相続の基礎知識

【法定相続人】
 被相続人が亡くなった際に、残された遺産を相続する権利がある人のことを「法定相続人」といいます。
 民法によって、被相続人とどのような関係であれば法定相続人となりうるのかが定められています。

 

◆常に法定相続人…配偶者
 被相続人の配偶者は、常に法定相続人になります。
 ただし、事実上、内縁関係であっても、婚姻関係がない場合は相続権が認められません。
 配偶者にプラスして、以下の順番で相続権が認められます。
 第2、3順位は、上の順位がいない場合に限り、法定相続人となることができます。


◆第1順位…直系卑属(子、孫等)
 第1に相続権を認められているのが、被相続人の子どもです。
 実子、養子問わずに法定相続人となることができます。
 また、胎児も相続においては子どもとみなされ、相続権が認められています。


◆第2順位…直系尊属(父母、祖父母等)
 直系卑属がいない場合、次に相続権が認められるのが、被相続人の両親です。
 親がすでに死亡している場合は、その親(=被相続人の祖父母)が相続することができます。


◆第3順位…兄弟姉妹
 直系卑属、直系尊属がいない場合、次に被相続人の兄弟姉妹が相続権を得ることができます。
 すでに死亡している場合は、その子ども(=被相続人の甥、姪まで)が代襲相続します。

 

※ 相続人の順位は上記のとおりですが、被相続人と相続人の亡くなった順番によって相続人の範囲が変わってくることがあります。
 たとえば、父Aと母Bの間に長男Cと長女Dがあり、長男Cには妻Eと子Fがいたとします。被相続人の父Aの死亡の前に長男Cが死亡していれば、相続人は母B、長女Dと長男Cの代わりに子Fが相続人になります(代襲相続といいます)。
 これとは逆に、父Aが死亡したにもかかわらず長年登記をしなかったことにより、その後に長男Cが死亡(数次相続といいます)すれば、長男Cは父Aの死亡の時点で一旦相続人となっているので、妻Eも長男Cの相続人となります。
 このように、被相続人の死亡の後に相続人が亡くなっている場合は、相続人の範囲が広がるので注意が必要です。

 

(代襲相続)
 被相続人の死亡前に、相続人たる子または兄弟姉妹が死亡していたり、相続欠格または廃除によって相続権を失っているときは、その相続人の子が代わって相続人になります。

 

(数次相続)
 相続の発生によって土地・建物の権利を取得した場合、即時に登記をしなければならないというものではありませんが、登記をしないで長年放置しておくことにより、やがてその相続人の死亡により新たな相続が発生することになります。これを数次相続といいます。

 

【法定相続分】
 相続できる財産の割合は、配偶者がいるか、第何順位の人が相続人になるかなどによって変わります。
 相続人が配偶者と子(第1順位)の場合        1:1
 相続人が配偶者と親(第2順位)の場合        2:1
 相続人が配偶者と兄弟姉妹(第3順位)の場合           3:1

 

【遺産分割協議】
 人の死亡と同時に相続は発生し、被相続人の財産は共同相続人の共同所有という形になります。ですから誰がどの財産をどのくらい相続するのか、相続人全員で話し合って確定しなければ、原則として財産は各相続人の自由になりません。
 この話し合いを遺産分割協議と言い、相続人間で合意した内容を書面にしたものが遺産分割協議書です。財産の名義変更等の手続きにおいて、添付書類として必要となります。 
 また、相続人の中に未成年者、判断能力に欠ける認知症の方、行方不明者がいる場合は、家庭裁判所に特別代理人、成年後見人、不在者財産管理人を選任してもらい、その代理人が遺産分割協議に参加することになります。
 相続人の間で協議が調わないない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。そして、調停が成立しなかった場合、審判手続きに移行することになります。さらに審判に不服があれば、今度は訴訟で争うことになります。
 なお、遺言書がある場合でも、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容と抵触する遺産相続も可能です。

 

