異世界Reboot 小説版
――勇者ではなく、行程表で老いた王国を再起動する――
はるきReboot事務所の考え方を、異世界の王国を舞台にした読み物として再構成した物語です。
第9章では、町の現在地をもとに、ハルキが「王国Reboot行程表」を作り、止まっていた町を動かす順番を示していきます。
第9章 町全体のReboot行程表
翌朝、長老会の建物は静かだった。
いつもの怒鳴り声がない。机の上には、大量の紙が並んでいた。
人口、畑、空き家、橋、食料、種、街道、若者、魔導炉。この町にあるもの。足りないもの。使われていないもの。そして、見えなくなっていたもの。
ハルキはその中央に立ち、大きな紙を壁に貼った。
リオが首をかしげる。
「何だこれ?」
ガルドも目を細めた。
「地図か?」
ハルキは首を振った。
「違います。行程表です」
紙の上には、大きくこう書かれていた。
王国Reboot行程表。
その下には、目的が書かれている。
食べる。住む。動く。交換する。伝える。守る。
部屋が静かになった。
「この町は、力がなかったわけではありません」
ハルキは長老たちを見た。
畑もある。道もある。空き家もある。人もいる。技術もある。無限エネルギー炉もある。
「止まっているのは、能力ではなく、順番かもしれません」
部屋がさらに静かになった。
誰も笑わなかった。誰も怒鳴らなかった。
「王様、橋、畑、若者、食料、通信、市場。全部大事です。でも、全部を同時に解決しようとすると、何も動きません。だから順番を決めます」
ハルキは一番上に丸を書いた。
①掃除する。
全員が固まった。
「……は?」
リオが思わず声を漏らす。
「まず掃除です」
長老の一人が立ち上がった。王位継承はどうする。種はどうする。獣の被害は。橋は。
ハルキは落ち着いて答えた。
「全部、大事です。でも、まず掃除です」
ガルドが低い声で聞いた。
「なぜだ」
「見えないからです」
ハルキは行程表を指差した。
草で道が見えなかった。荷物で倉庫が見えなかった。記録が散らかっていた。空き家も、誰のものか分からなかった。食料が何日分あるのかも、種がどれだけ足りないのかも、分かっていなかった。
「何があるか分からない。何が使えるか分からない。何を捨てるべきか分からない。だから最初は掃除です」
リオが笑った。
「そんなので変わるのか?」
ハルキは即答した。
「変わります」
そして、行程表に次々と書き込んでいった。
道を確認する。草刈り、旧街道確認、崩れた橋の確認、地図作成。
倉庫整理。何があるか確認し、壊れている物、使える物、本当に必要な物を分ける。
空き家確認。住める家、修理が必要な家、開拓者住宅の候補を分ける。
食料と種。食料残量、種購入、畑確認、作れる人の確認。
人の役割。若者へ役割を渡し、老人は知恵袋になり、開拓者チームを作る。
無限エネルギーの利用。水路、保存庫、工房、通信。
そして最後に、ルール作り。王待ち、王様探しをいったん止める。合意で決定する。役割を明確にする。
書き終えた時、部屋は静まり返っていた。
しばらくして、リオが言った。
「……王様は?」
「後です」
「え?」
「王様を決めても、畑は増えません。橋も直りません。食べ物も増えません。若者が戻るわけでもありません。町が動くとは限りません」
ハルキは行程表を見た。
「王様より先に、Rebootです」
ガルドは紙を見ていた。何も言わない。ずっと見ていた。
やがて、小さくつぶやいた。
「……掃除か」
「はい」
「そんな所から始まるのか」
ハルキは少し笑った。
「大体そうです」
窓の外で風が吹いた。
草が揺れる。遠くで見えなかった石畳が、また少し見えた。
道は、消えたわけではなかった。
見えなくなっていただけだった。

