと如雨露の底の薄氷
冴返るならむ時計の中の鳩
春蟬や生麦生米演劇部
灯涼し酔へば歌へる師のありて
卵手に取れば朝来る冷蔵庫
流し場の下に梅酒の闇のあり
麻を着て十指いづれも肉薄く
初秋や手の甲に見る紅の色
水澄みてかぷかぷ回るものが見ゆ
秋草やばらけはじめし持久走
底浅き花をうつりて秋の蝶
閉経へ傾くからだ花柊
風呂吹や星の少なき町に住み
背中合はせに毛糸編むひととをり
手に残る辞書の重さや冬至の湯
✨西村麒麟賞
春のいろ 綾竹あんどれ
丸皿の縁のふくらみ春の雪
風船も乗せ海行きのバスとなる
水温むさかしまに木をつつく鳥
迷ひ来て朧の家のベル鳴らす
むず痒く海胆のうごくを見てゐたる
アネモネの一輪窓のなき楽屋
通話せり雫のやうな春の灯に
指先に舐めとる砂糖サイネリア
永き日の相槌の間の似てきたる
寄居虫のさばしる床に置かれては
春の宵カシューナッツの割れやすき
ぶらんこを漕いでうつすら口開いて
じわじわと寄るよ蛙の正面へ
笑ひたるままに歩いて春田まで
ヘリオトロープ楽団の来る朝
✨鴇田智哉賞
人の頭 森田秋津
頭山みたいな話春の宵
桜から桜に渡る跨線橋
飛花落花蹴散らしてをる愛その他
暮れの春水面に上がる心地して
われもまた緑となりて夏に入る
向うから件の来たる夕若葉
短夜に雨の通つたやうな気も
あらば買ふダークマターといふ香水
昨日まで人魚の国にゐた金魚
その手から鬼灯出しぬ秋日傘
落花生割つて火星に行くと云ふ
人の頭こんなに重くそぞろ寒
ちさき猫わたしにちようどよい冬日
狐火が玻璃戸に映り大き家
知らしめよ狼ここにをりしこと
✨奨励賞
◇懐く犬 紺乃ひつじ
手をかぶせつつ虫籠の蓋開けぬ
翅へ青およぶ塩辛蜻蛉かな
絡まつて水引に色濃きところ
秋風やこけしの罅の毛羽立てる
ことわつておく無花果の熟れ具合
落葉踏むよ落葉踏むよと声に出し
ひとりづつ参る鎮守や冬珊瑚
こつそりと募るサンタのアルバイト
去年今年なますのうへしたをかへす
珈琲淹れなほす寒夜の天動説
己が雪にまへがみ濡るる雪女
春ショールかき寄せて絵に近づきぬ
左右から上から鶯餅ながむ
こでまりや義足の犬に懐く犬
追ひ越さぬやう石鹸玉追つてをり
◇恋歌留多 福嶋すず菜
砂風呂に鱗の光る九月かな
追伸に本音のありて桐は実に
串カツを好む男や西鶴忌
白秋のオルガン深く踏み込みぬ
豊の秋危うき橋を迷ひなく
蜻蛉や小さき路地も名を持ちて
村長の派手に斬らるる村芝居
おまかせの髪型にして返り花
眉毛なき素顔も愛し根深汁
鯛焼の塩気について物申す
雪吊りの締めの一本宙に舞ひ
笹鳴や宿の枕の固さうな
狐火に蔵の大戸を放ちけり
戒名に好きな字ばかり室の花
妹も姉も取らざる恋歌留多
◇雪に問ふ 笠原小百合
冬ざれや片足立ちの鶺鴒来
幻聴でもいい山茶花はまだ散らず
しぐれては錆のこゑもて応へたり
綿虫が笑ふ笑はぬわたくしに
剥製の姿正しく小春凪
てのひらをしぶしぶ歩く冬の蠅
ミンチつめたし指の間をあふれ出し
雨の日も兎は鳴かずエビリファイ
