異世界Reboot 小説版
――勇者ではなく、行程表で老いた王国を再起動する――
はるきReboot事務所の考え方を、異世界の王国を舞台にした読み物として再構成した物語です。
第8章では、町の現在地を確認するための「Reboot診断書」が形になり、金貨では買えない未来の問題が見えてきます。
第8章 昔の値段では、未来の畑は買えない
長老会の建物は、いつになく騒がしかった。
机の上には、紙が山のように積まれていた。種の見積書、食料在庫、倉庫一覧、畑の地図、空き家の記録。そして、セドリック爺が徹夜でまとめた資料。
「全部集まりましたか?」
ハルキが聞くと、セドリック爺は疲れた顔でうなずいた。
「何とか……町全体の状況だ」
リオが紙をのぞき込む。
「何これ。頭痛くなるやつ?」
「現在地です」
ガルドが眉をひそめた。
「現在地?」
ハルキは机の上に紙を並べ始めた。
人口は約千人。そのうち六十五歳以上が九百五十六人。十八歳から六十四歳までが三十六人。子どもは八人。
食料備蓄は約二年半分。来年使える種は、ほぼ無し。使用可能な空き家は百二十七件。旧街道は使用可能か不明。橋は崩落確認済み。
誰も、すぐには声を出せなかった。
「整理すると、この町は今すぐ終わるわけではありません」
長老たちが、少しだけ安心した顔をする。
「ですが、三年後は分かりません」
空気が重くなった。
「食料は今あります。金貨もあります。でも、作る力が減っています。若者も減っています。種もありません。このままだと、数年後、この町は買うしかない町になります」
ガルドは低く言った。
「……食料は買える」
「今は」
「金貨はある」
「今は」
ガルドが黙った。
ハルキは次の紙を広げた。北の農業国家グランベルからの見積書。春まき種一式、通常価格の百倍。
また部屋がざわついた。
高すぎる。ありえない。昔は銀貨一枚だった。ふざけている。
ガルドも怒鳴った。
「百倍など払えるか!」
ハルキは静かに聞いた。
「払わない場合は?」
誰も答えない。
「種が無ければ? 来年の畑は? 再来年は?」
沈黙が続いた。
ハルキは窓の外を見た。遠くの畑、空き家、老人たち。
「高いのは分かります。でも、これは食料の値段じゃありません」
見積書を持ち上げる。
「未来の畑の値段です」
長老たちが止まった。
「しかも、調べて分かりました。グランベルは、ただ足元を見ているわけではありません」
セドリック爺が資料を出した。
「向こうにも、向こうの事情があります」
リオが聞き返した。
「事情?」
ハルキはうなずいた。
「たぶん、向こうも余裕がないんです」
ガルドが座ったまま言った。
「……向こうも苦しいのか」
「はい。この値段は、こちらを困らせるためだけの値段じゃない。向こうが生き残るための値段でもあります」
リオは黙った。セドリック爺も目を閉じた。
その時、マーサ婆さんが後ろから言った。
「何だい。同じじゃないか」
全員が振り返る。
「この町も、向こうの国も、みんな困ってるだけだろ」
誰も反論できなかった。
ハルキは少し笑った。
「だから、奪い合うんじゃなくて、つながるんです」
風が吹いた。
机の上の紙が一枚めくれた。
そこには、ハルキが書いた文字があった。
Reboot診断書。
その下に、小さく書かれていた。
現在地:確認完了。
