第1期修了生の声(佐藤和幸さん)
「料理人としての信念を、自分の店で貫きたかった。」
― 鳴海・有松創業道場第1期修了生 とんかつ和佐 佐藤和幸さん ―
令和7年度、鳴海商工会では新たな創業支援事業として「鳴海創業道場」を開講しました。
複数回の講座とグループワークを通じて、創業に必要な知識だけでなく、地域で挑戦する仲間とのつながりづくりも目指した本事業。第1期には11名が参加し、全員が修了。そのうち3名が修了後に創業を実現しています。
今回はその一人であり、令和8年2月に昭和区御器所で「とんかつ和佐」を開業した佐藤和幸さんに、創業までの歩みやお店への想い、そして創業道場で得たものについてお話を伺いました。
「一つ一つ心を込めて作る」――料理人としての原点
――なぜ、とんかつ店を開こうと思ったのですか。
「もともとは馬やログハウスが好きで、若い頃はログハウスを建てる職人になりたいと思っていました。
北海道を放浪していた時期もあって、その時に牧場へ飛び込んで働かせてもらったんです。」
当時、佐藤さんは牧場でコックとして働いていました。
その牧場では、レストランで提供するハムやソーセージのために豚を育て始めており、やがてその豚は、小山薫堂氏のアドバイスを受けながら「どろ豚」というブランド豚へ発展していったといいます。
「“食材に本気で向き合う”という感覚は、あの頃の経験が大きいですね。」
その後、生まれ故郷の福島県へ戻り、偶然働くことになったのがとんかつ店でした。
しかし結婚し、家族を支える立場となる中で、より安定した収入を求め、高齢者向け給食を製造する企業へ転職。以来19年間、セントラルキッチンの現場に携わることになります。
「当時の社長、今の会長から言われた言葉が今でも忘れられないんです。」
> 『大量調理の中の一つ一つが、それを食べるお年寄りの最後の食事になるかもしれない。その想像力を持って作れ。』
「その言葉は、自分の料理人としての根っこになっています。」
会社の成長とともに、佐藤さん自身も管理職としてマネジメント業務を担うようになりました。しかしその中で、“一つ一つ心を込めて作る”という信念を、多数の現場へ徹底する難しさを感じるようになったといいます。
「もちろん会社には感謝しています。でも最終的には、自分自身の手で、自分の信念を込めた店をやりたいと思うようになりました。」
さらに、腎臓移植を必要とする病気を経験し、長期入院したことも人生を見つめ直す大きな契機となりました。
「“いつか”じゃなく、“やるなら今だ”と思ったんです。」
「思想に共感できる生産者の豚を使いたい」
――お店のこだわりを教えてください。
「ブランド豚ですね。9種類くらい食べ比べて、納得できるものを選びました。」
ただ“おいしい”だけではありません。抗生物質や成長ホルモンに頼らない飼育であること。
さらに、生産者の考え方や姿勢に共感できることも重視しているといいます。
「食べ物って、その背景も含めてお客さんへ届くものだと思っているんです。」
創業道場で得たのは「知識」と「仲間」
[成果発表会の様子(左)、修了式(中)、経営道場との合同懇親会(右)]
――創業道場に参加してみてどうでしたか。
「料理のことしか知らなかったので、青色申告と白色申告の違いすら分からなかったんですよ。」
創業に必要な各種手続き、資金計画、商圏分析、AI活用――。
学ぶことはどれも新鮮だったと佐藤さんは振り返ります。
「今ではChatGPTが相談相手ですね(笑)」
一方で、佐藤さんが“本当に大きかった”と語るのは、人とのつながりでした。
「同期の存在ですね。」
創業道場終了後もLINEグループで交流が続き、情報交換や相談を行っているほか、成果発表会後には自主的な打ち上げも開催。開業後には多くの同期が店舗を訪れたといいます。
さらに、お店で扱っているブランド豚「保美豚」は、創業道場の同期生から畜産農家を紹介されたことがきっかけで取り扱いが実現しました。
「創業道場に参加していなかったら、今の店は少し違った形になっていたと思います。」
「このロゴ、道場の同期が作ってくれたんです」
店の入口で目を引く、和傘と太陽をモチーフにした印象的なロゴ。
実はこれも、創業道場同期のデザイナーが制作したものです。
「創業道場に参加した頃から、“この人とは何か縁がありそうだな”って直感的に感じていたんですよ。」
講座や打ち上げを通じて交流を重ねる中で、開業準備の段階になり、真っ先にロゴ制作を依頼したいと思い浮かんだのが彼だったといいます。
「飲食店って、ただお腹を満たすだけの場所じゃないと思うんです。」
腹立たしい出来事があって、やけ食いに来る人。
大切な人を亡くし、食欲を失った後、ようやく食事に来る人。
さまざまな人生を抱えたお客さんが店を訪れる。
「そんなお客さんに寄り添って、少しでも心安らぐ時間を提供したい。」
その想いを伝えたところ、和傘でお客さんを優しく包み込むイメージと、温かく晴れやかな心を表す太陽を組み合わせたロゴが提案されたそうです。
「しかも同期価格で割引までしてくれました(笑)」
開業して分かった「現実」
――開業から1か月(取材時)。苦労していることはありますか。
「来店数の波ですね。」
ほとんど売上のない日もあれば、長時間待ちが発生する日もある。
肉の在庫管理も難しく、品質を維持するため常に神経を使うといいます。
当初26席でスタートした店内も、現在はサービス品質維持のため一部座席を減らし、夫婦二人で切り盛りしているそうです。
また、新規開店後には営業電話が次々とかかってくることにも驚いたといいます。
「創業すると本当に色んな営業が来ますね(笑)」
さらに開店直後には、SNSで新店舗を紹介するインフルエンサーが来店。しかし、投稿内容に事実と異なる部分が多く困惑した経験もあったそうです。
「情報発信との付き合い方は、これから創業する人にも伝えたいですね。」
「人の縁が、創業後に効いてくる」
――これから創業を目指す方へメッセージをお願いします。
「講座内容ももちろん勉強になりました。でも、自分にとって一番大きかったのは“人との縁”ですね。」
創業後、孤独になりがちな時期に、同期とのつながりが支えになった。
それは佐藤さんにとって、創業道場の大きな価値だったといいます。
「開業してから分かることって本当に多いんです。だからこそ、同じように挑戦する仲間がいるのは大きいですよ。」
最後に、「いつか鳴海・有松創業道場の先輩として登壇してください」と声を掛けると、佐藤さんは笑いながらこう答えてくれました。
「その時まで店を続けられるよう頑張ります。」
とんかつ和佐(名古屋市昭和区緑町3-8) 公式HP
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鳴海商工会では、知識習得だけでなく、地域で挑戦する仲間とのつながりづくりも大切にしながら「鳴海・有松創業道場」を開催しています。