【遺産分割の方法】
◆現物分割
 各相続人が具体的に相続する財産を決める方法です。
 「Aが△△所在の土地建物」、「Bが◎◎銀行の定期預金全部」、「Cが××会社の株式全部」と言うように、引き続き財産の形を変えずに相続します。但し、金額の均一が難しいので、少ない人に対してはなんらかの形で補うなど充分な話し合いが必要になります。
 なお、後述する「特別受益」や「寄与分」も考慮する必要があります。

 

◆換価分割
 相続財産を売却し、現金にしてから各相続分に応じて分割する方法です。金銭化するので均一に分けやすいのですが、現金化することのデメリットもあります。不動産や株などの価格は常に変動していますし、売却で税金の問題も生じてきます。

 

◆代償分割
 代償分割が行なわれるのは、相続人全員が納得するような遺産分割が難しいようなケース、たとえば遺産が分けにくいものである場合です。
 遺された財産が現金や預金であれば、平等に法定相続分の割合で分ければよいでしょう。しかし、特定の相続人が居住している建物のように、分割して相続すると不都合なものもあります。このような場合、居住している相続人が土地・建物を取得し、その代わりに財産を取得しなかった相続人に対して、金銭や自己の固有の財産を提供するという遺産分割の方法を代償分割といいます。

 

◆共有分割
 相続人全員で共有することで遺産分割をする方法です。不動産などを各持分で登記するので土地や建物を売らなくて済みますが、処分する時に共有者全員の協力が必要になるなど、手続きが煩雑になります。

 

【遺言書の種類】
◆自筆証書遺言
 自筆によって決められたルール(本人の署名・押印、正確な作成日付など)さえ守れば気軽に作成でき、費用もほとんどかかりません。しかし、パソコンで作成したり、大きな間違いがあったりすれば無効になります。 また、遺言書を書いた後に紛失したり、変造されるという事態も考えられます。
 遺言者の死後、遺言書を家庭裁判所に持参し、相続人や代理人立会いのもとで開封し、検認を受けなければいけません。ちなみに、遺言書を見つけて勝手に開封すると5万円以下の過料が科せられます。
 そして、検認を受けて開封したとしても相続人や受遺者の名前や不動産の表示、持分割合等について間違いがあったり、不明確で特定できない場合は無効となることもあります。

 

◆公正証書遺言
 遺言者が証人2人と立会いのもとで公証人役場の公証人に口述し、筆記してもらった後に全員が署名、押印することにより作成されます。その原本は公証人役場に20年間保管されます。
 もし、病床にあり公証人役場に出向くことができない場合、費用はかかりますが、公証人に出張してもらうことも可能です。
 公証人役場での手続きが必要となり、費用(手数料)も発生しますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言のように検認手続きは不要です。

 

【相続と不動産登記】
 相続登記は期限が定められていないことと、相続人等が固定資産税さえ支払っていれば特段問題を生じないことから、中には二代、三代にわたってそのまま放置している方もおります。
  しかし、亡くなった人の名義のままでは、不動産を処分(売却、贈与等)することも、担保に入れることもできません。いざ売却する話がまとまったり、銀行からお金を借り担保として提供する場合でも、まずは相続登記をしなければなりません。
  また、相続登記を長年放置している間に、さらに相続人が死亡して新たな相続が発生し、相続人が増えて権利が複雑化してしまうなどの事態が発生すると、話がまとまりにくくなったり、中には行方不明の相続人がいるため遺産分割協議ができないこともあります。こうなると、時間と費用と労力もかさむようになりますので、相続登記は、早めに確実に終わらせておくことが重要です。

 ブログ参照 なぜ、60年以上前に離婚した元妻に相続権が!?

 ブログ参照 130年ぶりの名義変更登記完了!