寒鴉月光の木を塒とす
クリスマスツリーの鈴は鳴らぬ鈴
好きなだけ着ぶくれてゐる夜の渇き
あきらめの青い窓なり霜の花
水死んでゐるか蘆原枯れ尽し
口癖も髪もコートも昏き色
雪の日に生まれしことを雪に問ふ
◇真空管 阿部季縁
ペン先の詰まり溶けだす春の宵
余寒より迷ひ込みたりジャズの昼
春の鳥飛ぶかとみえて地を歩み
ふいに聞くなれの出立鐘霞む
草餅やラジオの奥に声かけて
引き出しに山廬の栞竹の秋
山吹と畳残して家仕舞
不慣れなる事を収めて黄木蓮
紙見本飽かず繰りけり菜種梅雨
原つぱは突つ切るものぞ夏薊
破るるを知らぬ風船葛かな
待宵の真空管に目を凝らし
モルタルの足形乾く湯冷めかな
三平汁骨を大きく盛りにけり
杣の山刳りて深し冬の川
◇眠る兎 髙田礁湖
活躍のまばゆき友や花菜漬
逃水に濡れしランナー近づき来
助手席に目ざめ淡海は飛花落花
若鮎のしつぽこんがり天を指す
革靴に皺さだまりぬ今朝の夏
薔薇園や架空の国にゐるつもり
白シャツの肩叩き合ふ夜市の灯
天女いま夏の鷗と化すところ
レプリカの美術館より薄野へ
りんご剥くゆるき螺旋を揺らしつつ
暗幕をこぼれくる陽よ文化祭
束の間の港にはしやぐ秋燕
初雪の街を吸ひこむ煙草かな
冬ざれや翼やすらふ駐機場
ささやいて眠る兎の耳立たす
◇ひとつかみ 花島照子
耳打ちを蜂の巣はまだすこし先
石鹸玉ねむらせる気のない椅子へ
手を洗う水や日向に雉もいて
言い漏らす柳の芽から次々に
ジャム舐めて五月ちっちゃい皿に匙
桃はみなかがやく螺子を夢にみる
青嵐みひらくと目のまるいひと
しゃべらない二時とつりあうハンモック
野葡萄の奥にふれたい幼稚園
健康の森へと月がずれてくる
もうねむる夜食の皿は木のお皿
白鳥やゼムクリップをひとつかみ
ストーブに顔はこちらの方を向く
日脚伸ぶバックパックは軽いのに
あやとりの箒透けるや枇杷の花
◇ごっこ 髙田祥聖
将来の夢に目刺と書いており
春キャベツたぢたぢ運命じゃないもんね
言われてみれば結婚願望ない夜桜
トムヤムクンふたつめのムが春の夢
蛙の目借りどきたまに不安な七の段
ねむいって言い出せなさそうな噴水
日向水Whyの寝惚けて浮く感じ
刺すことが箸の本懐パイナップル
爽やかにチューインガムは飲み込む派
スポーツの日の快晴が不正解
いちじくに仕事まる投げして眠る
発酵というか着膨れというか
木の葉髪もはや生き様なる遅刻
ポインセチア赤すぎだいたい自分のせい
三が日ずっと無人島ごっこ
◇ぽんかん 滝口然
生ビール寝ても覚めても良い写真
ガレージに干されてゐたるトマト缶
舟涼し誘導員に会釈して
託児所の手描きのダーツ菊日和
休日出勤川べりに萩混じり
星飛んでマクドナルドの百年史
腕章を見せて枯野に入りけり
煙突も梯子も細き秋の暮
ぽんかんや二秒で脱げる館内着
大寒の部屋いつぱいの静電気
寒鱈汁暗算早き人とゐて
電球の細き神経猫柳
特急の窓に春闘らしきもの
龍天に登り七味の胡麻詰まる
濡らされし面より切手かぎろへる
