お知らせ

2026-05-05 14:13:00
第8章 昔の値段では、未来の畑は買えない

異世界Reboot 小説版

――勇者ではなく、行程表で老いた王国を再起動する――

はるきReboot事務所の考え方を、異世界の王国を舞台にした読み物として再構成した物語です。

第8章では、町の現在地を確認するための「Reboot診断書」が形になり、金貨では買えない未来の問題が見えてきます。

第8章 昔の値段では、未来の畑は買えない

長老会の建物は、いつになく騒がしかった。

机の上には、紙が山のように積まれていた。種の見積書、食料在庫、倉庫一覧、畑の地図、空き家の記録。そして、セドリック爺が徹夜でまとめた資料。

「全部集まりましたか?」

ハルキが聞くと、セドリック爺は疲れた顔でうなずいた。

「何とか……町全体の状況だ」

リオが紙をのぞき込む。

「何これ。頭痛くなるやつ?」

「現在地です」

ガルドが眉をひそめた。

「現在地?」

ハルキは机の上に紙を並べ始めた。

人口は約千人。そのうち六十五歳以上が九百五十六人。十八歳から六十四歳までが三十六人。子どもは八人。

食料備蓄は約二年半分。来年使える種は、ほぼ無し。使用可能な空き家は百二十七件。旧街道は使用可能か不明。橋は崩落確認済み。

誰も、すぐには声を出せなかった。

「整理すると、この町は今すぐ終わるわけではありません」

長老たちが、少しだけ安心した顔をする。

「ですが、三年後は分かりません」

空気が重くなった。

「食料は今あります。金貨もあります。でも、作る力が減っています。若者も減っています。種もありません。このままだと、数年後、この町は買うしかない町になります」

ガルドは低く言った。

「……食料は買える」

「今は」

「金貨はある」

「今は」

ガルドが黙った。

ハルキは次の紙を広げた。北の農業国家グランベルからの見積書。春まき種一式、通常価格の百倍。

また部屋がざわついた。

高すぎる。ありえない。昔は銀貨一枚だった。ふざけている。

ガルドも怒鳴った。

「百倍など払えるか!」

ハルキは静かに聞いた。

「払わない場合は?」

誰も答えない。

「種が無ければ? 来年の畑は? 再来年は?」

沈黙が続いた。

ハルキは窓の外を見た。遠くの畑、空き家、老人たち。

「高いのは分かります。でも、これは食料の値段じゃありません」

見積書を持ち上げる。

「未来の畑の値段です」

長老たちが止まった。

「しかも、調べて分かりました。グランベルは、ただ足元を見ているわけではありません」

セドリック爺が資料を出した。

「向こうにも、向こうの事情があります」

リオが聞き返した。

「事情?」

ハルキはうなずいた。

「たぶん、向こうも余裕がないんです」

ガルドが座ったまま言った。

「……向こうも苦しいのか」

「はい。この値段は、こちらを困らせるためだけの値段じゃない。向こうが生き残るための値段でもあります」

リオは黙った。セドリック爺も目を閉じた。

その時、マーサ婆さんが後ろから言った。

「何だい。同じじゃないか」

全員が振り返る。

「この町も、向こうの国も、みんな困ってるだけだろ」

誰も反論できなかった。

ハルキは少し笑った。

「だから、奪い合うんじゃなくて、つながるんです」

風が吹いた。

机の上の紙が一枚めくれた。

そこには、ハルキが書いた文字があった。

Reboot診断書。

その下に、小さく書かれていた。

現在地:確認完了。


次回予告

第9章「町全体のReboot行程表」へ続きます。

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