 ブログ参照 相続人多数かつ行方不明者で相続登記を断念

 

【相続登記の概略】
◆遺産分割協議による登記
 まず相続人全員で協議して不動産を相続する者を決め、その内容を記載した遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押印します。これは、話し合いの結果その相続人がその不動産を相続し、相続人全員がそれを認めたことを証明するためのもので、印鑑証明書を添付して登記申請します。

 

◆遺言書による登記
 自筆証書遺言がある場合、まず家庭裁判所へ遺言書検認申立をし、家庭裁判所で相続人立会いのもと開封します。これが終わればその遺言書に検認済証明書が付されて返却されます。
 遺言書の内容にその不動産を相続させる者や相続分が指定されてあって、その内容に従い相続登記をする場合は、検認が済んだその遺言書(検認済証明書付)を登記原因証明情報として添付し登記申請します。なお公正証書遺言である場合、検認の必要はありません。

 

【相続放棄など】
◆相続放棄
 被相続人の財産の一切の承継を放棄することです。相続の開始後は、3か月の考慮期間内に家庭裁判所に申立てることによって相続の放棄をすることができます。相続の放棄をすると、その者は最初から相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。その結果、相続の欠格・廃除などでは認められていた代襲相続も、相続放棄の場合には認められません。

 

◆限定承認
 限定承認とは、被相続人から相続する債務などを弁済する責任が、相続する財産の範囲に限定されるといったものです。つまり、限定承認をすれば、相続した財産だけでその債務を完済できない場合でも、相続人自身の財産でもってその不足分を支払う必要はなくなるのです。

 

◆推定相続人の廃除
 廃除とは、相続人になる予定の人に相続させないようにする制度です。相続人になる予定の人に被相続人へ虐待や重大な侮辱や推定相続人の著しい非行がある場合に、家庭裁判所の関与のもとに廃除が認められれば、その人の相続権は失われます。

 

◆相続人の欠格事由
 被相続人や先順位の相続人を殺害したり、殺害しようとした者、またはその行為を知っていて告訴しなかった者などが、民法上、当然に相続人の地位を失うことです。
 また、詐欺や脅迫により遺言書を書かせたり、自分に不利な内容の遺言書だからといって遺言書を破棄したり偽造しても欠格事由になります。

 

【相続人の不存在】
 相続は開始したが、相続人がいるかどうかわからない状態をいいます。いることは確かだが、所在がわからないという場合は、相続人不存在とはいいません。相続人が不存在の場合には、相続財産を一時相続財産法人とし、家庭裁判所で選任した管理人が相続債権者および受遺者に対して精算手続きを行います。こうして精算した後に残った財産は、特別縁故者への分与あるいは国庫への帰属ということになります。

 

【遺留分】
 一定の相続人のために法律上必ず留保しなければならない相続財産の一定部分のことで、死者の財産に依存して生活している一定の相続人の生活を保障するためのものですが、実体上、遺留分に反する登記も受理されます。兄弟姉妹には遺留分がなく、直系尊属のみが相続人であるときは相続財産の3分の1、その他の場合は2分の1になります。
 なお、遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を侵害している受遺者や受贈者、あるいは他の相続人に対してその侵害額を請求することができます。これを遺留分減殺請求といいます。遺留分が侵害されている者は、自分自身が減殺請求してはじめて遺留分を取り戻すことができるので、請求しなければ遺贈等を受けた者がそのまま財産を取得することになります。

 

【特別受益】
 特別受益、寄与分どちらも相続財産の分割において、共同相続人間で実質的公平をはかるものです。
 共同相続人の中のある人が、被相続人から遺贈を受けたり、結婚、養子縁組のため、または生計の資本として生前贈与を受けた財産を「特別受益分」といい、この特別受益分をも配慮して分割協議を行います。

 

【寄与分】
 相続人の中には、被相続人の生前にその財産の形成または維持に貢献した者もあれば、何もしなかった者もあります。相続人の被相続人に対する財産形成の貢献度合いを寄与分といい、実質的公平を図るための制度です。

 

【特別縁故者】
 相続人不在で相続財産がある場合は、これらの人々にも家庭裁判所が相続財産を分与できることになっています。その対象となる人を特別縁故者といいます。内縁配偶者や事実上の養子等が該当します。


 
【相続と税金】
 平成27年1月1日から、遺産に係る相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられました。
 改正後は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となりましたので、以前より課税される人がかなり多くなっていると思われます。
 相続税の申告をする必要がある場合には、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告を納税をする必要があります。
 なお、売買や贈与と違い、不動産取得税は相続による取得には課税されません。